世界で広がる「サステナブルファイナンス」の潮流
GX推進が新たなビジネスチャンスにつながる

<本記事は、2024年2月14日『東洋経済オンライン』に掲載された記事広告です>

気候変動による異常気象が地球規模の問題になって久しい。脱炭素経済への移行が急務な中、金融業界を中心に気候変動が企業活動に与える影響を可視化し、融資や投資を判断しようとする動きが活発化しているという。それを象徴するキーワードが「サステナブルファイナンス」。日本企業が抱える脱炭素への課題や、サステナブルファイナンスの概念と企業に及ぼす影響について、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの吉高まり氏に聞いた。

 

TCFDの波及で変革の兆しが強まる

 ――昨今、日本企業は気候変動問題を経営の重要課題として捉えるようになりました。各国と日本の進捗状況についてお聞かせください。

 吉高 金融安定理事会により設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の発足以降、企業が気候変動への取り組みを開示する機運が高まりました。日本でも2018年12月に経済産業省が「気候関連財務情報開示に関するガイダンス(TCFD ガイダンス)」を公表し、2019年5月に国内でTCFDコンソーシアムが設立され、TCFD提言には多くの日本企業が賛同しました。このように、この数年間で日本企業の経営における気候変動問題への対処は重要度を増しています。

 一方で、日本は例えばEV(電気自動車)で後れを取っており、化石燃料への依存度も高い状況です。欧州は炭素税の導入が進んでおり、早くから国や企業が温室効果ガスの排出枠を売買する排出権取引市場が形成され、その仕組みが企業の行動を後押ししています。欧米と比較すると、日本はそうした仕組みの整備が遅れていることは否めません。

 ――遅れを取り戻すためには、どのような変化が必要でしょうか。

 吉高 具体的な手段としては、企業に対する課税や補助金の導入などが考えられます。また、GX(グリーントランスフォーメーション)政策を前進させるためには、情報開示が不可欠です。例えば、企業の脱炭素投資を促進する政策として、炭素に価格を付けて経済的負担を課す仕組み(カーボンプライシング)の制度化が進んでいますが、実際に導入する場合、企業に定量的なデータがなければ、効果的な政策の実施が難しくなります。経済的な仕組みと情報開示の仕組みをセットで構築することで、効果的な対策が進むことが予想されます。
 

ESG達成度で金利が決まる新たな融資も

 ――国内では、サステナブルファイナンスへの関心が高まっています。この仕組みについて、ご解説いただけますでしょうか。

 吉高 サステナブルな社会づくりのために、経済市場の血脈である金融が寄与することをサステナブルファイナンスと呼んでいます。財政的なリターンだけでなく、環境や社会の利益を追求することで、経済活動全体をより持続可能な方向に持っていくことを目指す金融の仕組みです。具体的には、金融機関が環境や社会課題の解決のために役割を担い、企業の持続可能な発展を目的とした金融取引や投資のアプローチで利益を追求することを意味します。

 主に、ESGを投資判断に取り入れる「ESG投資」、環境に配慮したプロジェクト事業に資金を供給するために発行される債券「グリーンボンド」、資金の使途を限定するのではなく、企業が自社のサステナビリティ戦略と整合した目標「サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)」を設定し、SPTsの達成状況に応じてローンの金利条件等が変動する「サステナビリティ・リンク・ローン」などを含みます。

 とくに海外では、サステナビリティ・リンク・ローンが注目されています。現状に対して資金を出すのではなく、未来の状況によって金利が決まるので、ESGの取り組みの加速につながります。サステナビリティ経営の強化や企業価値の向上に効果が期待できる手法として、普及の兆しを見せています。

 なお、トランジションファイナンスと呼ばれるものがありますが、これは脱炭素移行の過程で発生する設備投資や技術導入などに資金を出すものです。資金使途がグリーンである必要はなく、企業が脱炭素に向けた移行戦略を定め、対象事業がその戦略と合致していることが要件として求められます。海外は雇用を守りながらカーボンニュートラルの経済に移行するジャストトランジション(公正な移行)を目指しているのに対し、日本はまずはエネルギートランジション(低炭素化・脱炭素化実現のためのエネルギー転換)の道筋を実装することに重きが置かれています。日本は島国ということもあり、エネルギーを補完し合えるEUとは考え方がやや異なることから、移行段階に必要な資金を出すという考え方に基づくトランジションファイナンスが普及しているという特殊な状況ではあります。

吉高まり 氏
三菱UFJリサーチ&コンサルティング
フェロー(サステナビリティ)
東京大学教養学部客員教授
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科講師(非常勤)
明治大学法学部卒。米国ミシガン大学環境・サステナビリティ大学院(当時:自然資源環境大学院)修了。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科?博士(学術)取得。IT企業、米国投資銀行等で勤務。2000年、三菱UFJモルガン・スタンレー証券(当時:東京三菱証券)入社、クリーン・エネルギー・ファイナンス委員会を立ち上げ。2020年5月三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。三菱UFJ銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券兼務。

世界で勢いを増すクライメートテック

 ――今後、日本でサステナブルファイナンスをより浸透させていくためには、どのような取り組みが必要だとお考えでしょうか。

 吉高 日本のサステナブルファイナンスは、今後もカーボンニュートラルを中心に進んでいくと思います。日本の大企業ではかなりサステナブル経営が浸透してきましたが、とくに地方の中小企業は後手に回っています。こうしたことにも関連しますが、環境省はカーボンニュートラル実現を先行して進める脱炭素先行地域を選定し、補助金を付与する審査を開始しました。これにより、日本各地の気候やニーズに応じたさまざまな再エネの取り組みを進めやすくなるので、地方の金融機関の企業評価基準も変化していくとみています。

 また、需要側のデマンドコントロール(消費電力量の計画的な調整)を強化する必要があります。近年、欧州ではクライメートテック企業が隆盛のため、テクノロジーを活用したデマンドコントロールが進展しており、これが再エネの導入や省エネ化を促進する一翼を担っています。日本はクライメートテックが遅れているといわれていますが、今後世界ではITと同じように、環境への取り組みが実体経済に組み込まれていくはずなので、クライメートテックの活用による課題解決は重要なポイントだと考えています。

 ――2024年2月に東京ビッグサイトで「第4回 GX経営WEEK【春】」が開催されます。 吉高さんの講演は、どのような内容を予定されていますか。

 吉高2023年に開催された「COP28」に参加しましたので、まずは現地のレポートをお伝えしたいと考えています。例えば、ドバイでは、メガソーラーを砂漠に設置して、グリーン水素を輸出するビジネスに巨額の資金が集まっていることがわかりました。

 また、世界からクライメートテックが集まっており、若く優秀な人材が活躍している様子がうかがえました。現在、東京大学や慶應義塾大学で講義を持っていますが、学生は環境問題への感度が高く、中には環境で起業を考えたり環境関連の研究をするために転部する教え子もいます。若い世代の優秀な人材を呼び込むためには、サステナブルに関連する取り組みを強化する必要があるでしょう。

 こうした背景から、今後は企業が存続し、持続的に発展するために、脱炭素経営やサステナブル経営の推進が不可欠です。他社に先駆けて取り組むことでビジネスチャンスになるということを、講演でお伝えしたいと思っています。