【カーボンニュートラルへの架け橋 7】

「レーザー核融合で、新しいエネルギーソリューションを」

(株)EX-Fusion 代表取締役 理学博士 松尾一輝氏

11月脱炭素経営EXPO(関西展)カンファレンスに、世界初のレーザー核融合商用炉の実現を目指しているEX-Fusion代表 松尾一輝氏の初登壇が決定しました!核融合発電はカーボンニュートラル実現の切り札となるエネルギー源として近年大きな注目を集めています。同社は今年の7月創業2年をむかえ総額18億円の資金調達を実現しました。研究者である松尾氏が起業を決めた理由、そして今後の展開は?率直な思いを語っていただきました。

・プロフィール【松尾一輝】

2021年創業者としてEX-Fusion を設立。大阪大学大学院博士後期課程理学研究科物理学専攻を修了し、博士を取得。高速点火方式核融合の研究に注力し、効率的な核融合プラズマ加熱を実証、将来的な核融合炉の実現に貢献。大阪大学修了後はカリフォルニア大学サンディエゴ校にて核融合の研究に従事。

 

■アメリカで民間核融合研究の大転換期を実感

―松尾さんは、世界の三大レーザー核融合研究拠点のひとつと言われる大阪大学で学び、米カリフォルニア大で研究に従事してきました。研究者として早くから注目されていた中、日本に戻り28歳でEX-Fusion起業を決意されています。まずはこの経緯についてお聞かせください。

松尾 私はもともと研究者になりたいというモチベーションがあったのですが、レーザー核融合研究を選んだのは消去法からでした。何か人類に貢献できる面白そうな研究はないかと考えたときに3つテーマが浮かびました。1つは人の寿命を延ばす研究、2つめは月や火星など人間の生活圏を広げる研究、そして3つめが無尽蔵のエネルギーを作り出す研究でした。そこから倫理的なことや私の性格に向いているかを検証した結果、最後まで残ったのが3つめの無尽蔵のエネルギーの研究、つまり核融合だったわけです。無尽蔵のエネルギーを作り出すことは、誰からも批判されることはなく、みんなを幸せにできるのではないかと考えました。
核融合には主に、磁場閉じ込め方式とレーザー核融合の2つの方式があります。磁場閉じ込め方式に比べ、レーザーはあまり期待されていない技術だったのですが、レーザー核融合であれば核融合の研究とは別にレーザー科学という分野でも何か新しいことを発見したり、人類に貢献できる何かを研究したりできそうである、こちらの方がバラエティにとんでいて面白いのではないかと考え、レーザー核融合を選びました。

 

―なるほど。ではカルフォルニア大の研究者であった松尾さんが、2021年に戻って日本で起業をされたきっかけとは。

松尾 私は大学院を卒業しアメリカのカリフォルニア大学に研究員として就職しました。キャリアプランとしては、そこで教授になり、研究を成功させてそれを日本に持ち帰るというような想定をしていました。しかし、アメリカで核融合研究に携わるようになった頃、民間の力で核融合研究が動きだす流れが加速している様子を感じました。
例えば(ChatGPTの)OpenAI CEOのサム・アルトマンが、ある核融合スタートアップ企業に500億円を出資する様子を身近で見聞きする体験をしたのですが、チャットかメールかのやりとりで「アルトマンっていう人が500億円投資してくれるらしいよ」みたいなやりとりをしていたのです。最初は企業からの出資なのかと思っていたのですが、そうではなく個人が500億円を投資するのだと知り、とてつもない世界観だなあと感じました。また、核融合に対してそれだけの期待感が高まっていることを実感しましたし、核融合スタートアップという存在を知りました。
とはいえ、もちろんそこですぐに自分が起業するといった想定は全くなかったのですが、思いかけず、大阪大学の恩師から、「核融合に投資したいと言っている人がいるのだけど、どう思うか?」と連絡が入ったのです。後からお聞きすると、先生は起業するなら松尾だと一番に頭に浮かんだので、連絡をくださったそうです。1週間考えさせていただいた後、日本でもやれるのではないかとの結論を出し、「面白い挑戦だと思うので、ぜひ起業したい。」と返答しました。そこからベンチャーキャピタル ANRIの鮫島さんとの話が進むこととなりました。
振り返ると、この頃が、私自身が研究者になりという軸から、核融合を実現したいという方向に想いが一気にシフトしてた時期だったのだと思います。核融合を実現できるのであれば、私が研究者であることは重要ではないとまで考えていました。アメリカに残って研究者としてコツコツ研究を続けることよりも、日本に帰って会社を作り、核融合の開発研究を加速させていくことの方が、より早く確実に社会的なインパクトが出せる可能性を感じ、大学を辞め、日本に帰国して会社を立ち上げようと決意しました。

 

■日本でしか確立できない、大きなメリットがある

―大阪大学発スタートアップ企業として起業されたわけですが、核融合発電が「いける」と思われた理由は。

松尾 私は、核融合全体というよりレーザー核融合が「いける」と思ったわけですが、その理由のひとつとしては核融合の出力が増えてきたという事実がありました。会社設立の2021年当時に、アメリカのローレンス・リバモア国立研究所が、エネルギーゲインで0.71という値を出して磁場閉じ込め式の炉のワールド記録を抜きました。そして2021年12月には1.5を記録し、1も超えました。つまり人類が初めて核融合によりエネルギーを生み出すことができたのは、レーザー核融合方式によってだということになります。アメリカはこれまで磁場方式だけではくレーザー方式にも投資をしてきており、今回はその成果がでたといえます。最近はまた出力が増え1.9になったのですが、この値はプラズマの観点からするとこれからも増えていくと考えています。来年には2、3に、最終的には5を狙えるだろうと思っています。

そしてもう一つ、会社として「いける」と考えた理由があります。世界のレーザー核融合研究は主に、国立の研究所で進められています。そのため、企業がその研究成果を技術利用しようとしても非常にハードルが高いのです。特定の企業に対して独占的に成果を提供はできないということもありますし、科学技術は国防に資する技術として考えられることもあり、国の研究の成果を民間会社に技術移転することは難しいとされています。
そのような中、日本は、国立の研究施設で行うような研究とアカデミアの研究を完全に分けてやってきた経緯があります。大学には、リソースもあるし技術もあるのです。我々は大学発ベンチャーということもあり、うまく連携しながら、これまでの大学の研究の成果を活用し、事業を進めていける、これは世界的にみても貴重な環境であると思いました。参入障壁はとてつもなく高いですが、日本で事業化をするメリットを生かして、世界にもうって出れますし、レーザー技術にもアクセスできる。最初から1から10を作る必要もありません。起業と開発研究がスムーズにできる環境が整っているというのが、私が日本であえて起業した理由です。


■今後の展開には、他社とのつながりが重要に

―これからの会社の展開についてお聞かせください。

松尾 EX-Fusionの基本方針は、「究極の光応用であるレーザー核融合によるエネルギー革命と産業創出」です。エネルギー革命は、シンプルにレーザー核融合で必要となるような技術の開発研究を加速していくということを着実に進めたいと考えています。一方で、我々の場合は、せっかくレーザーという応用範囲の広い技術を扱っていることがありますので、レーザーを使った応用研究により、幅広く産業を創出することにも取り組んでいきたいと考えています。
このような取り組みによりレーザー自体の需要が高まることは、最終的に「レーザー核融合を作る」ことにつながります。レーザー核融合には巨大なレーザーを何百本も必要とするのですが、いきなり工場にいっても作ってくれないです。1本から始めて次は10本くらいの応用をやって、次は20本、30本と積み上げていけば、基本的に100本でも200本でもすぐさまできる供給できるサプライチェーンの構築にもつながっていくだろう、ということで応用研究も力を注いでいます。

―先日、EX-Fusionが、宇宙デブリ問題をハイパワーレーザーシステムにより対処する協定を、オーストラリアのEOS社と締結されたと発表されましたが、これなどもそのひとつでしょうか。

松尾 はい。特徴的なのは、我々自身が宇宙デブリの事業をやっているわけではなく、パートナー企業さんを見つけてあくまでレーザーに関する技術をそこに提供しているということです。現状、EX-Fusionはすでに、世界最高平均出力を誇るようなレーザー技術を保有しており、パルスレーザーの領域においては大手にも負けません。大阪大学発スタートアップ企業ということで、これまでの50年間の研究の蓄積を着実に活かしたいと考えています。このような会社は日本だと少なくとも我々しかいませんし、海外から見ても非常にめずらしいのではないかと思っています。レーザー核融合発電実現については、2029年に技術実証をするのが目標で2035年までに発電実証し商用炉へとつなげていきたいと計画しています。

―11月の脱炭素経営EXPO(関西展)セミナーは、どのような内容を予定されていますか。

松尾 まずは核融合研究の魅力を、事業会社をはじめとする多く皆様にお伝えたしたいです。我々は電力を生み出す熱源を作ることが得意なわけですが、熱源を作った後は、誰かに点検してもらったり水素にしてもらったりしないといけませんから、そういったことに興味がある事業会社さんが見つかるといいなと思っています。
研究者から突然企業家になった私自身も、核融合の事業も、既存のエネルギー業界では特殊で異種な存在でありますが、皆様との出会いから核融合のように新しいものが生み出されるのではないかと楽しみにしております。

 

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