カーボンプライシングとは?
炭素税などの種類から日本の導入状況まで解説

カーボンプライシングとは?炭素税などの種類から日本の導入状況まで解説

地球温暖化対策の重要な施策のひとつとして、世界各国が注目するものが「カーボンプライシング」です。炭素排出にコストを課すことで、企業や国家が脱炭素化を進める動機付けを促します。

本記事では、カーボンプライシングの概念や具体的な手法、メリットなどを解説します。世界各国の導入状況や日本の現状、企業が取り組むインターナル・カーボンプライシングにも触れるので、ぜひご一読ください。
 

カーボンプライシングとは

カーボンプライシングとは、温室効果ガスの排出にコストを割り当てる政策手法です。二酸化炭素の排出量に比例した金銭的な負担を、企業・個人に求めます。

このアプローチは、企業や個人が炭素排出を削減することの経済的なメリットを高めることで、脱炭素化への移行を促進することが目的です。具体的には、化石燃料の使用を減らし、二酸化炭素の排出量の削減を目指しています。

また、カーボンプライシングは環境政策の「汚染者負担原則」を体現するものです。汚染者負担原則とは、環境汚染の防止にかかるコストを汚染者自身が負担する考え方をさします。

環境への負荷を経済活動のコストに反映させることで、より持続可能な生産と消費パターンへの移行を促すことが可能です。

カーボンプライシング手法の主な種類

カーボンプライシングの手法には様々な種類があります。この章では、主な種類である以下4つについて解説します。

  • 炭素税
  • 排出量取引
  • クレジット取引
  • エネルギー課税

炭素税
炭素税とは、環境保護の観点から二酸化炭素などの温室効果ガス排出量に対して課される税金です。はじめて炭素税を導入したフィンランドをはじめ、オランダ、ドイツ、イギリスなどヨーロッパを中心に導入が進んでいます。

政府が二酸化炭素の排出量に応じた税率を設定し、排出者が税率に基づいて税金を支払う制度であり、企業や個人は、炭素排出を減らすことで税負担を軽減できるインセンティブを持っています。

二酸化炭素の排出量削減に繋がるだけでなく、二酸化炭素削減への意欲を対外的に示すことも可能です。一般的に得られた税収は、再生可能エネルギーの開発や省エネ促進などに使用されます。

排出量取引

排出量取引とは、温室効果ガスの排出権を市場で取引する制度です。企業ごとに排出量上限を設定し、その枠内での排出権を企業間で売買します。

例えば、上限排出量を越えてしまった企業は、排出量を下回った企業の枠を購入すると、排出量を削減したとみなされます。排出量の削減を効率的に進められる企業は、余剰の排出権を市場で販売して収益を上げることが可能です。

排出量取引では排出量削減の目標が決まっているため、削減の方針を立てやすい点も特徴です。

クレジット取引

クレジット取引とは、CO2の削減を「価値」と見なして証書化し、市場を通じて売買取引を行う制度です。「価値」を金額化して、個別企業が削減したCO2を企業間で売買します。

また、CO2削減プロジェクトを実施しなかった場合のCO2排出量の見通しと、プロジェクト実施後に削減できたCO2排出量の差分を認証したものを「ベースラインクレジット」と呼び、通常クレジットはベースラインクレジットのことをさします。

エネルギー課税

エネルギー課税とは、エネルギー源(特に化石燃料)の使用量に基づいて課税する方法です。税目には、例えば以下のように様々な種類があります。

  • 石油石炭税:石炭、石油、天然ガスなど化石燃料に課税される
  • 石油ガス税:自動車用石油ガスに課税される
  • 揮発油税:揮発油に課税される など

エネルギー課税は、炭素排出量を直接的な対象とするのではなく、エネルギー消費による環境への影響を間接的に課税する手法です。

このような手法は「暗示的カーボンプライシング」と呼ばれており、前述した炭素税や排出量取引のように、炭素に価格付けを行う手法は「明示的カーボンプライシング」と呼ばれます。

カーボンプライシングを進めるメリット

カーボンプライシングを進めることには、様々なメリットがあります。まず挙げられるのは、環境への貢献に大きく寄与する点です。

温室効果ガスの排出量を削減できれば、気候変動を遅らせることが期待できます。温室効果ガスの削減を努力義務ではなく「制度」にすることで、企業の取り組みを加速させられるでしょう。

また、省エネルギー製品や、燃料電池・水素自動車のような環境問題に配慮した製品の価値が向上すると、脱炭素化が促進する好循環が生まれ、脱炭素技術や製品の普及にも繋がります。

さらに、温室効果ガスの排出量を抑制するほど、税など支払う金額が下がり、企業の競争力が増します。結果として、排出量削減に向けて意識的に取り組む流れができ、新たな技術が誕生するかもしれません。

企業では、カーボンプライシングを進めるのは環境への貢献だけでなく、経済対策の面でも良い効果が期待できます。国にとっても、財源を確保しながら温室効果ガス排出を促せることがメリットです。

カーボンプライシングを導入している世界の国々

世界各国では、地球温暖化対策としてカーボンプライシングの政策が広く導入されています。炭素税や排出量取引など、世界で導入されているカーボンプライシングの政策は、2023年時点で73件※1です。

例として、3つの国・地域の政策を見てみましょう。

欧州連合(EU)では、世界で最初に大規模な排出量取引制度を導入しました。排出量の上限を設定し、その枠内で排出権を売買して温室効果ガス排出量の削減を目指します。

中国では、2021年に全国排出量取引制度がスタートしました。政府が割り当てた炭素排出枠の余剰排出量・不足排出量の取引を行う、中国独自の国家レベルでの排出量取引制度です。累計取引額は109億1,200万元(2023年6月末時点)に達し※2、世界最大規模の市場となっています。

韓国は、アジアではじめて排出量取引制度を導入した国です。2015年に始まった排出量取引制度では、韓国国内の温室効果ガス排出量の約70%をカバーしています。

これらのカーボンプライシング政策は、各国が地球温暖化対策に取り組む上で重要な役割を果たしており、今後も導入範囲と影響はさらに広がっていくと予想されます。

※1出典:独立行政法人日本貿易振興機構「カーボンプライシング政策、世界で950億ドルの収入、世界銀行推計」
※2出典:独立行政法人日本貿易振興機構「法的対応必要な排出権取引市場の整備が進展、CCER再始動に期待」

日本のカーボンプライシングの現状

日本は諸外国と比べるとカーボンプライシングが遅れているのは事実ですが、今後検討が加速すると思われます。

まず、2012年に「地球温暖化対策のための税(地球温暖化対策税)」が導入されました。石油や石炭など、化石燃料の消費に基づいて課税される制度です。化石燃料の使用を抑制し、再生可能エネルギーなどのクリーンなエネルギー源への転換を促進することを目的としています。

また、2023年に成立した「GX推進法」には、「炭素賦課金」と「排出権取引(GX-ETS)」の導入が組み込まれています。

これらの政策は、日本が地球温暖化対策に積極的に取り組んでいると示しており、国内外での環境問題への対応と、持続可能な社会の実現に向けた重要なステップです。日本でのカーボンプライシングを巡る動きには、進展が見えはじめています。
 

企業が導入するインターナル・カーボンプライシングとは

カーボンプライシングに関連して、企業が自主的に取り組む「インターナル・カーボンプライシング」もあります。

概要や具体的な事例を紹介するので、インターナル・カーボンプライシングへの取組を検討しているなら、ぜひ参考にしてください。

インターナル・カーボンプライシングの概要

インターナル・カーボンプライシングとは、企業が自社の活動による温室効果ガス排出に対して内部価格を設定し、これを経済的な意思決定に反映させる手法です。炭素排出に関連するコストを明確にし、事業活動を通じて長期的な脱炭素化戦略を策定し、実行することを目的としています。

導入するメリットは様々あり、脱炭素へ対する取り組みが可視化されて社内の意識づくりができるのも、そのひとつです。企業の姿勢を対外的に示せるため、客観的な評価に繋がって企業のブランディングが高まる期待ができます。

また、将来的にはじまる国家レベルでのカーボンプライシング導入に向け、事前に備えられるのもメリットです。

企業が取り組むインターナル・カーボンプライシングの事例
環境問題に社会の一員として対峙するには、机上で概要を理解するだけでなく、実際の取り組みが重要です。

企業が実際に取り組める例として、以下の行動があります。

  • 太陽光発電パネルを設置する
  • 社内の電力に再生可能エネルギーを導入する
  • 省エネルギー技術を活用する
  • 社内滞在時間を減らし、電力を削減する
  • 社内排出のみならずサプライチェーン全体でCO2を削減する など

また、自社でインターナル・カーボンプライシング(社内炭素税)を推進する際には、すでに取り組んでいる企業の実例が参考になります。実際にインターナル・カーボンプライシングを推進する企業の例として、マイクロソフト コーポレーションの取り組みを紹介します。

マイクロソフト コーポレーションは2030 年までにカーボンネガティブとなり、1975 年の創業以来、直接的および電力消費により間接的に排出してきた CO2 の環境への影響を 2050 年までに完全に排除することを宣言しています。

そのため、インターナル・カーボンプライシングを設定し、全事業部門に排出コストを負担させることで、企業全体のカーボンニュートラルを実現しています。具体的には2020 年 7 月に、現在のインターナル・カーボンプライシングにスコープ 3 の全排出を取り入れる改定を行いました。

当時の炭素料金は1トンあたり15ドルであり、スコープ1とスコープ2の全排出、および、スコープ3のうち、出張に関する排出を対象にしています。

他の一部の企業とは異なり、マイクロソフトのインターナル・カーボンプライシングは、計算はされるが徴収はされない「影の経費」ではありません。マイクロソフトの炭素料金は、各部門の排出量に従って実際に支払われ、その資金が炭素排出削減プロジェクトへの再投資が行われ、持続可能なビジネスモデルへの転換が行われています。

こうした事例から、インターナル・カーボンプライシングは、企業が自らの環境負荷を認識して経済的な意思決定に反映させることで、脱炭素化への取り組みを加速させる有効な手段だとわかります。

カーボンプライシングの情報収集なら「脱炭素経営 EXPO」へ

世界中でカーボンプライシングへの取り組みが進んでおり、日本でもカーボンプライシング推進に向けた動きが加速しています。こうした社会の動向から、二酸化炭素の排出量が多いことは、今後企業経営にとってデメリットとなるでしょう。

そのため、インターナル・カーボンプライシングなどの脱炭素を推進する仕組みを導入し、脱炭素経営を意欲的に進めることが、これからの企業の持続可能性・成長にとって重要です。

脱炭素経営を考えた時、実際に脱炭素経営を進めている企業の取り組みが参考になりますが、インターネット上の情報収集だけでは得られる情報に限りがあるかもしれません。

持続可能な企業経営に関する情報をお求めなら、ぜひ「脱炭素経営 EXPO」へご来場ください。

脱炭素経営 EXPOとは、脱炭素経営を目指す企業の経営層や経営企画などが集まる専門展です。ゼロカーボンコンサルやエネマネ・省エネ設備など、脱炭素化を実現するための最先端技術やサービスが一堂に会し、最新の脱炭素技術・ソリューションの発見の場となります。

会場では、業界のトップリーダーによるセミナーが開催されるため、最新のトレンドや市場の動向を学べる他、同業他社や異業種企業との交流を深め、新たなビジネスチャンス・コラボレーションの可能性を探ることも可能です。

また、すでに脱炭素経営を推進している状況であれば、出展者側としての参加をぜひご検討ください。脱炭素経営 EXPOは、自社の製品・サービスを業界の意思決定者や関連企業に直接アピールする、絶好の場です。

加えて、ご来場者の方々からのフィードバックや他出展者との交流を通じて、市場の最新ニーズ・トレンドを把握できます。出展を通じて自社ブランドの認知度を高め、脱炭素経営に関心の高い企業から注目を集められるかもしれません。

来場・出展ともに、数多くの情報が得られる展示会なので、ぜひ参加をご検討ください。

GX経営WEEK内「脱炭素経営EXPO」来場・出展案内はこちら

脱炭素に向けてカーボンプライシングへの取り組みを

脱炭素社会への移行は、世界中の政府や企業にとって重要な課題です。カーボンプライシングは、この課題に対処するための政策手法のひとつであり、炭素税・排出量取引・エネルギー課税などが含まれます。

これらの政策では、炭素排出にコストを割り当てることで、企業や個人が炭素排出を減らす経済的なインセンティブを提供します。

今後、企業にとっても二酸化炭素排出量が多いのはデメリットとなるため、積極的な脱炭素経営の促進が大切です。企業経営を取巻く環境はどんどん変化しているので、常に最新の動向を把握して、成長戦略を描く必要があります。

脱炭素経営に関する情報収集を行いたい企業、自社の脱炭素経営関連の技術・ソリューションをアプローチしたい企業は、ぜひ脱炭素経営 EXPOにご参加ください。

「脱炭素経営EXPO」の詳細はこちら
※脱炭素経営EXPOは、「GX経営WEEK」の構成展です。

▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、サーマルリサイクル技術に関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他