脱炭素化に向けてホンダが重要視する電池のライフサイクルアセスメント…第14回【国際】二次電池展【春】3月15日開幕

カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが世界各国、様々な業種で動き出している。

 

ホンダも2040年に全世界で販売するすべての四輪車を電気自動車(EV)または燃料電池車(FCEV)に切り替えた上で、2050年にはすべての製品や事業活動でカーボンニュートラルを目指すことを宣言している。だが本田技術研究所 先進パワーユニット・エネルギー研究所の岩田和之エグゼクティブ チーフエンジニアは「単純にEV化すればカーボンニュートラルできるという話では全然ないし、ホンダ個社の取り組みだけでカーボンニュートラルを実現することもできない」と言い切る。

 

◆製造段階から再生可能エネルギーの活用が必要

簡単に取り外して交換できるバッテリーパック「Honda Mobile Power Pack e:(モバイルパワーパックイー)」

というのも、国際的な温室効果ガス排出量算定基準の中で定められた排出量区分スコープ3では、事業者自らによる温室効果ガスの直接排だけではなく、その活動に関連する他社の排出量も問題となる。つまり「ホンダのEVを買って頂いたお客様がEVに充電する際の電気が再生可能エネルギーで造られたものでないと、ホンダはカーボンニュートラルを実現できない」と岩田氏は解説する。

 

もちろんEV用電池に関しても、いかにCO2を少なくして造るか、あるいは再生可能エネルギーで造るかということもスコープ3の領域となる。岩田氏によると「中でも電極を塗った後に乾燥工程があるが、ここで多くの電気を使っている。そうした工程を無くす技術開発も今後必要になってくるだろう。いくら高容量で性能が良い電池であっても、製造の際にものすごくCO2を排出するようでは意味がないといえる。今後は電池をリサイクルする時に使用する溶鉱炉も再生可能エネルギーで、ということになる」という。

 

さらに「スコープ3というのは間接排出なので電池に限らず、ホンダがお付き合いさせて頂いているすべての取引先での製品製造にかかわるエネルギーを再生可能エネルギー由来にしないとカーボンニュートラルにはならない」と指摘。その上で「だから何度でも言うが、ただ単にEVにすれば良いという話にはならない。電気の造り方は風力でも太陽光でも水力でも良いが、とにかく石油や天然ガスなどの化石燃料を燃やして造る電気では今後だめになっていく」と岩田氏は強調する。

 

◆今後は火力発電で造られる電池も規制対象となる

『GYRO e:』はモバイルパワーパックを動力源とする電動二輪車

すでにそうした動きは顕在化している。「EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)では、鉄鋼に始まり、今後は火力発電で造られた電池をEUへ輸出して販売しようとすると、炭素税が課される可能性がある。顧客から見ると同じ性能の電池でも炭素税の分だけ値段が上がることになるかもしれない。言い換えるなら再生可能エネルギー由来の電池の価値が上がるというよりも、火力発電で造られる電池の価値が下がるかもしれない」と岩田氏は語る。

 

日本ではまだEUのようなペナルティを課すようなこと議論はないが、「日本もアメリカも、ヨーロッパの環境規制の後を、ずっと追いかけてきているという経緯があるので、遅かれ早かれそうなっていく。逆に言うと日本政府は2050年にカーボンニュートラルを目指すとしているが、それを実現するには同様の規制をやらざるを得なくなる」と岩田氏はみる。

 

しかも残された時間もそれほど長くないとも岩田氏は断言する。「2050年というと、残り28年しかない。ホンダの三部敏宏社長は2040年にすべての4輪車をEVまたはFCEVにすると宣言したが、クルマの保有期間を考えると10年くらいなので、それを考えると後18年しかない」からだ。

 

◆電池の稼働率を引き上げ、無駄のない活用を

モバイルパワーパックは、建機や農機にも使用できる

さらに岩田氏は再生可能エネルギーで製造、充電する電池そのものを効率的に使うことも重要と訴える。「ガソリン車は止まっている間は何も仕事をしていない。ところが、EVはクルマとしての仕事をしていない時も給電用の電池として使える。いくら1000kmも走れる電池を積んでいても、使われない電池はゴミにしかならない。電池は高価なモノなので、そのリターンを得るには電池の稼働率をなるべく引き上げて無駄なく使う必要がある」というわけだ。

 

電池を効率良く使う方策のひとつとして、ホンダでは簡単に取り外して交換できるモバイルパワーパックをバイクなど自社の小型電動モビリティだけでなく、他社製品や家庭用の定置電源などへ用途拡大していくことを提唱している。岩田氏は「例えば農業は季節によって作業が変わってくるので、耕運機や田植え機、脱穀機とその都度、農機も変わる。農業もカーボンニュートラルが避けられなくなっていく中で、農機を電動化するとなったら、それぞれの農機に電池が必要になってくる。しかし電池を着脱交換式にして、季節ごとに電池が農機を渡り歩くようにすれば無駄がない」とした。

 

そう語る岩田氏は、3月15日に東京ビッグサイトで開幕する二次電池展【春】の2日目に行われる基調講演で「電池視点からの自動車産業のカーボンニュートラル」をテーマに登壇する。岩田氏は「EV化というのは単にエンジンをモーターとバッテリーに置き換えたクルマを造るということではまず成立しない。しかも、これはホンダだけがやってもできない」とした上で「だからこそ、二次電池展に来場される皆さんのお力をお借りしながら、一緒にカーボンニュートラル社会を創っていきたいということをお伝えしたい」と語った。

 

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■第14回【国際】二次電池展【春】(通称:バッテリージャパン)

会期:2023年3月15日(水)~17日(金)10時~17時
会場:東京ビッグサイト
主催:RX Japan 株式会社

※1月31日現在。最新情報は展示会HPをご確認ください

二次電池展 公式HP

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制作:response 小松哲也