【ビジネス教養】エネルギーとESG経営の“最先端”を知る“最短”の方法

3月15日から東京で新エネルギー総合展「スマートエネルギーWeek春2023」が開かれる。

 同時開催の「脱炭素経営EXPO」「サーキュラー・エコノミーEXPO」と併せて、水素・燃料電池、太陽光発電、二次電池、スマートグリッド、洋上風力、バイオマス発電、ゼロエミッション火力など先端技術を網羅する展示内容となっている。

 今年は世界30カ国から1200社が出展。来場者数は50,000名を見込んでおり、エネルギー分野では世界最大級の展示会だ。

 カーボンニュートラル実現に向け、世界規模でエネルギーシフトが急務となっている。専門的なリテラシーが要求されていくビジネスパーソンにとっても、各分野の市場動向やESG経営の最先端の潮流を網羅することは重要な「武器」となるだろう。

総合展を企画運営するRX Japan小笠原徳裕氏をモデレーターに、K-BRIC&Associates,Ltd.代表取締役社長兼プリンシパルの藤田研一氏株式会社ニューラル代表取締役CEO/信州大学特任教授の夫馬賢治氏にエネルギー業界の潮流とビジネスへの生かし方を語ってもらった。

グローバルトレンドと違った日本の電力業界

小笠原 エネルギーの世界はカーボンニュートラルから安全保障にいたるまで幅広い領域にまたがる問題です。

世界有数の重電メーカー日本法人で代表を務めた藤田さんと、政府のESG関連有識者会議に委員として出席された夫馬さんから見て、今世界でどういったことが起こっていますか。世界そして日本の課題はどこにあると思いますか。

藤田 私は外資系企業で日本企業向けに海外・国内のエネルギー事業を担当していた時期がありましたが、電力に絞ってお話をしていくと日本のエネルギー市場、特に電力系はグローバルトレンドと少し違う動きをしていました。

元々戦後の日本はしっかりとした電力網をつくり発電して産業に電力供給をしながら経済成長を遂げてきたので、日本のエネルギー業界には社会インフラとしての義務といいますか、ミッション意識が強くありました。

そのなかで日本の電力業界は、メーカーとユーザーが二人三脚で独自の発展を遂げたところがあります。

その場合、外資が国際規格で日本市場に参入しようとするときに、顧客から要求されるスペックが独自仕様となっていて、それが見えない参入障壁化しているケースが過去にはありました。

また、日本の固有の課題としては、東日本大震災後に原子力発電に関する根本的な議論を10年間ほとんど進展がない状態にしてしまったことがあります。

原子力に対して賛成か反対かという意見はむろんありますが、反対というのならそれなりに他の代替となる発電手段に投資したでしょうし、賛成なら相応に電力の安定供給ができました。

それがどっちつかずで来てそこに再エネの拡大が来てしまったことでいびつな構造になってしまいました。

世の中のトレンドを見たときに、今世界的に発電所新規投資の大体6割から7割は再生可能エネルギーです。

いわゆる在来の化石燃料ベースの火力発電に先進国はほとんど新規投資をしていません。そういう状況にもかかわらず、再生可能エネルギーで日本メーカーが存在感を出せないことは、過去の事業撤退もあり、非常に心配なことです。

5年以上前の電力業界の感覚は「再エネはおまけ。新興の企業がやることで発電のメインストリームではない」といったものでした。

ある時期からはその見方は完全に変わりましたが、当時は外の動きにもう少し意識を持ってこないと日本の長期的な発展が見えなくなってくる危惧を感じていました。

 

日本企業は「爆発的に眠りから覚めた」

夫馬 僕がサステナビリティ経営やESG投資の助言をする会社を設立したのが10年前の2013年6月です。その前に東日本大震災があり再生可能エネルギー熱が高まってはいました。

ただ、当時はほとんど何も動きはないというか、エネルギー問題についての課題はどちらかというと原子力発電所が止まったあとの火力発電をどうするかでした。

その意味で、この10年間を思うと今全然違う景色が始まっている気がしています。日本企業が「爆発的に眠りから覚めた」という感じです。

2020年の菅義偉前首相の「2050年までにカーボンニュートラル」宣言も大きかったですね。ようやく眠りから覚めた新しい時代に僕は非常にわくわくしています。

小笠原 一気に風向きが変わったという中で「サステナブルな経営をすることが企業成長に繋がると」の認識を、今、日本の企業の皆さんは持ち始めていますか。

夫馬 大企業トップの危機感は高まっていますが、社内の事業本部長クラスにどう伝えていくべきか苦しんでいる状況があります。

やるべきこともゴールも見えてはいる。けれども、各事業本部が抱えている短期的な事業ミッションとの時間の使い方や投資のバランスのなかで実際にどうやればいいのか模索している段階です。

彼らからすると自分たちが得てきた過去の蓄積もある。そのなかで自分たちの知見をどのようにアップデートしていくか。激変していく世界の中で、先行例がある社会や国や企業はなぜできたのかを改めて落ち着いて情報を入れないと気付けないことがたくさんあります。

ここが今、日本企業の中でサステナブルな潮流が一段と加速しているときに最も重要になるパーツではないでしょうか。

たとえば、エネルギー分野のルールはリニア(単線的)ではなく生態系のように複雑にできているんですよね。

最初に国連のような機関で何かが決まって国が引き継いで法令化されて企業が取り組むと思っている人が多いかもしれませんが、全然そんなことはない。

そもそも国際レベルでルールが決まる過程で、多くのステークホルダーが実証データを出して「できる」「できない」などと複雑な議論を経てルールはできています。

ですから政府の動きを見ているだけでは不十分です。先行した諸外国はどうしてそのような意思決定ができたのか、投資家がどう思っているのか、新しいエネルギープレーヤーはどう考えているのか、そのあたりに知見の源泉があります。

政府が作る法令を先回りするためにも、業界の今の状況や日本とは違う状態に移行した市場を見に行ったほうが予見ができるんですよね。

既に変わった世界の方々がどういうマインドでいるのか、自分たちの感覚値ではできないと思っていることを彼らはなぜできると思ったのか、どうして変わったんだろうかということに耳を傾けていただけると、自分たちが向かう方向が見えてくる気がします。

 

先を予見するために必要な情報の仕入れ方

小笠原 経営の観点から見ますと「まず大企業が先に」と思われる方も多いのではないでしょうか。今後すべての企業が関わってくる問題だと思いますが、企業のリアルな声はいかがでしょうか。

夫馬 一般論と個社単位で見え方が違いますね。

「大企業は」「中小企業は」「経団連は」「商工会議所は」という主語でとらえると、「やはり中小企業は難しい」みたいな情報がたくさん目につくかと思いますが、中小企業の中からも、非常に早くから動いている企業が出てきています。

これから世界中の企業はカーボンニュートラルを目指します。大企業だけの話ではありません。まずいかに自分たちの持っている資源──熱源かも電力かもしれません──を早く転換できるか。

自分たちの手の届く範囲で変えるものが見えてきたときに、意思決定は実は中小企業が早いです。「大企業はできるけど中小企業は難しい」ということはありません。

何か研究を始めるにしても資金調達にしても大企業が有利なのは事実です。ただ、彼らの声を聞いてみると、社内からはイノベーションが出ないかもしれないからこそ、どのように会社の外にいるスタートアップと組んでいくのかを考えています。

その協業のなかで、スタートアップからも、老舗の中小企業からも、たくさんのイノベーションが生まれています。今変わるタイミングだからこそ、中小企業にとってはチャンスだと思います。

最近、市況が厳しいとか、ベンチャーキャピタルからもお金が出づらくなっているとも聞こえていますが、圧倒的にClimateTech(クライメートテック:気候変動問題を解決するための革新的な技術)に関連したエネルギー業界には、今でもお金は出続けていて、ニーズは潤沢にあります。

先に「眠りから覚めた」と表現しましたけど、これまでは興味ないだろうと思って諦めていた大学の研究者の中から「今ならチャンスかもしれない」と起業する方も最近増えてきています。

エネルギー分野の若手の研究者もそのような感覚を持っている人が多くなっている気がします。

藤田 たとえば米国ナスダックの脱炭素銘柄には年間10兆円ぐらい資金が入ってますよね。ものすごく勢いがありますよ。アメリカなどは民間の力が強い。

日本のベンチャーキャピタルは「よい投資先がない」と探すのに苦労してますけど、ClimateTechはものすごく注目株だし日本企業のコーポレートベンチャーキャピタルもだいぶ増えてきています。

ベンチャーにとって特に環境の切り口で事業をやる人たちにとってはものすごいチャンスです。

聞いたことのない情報・テクノロジーに触れる機会

小笠原 3月15日からの「スマートエネルギーWeek春2023」「脱炭素経営EXPO」や「サーキュラー・エコノミーEXPO」は、水素も太陽光も風力もほぼ全てのエネルギー分野を網羅しています。

今後、業界の垣根を超えたディスカッションや技術提携を皆で目指していく姿勢が大事だと思いますが、このようなリアルなイベントにどのようなことを期待しますか。

藤田 ドイツで行われるIFA(国際コンシューマ・エレクトロニクス展)でもフランクフルトモーターショーでも一目瞭然なのは「商談の場」であることです。

業界の人たちが集まって商談をして新しいアイデアを出し合って交流していくような、ビジネスと社交の両方を兼ねています。

今ネットで検索すれば大体の表面的な情報はとれますが、当然全部はとれません。リアルの世界では、その場でリアルタイムに新しいことを知り、新しいビジネスの出会いがある。

新しい出会いの後に新しいビジネスチャンスが生まれやすいのがリアルの持ち味だと思います。

単純に技術や情報を収集するだけではなく、展示企業と話してみれば新しいコラボが生まれるかもしれない。そういうコミュニケーションのプラットフォームとして展示会を使ってほしいですね。特に海外企業はそこを意識している。

夫馬 僕は数カ月前、台湾の中小企業庁に呼ばれてオンラインセミナーのパネリストとして出席したときに、紙製のカップとかストローを作っている台湾発スタートアップが、すでに日本で商品を販売していることを初めて知りました。

日本での販路拡大のきっかけには展示会への出展があったそうです。最初に展示会で自分たちの商品を知ってもらうこと。そこに企業が来るし、メディアにも取り上げてもらうチャンスができたと、参加していた台湾の他の企業に語っていました。

ひょっとすると皆さんはこのEXPOに行かれて「聞いたことない会社だな」と思うかもしれませんが、それは当たり前です。まだ日本で聞いたことがない会社たちが逆に最初に出てくる場所がEXPOなのですから。

会場には、不思議な素材も、斬新なエネルギーテクノロジーもあって、普通に聞きたくなることがいっぱいあると思います。日本ではまだ出てきていない情報もあるかもしれません。

日本で今まにない最先端がEXPOにはあると思って参加すると、自分たちの事業にも取り入れる芽が見つかるのではないでしょうか。

それにある国、地域によっては「日本にはまだエコに関する最先端の何かがあるのではないか」というイメージが幸いなことに生きています。そういう意味でも、海外からも日本に注目が集まるチャンスがきていると思いますね。

藤田 日本の研究者は奥ゆかしくて、「採算がとれないから」と成果を表に出してなかったりもします。眠っている技術はまだありますよ。僕はベンチャーに期待しています。

この展示会でも脱炭素技術のベンチャーフォーラムをやってみるのもいいと思うし、デジタル技術のフォーラムを組み合わせてもいいでしょう。

本来新しいトレンドをとらえるのは間違いなくベンチャー企業ですので、その仕組みをつくっていってほしいと思います。

(制作:NewsPicks Brand Design 執筆:成相裕幸 写真:大畑陽子 デザイン:藤田倫央 編集:奈良岡崇子)

<スマートエネルギーWeek>

会期:2023年3月15日(水)~16日(金)10時~18時(最終日のみ17時まで)
会場:東京ビッグサイト
主催:RX Japan 株式会社

※11月17日現在。最新情報は展示会HPをご確認ください

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