マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは?
材料開発の成功事例や課題を解説

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは?材料開発の成功事例や課題を解説

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)は、材料開発に情報科学を応用し、新材料探索の効率化を図る取り組みです。

材料開発にかかる時間とコストの低減や未知の物質予測に役立つため、様々な企業がマテリアルズ・インフォマティクスを導入しています。

本記事では、マテリアルズ・インフォマティクスの概要や世界中に波及した背景を解説しつつ、ニーズが拡大している理由や導入企業の成功事例、今後の課題にも触れます。

また、マテリアルズ・インフォマティクスに関する情報収集の具体的な方法も紹介するので、材料開発の効率化のため導入を検討してはいかがでしょうか。
 

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは?

マテリアルズ・インフォマティクスとは、ビッグデータやAIなどの情報科学(インフォマティクス)を材料開発に応用し、新材料探索の効率化を図る取り組みのことです。

デジタル技術を駆使し、膨大な実験や論文のデータを解析することで、素材の組み合わせや製造方法の予測が可能になります。そのため、研究者の知識・経験・能力など個人の手腕に頼る従来の材料開発に比べ、開発過程の時間とコストの大幅な低減が可能です。

現在マテリアルズ・インフォマティクスは、化学メーカーや素材メーカーを中心に注目を集めており、導入した企業では成功事例が次々と出はじめています。

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)が世界中に波及した背景

マテリアルズ・インフォマティクスが注目されるようになったきっかけは、2011年に当時のオバマ米大統領が打ち出した「マテリアルズ・ゲノム・イニシアティブ」です。

このプロジェクトは、大量のDNAデータのコンピューター解析により生命科学に変革をもたらしたヒトゲノム計画にならい、材料開発に変革を起こすことを趣旨としていました。

マテリアルズ・ゲノム・イニシアティブの発動後、日本・中国・ヨーロッパなど世界各地にMI研究プロジェクトが波及し、現在に至ります。

日本では2013年に「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」が発足し、2015年から2019年まで「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI21)」に基づく研究が行われました。その後、2016年から経済産業省の予算事業が始まっています。

素材の輸出を行う企業にとって、いまやMI研究は重要な課題のひとつといっても過言ではありません。なぜなら、マテリアルズ・インフォマティクスで世界に遅れをとれば、開発力に差を付けられ、競争力の低下につながるおそれがあるためです。

こうした背景から、各企業でMI研究のニーズが高まり、マテリアルズ・インフォマティクスが推進されました。

カーボンニュートラル実現のためにも重要な意味を持つ

マテリアルズ・インフォマティクスは、カーボンニュートラル実現の観点でも重要な意味を持ちます。

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量から吸収・除去量を差し引き、実質的に排出をゼロにして、脱炭素社会を実現させる取り組みのことです。

現在は気候変動の抑制と社会経済の成長促進の両立を図るため、カーボンニュートラル実現が重要視されています。例えば、EV用の二次電池の実用や環境負荷の少ない材料の設計など、世界中で様々な取り組みが進められているところです。

マテリアルズ・インフォマティクスの活用は、カーボンニュートラル実現に向けた新素材開発の効率化につながります。次世代型電池の材料開発など、様々なシーンでマテリアルズ・インフォマティクスを導入する企業が増えれば、カーボンニュートラル実現はより現実味を帯びてくるでしょう。

カーボンニュートラルについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶関連記事:カーボンニュートラルに向けた取り組みとは?国際的な背景と企業の導入事例を紹介

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)のニーズ拡大の理由

なぜマテリアルズ・インフォマティクスのニーズはここまで拡大したのでしょうか。マテリアルズ・インフォマティクスに期待されていることを踏まえ、以下の理由を詳しく解説します。

  • 材料開発研究の効率化
  • 未知の物質の予測


材料開発研究の効率化
従来の材料開発研究は、研究者がニーズに対して理論計算を行い、既存研究を探して実験を繰り返しながら材料を試作し、物性評価を進めるといった研究・実験を繰り返す手法を取っていました。そのため、時間とコストがかかり、ひとつの材料開発に数十年を要するケースもありました。

しかし、マテリアルズ・インフォマティクスを使えば、大量の研究・実験データの分析や素材の選定、シミュレーションは、AIなどの情報科学に任せられます。その結果を受けて研究者が素材の合成や性能評価を行えば、従来よりも効率的な材料開発が可能です。

研究者が情報科学技術のアシストを受けつつ材料開発に取り組むことで、時間とコストの削減が期待できます。

未知の物質の予測
材料開発では、無限にある元素や反応条件の組み合わせから、目的に沿った機能を持つ素材の探索を行います。時には、その過程で未知の物質が偶然発見されるケースもありました。

マテリアルズ・インフォマティクスを活用すれば、既知の物質データから未知の物質が存在する可能性と特性を予測できます。うまくいけばAIが未知のパターンを見つけ出し、行き詰まっていた材料開発のプロセスが打開される可能性もあるでしょう。

そのため、マテリアルズ・インフォマティクスは、研究者の経験と知見、偶然頼りの材料開発に変革をもたらせる技術として期待されています。

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)導入企業の成功事例

マテリアルズ・インフォマティクスを導入した企業では、すでに様々な成功事例が出ています。以下に、マテリアルズ・インフォマティクス導入企業の成功事例を紹介します。

【化学業界】旭化成株式会社
旭化成株式会社は、マテリアルズ・インフォマティクスを活用し、短期間で革新的な素材の開発に繋がる成果を上げました※。例えば、従来は数年かかっていた材料開発を半年で達成するなど多数の成功事例があります。

また、同社はMI人材の育成にも力を入れており、現在では多くの製品開発にマテリアルズ・インフォマティクスを取り入れていると明かしています。
※出典:旭化成株式会社「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」

【自動車業界】トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車株式会社は、排ガス触媒、磁石、半導体、電池などの分野でのマテリアルズ・インフォマティクス活用実績を持つ企業です。

また、同社は蓄積したノウハウをもとに、少量のデータからでも効果を生み出せる材料分析・データ解析クラウドサービス「WAVEBASE」を開発しました※。

現在WAVEBASEは、同社の顧客向けのマテリアルズ・インフォマティクス基盤サービスとして展開されています。WAVEBASEの導入企業では、大量のデータ解析の時間を100分の1以下に短縮成功した事例も出ているため、今後もますます普及が進んでいくでしょう。
※出典:トヨタ自動車株式会社「WAVEBASE」

【タイヤ・ゴム業界】横浜ゴム株式会社

横浜ゴム株式会社は、2017年にマテリアルズ・インフォマティクスによるゴム材料の開発技術を確立しました※。

同社が得たのは、AIを駆使して膨大なシミュレーション結果を探索し、求める性能を実現するための設計因子と特性値のデータを短時間で導き出す仕組みです。

この技術により、最適な素材の組成(そせい)の効率的な発見が可能になりました。
※出典:横浜ゴム株式会社「横浜ゴム、インフォマティクス技術を活用したタイヤ設計技術を開発」

【石油・石炭製品業】ENEOS株式会社
ENEOS株式会社は、原理原則に基づいた提案と統計解析による提案を両立する、独自のMI技術の開発を開始しています※。その技術とは、同社が従来から保有していたコンピュータシミュレーション技術にAI技術をかけあわせたものです。

また、同社は株式会社Preferred Networksと共同で、原子レベルシミュレーター「Matlantis(マトランティス)」を開発しています。これにより、数千におよぶ原子のポテンシャルエネルギーを従来の10,000倍以上高速で解析し、分子の動きの再現を可能にしました。
※出典:ENEOS株式会社「マテリアルズインフォマティクスによる新素材探索」

【繊維業界】東レ株式会社
東レ株式会社はマテリアルズ・インフォマティクスの活用により、「CFRP」の開発に短期間で成功しています※。CFRPとは、難燃性に優れ、力学特性を持つ、航空機用途向けの炭素繊維強化プラスチックです。

また、同社はこれまでに培ったデータを活かし、顧客向けに樹脂製品の物性予測システムの提供も開始しています。
※出典:東レ株式会社「難燃性と力学特性を両立するCFRPを短期間で開発」

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の今後の課題

材料開発に変革をもたらすと期待されているマテリアルズ・インフォマティクスですが、これを最大限に活用するためには、以下のような課題もあります。

  • データベースの構築と整備
  • 解析技術の引き上げ
  • 専門知識を持つデータサイエンティストの育成

以下で詳しく解説します。

データベースの構築と整備
マテリアルズ・インフォマティクスは、大量のデータと統計アルゴリズムにより素材の選定やシミュレーションを行います。導入には過去の実験結果や論文、素材の情報を集めたデータベースが必要です。

しかし、データベースの構築には、過去の研究・実験結果が保存されていない、記録項目が統一されていない、機械学習前提の整備がされていないなどいくつかの課題があります。

そのため、まずは機械学習を前提とした記録項目の整備が必須です。また、成功・失敗にかかわらず過去の研究・実験結果を保存し、大量かつ高品質な情報を蓄積したデータベースの構築が求められます。

解析技術の引き上げ
マテリアルズ・インフォマティクスの導入には、「逆問題」に対応可能なAIソフトウェアが必須です。逆問題とは、目指す材料の機能や特性を念頭に置き、目的達成のための材料の構造・組成を探るアプローチ方法です。

しかし、一般的にAIソフトウェアは、材料の構造・組成データをもとに、配合を変えると材料の機能や特性がどうなるのかを予測する「順問題」にしか対応していません。

マテリアルズ・インフォマティクスで目覚ましい成果を得るには、データベースの構築・整備とともに、AIソフトウェアの解析技術を引き上げる必要があります。

専門知識を持つデータサイエンティストの育成
マテリアルズ・インフォマティクスに用いる情報技術は、あくまでも研究者をアシストするツールに過ぎないため、システムを有効に使いこなせる人材が欠かせません。

しかし、現在は、材料に関する専門知識とデータサイエンスの両方に詳しい人材が不足している状況です。

そのため、今後は教育機関のデータサイエンス分野の講義を充実させる、企業内でMI人材を育成するなどして、材料に関する専門知識を持つデータサイエンティストを増やす必要があります。

材料開発分野で活躍できる優秀な人材を確保するためにも、まずは展示会に参加するなどして、マテリアルズ・インフォマティクスへの理解を深めることが大切です。

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の情報収集なら「BATTERY JAPAN 二次電池展」へ

マテリアルズ・インフォマティクスへの理解を深めるには、カーボンニュートラルや次世代電池に関わる情報も同時に収集すると効果的です。

マテリアルズ・インフォマティクスの情報がほしい方や成功事例をもっと知りたい方は、「BATTERY JAPAN(バッテリージャパン) 二次電池展」へご参加ください。

BATTERY JAPAN 二次電池展とは、二次電池の研究開発や製造に必要な技術・部品および材料・装置が集まる、電池分野世界最大級の展示会です。マテリアルズ・インフォマティクスも、出展の対象製品に含まれています。

来場すれば、マテリアルズ・インフォマティクスだけでなく、カーボンニュートラルや次世代電池と材料開発をかけあわせた技術の情報も効率的に集められます。

マテリアルズ・インフォマティクスを導入検討中の方は、気になる製品や技術があれば出展社への相談や商談も可能です。材料開発支援や次世代電池など、多様なメーカーと対面でやり取りすることで、バーチャルとは違った「生きた情報」を得る機会になるかもしれません。

また、マテリアルズ・インフォマティクスに関わるメーカーや商社の場合、当展示会へ出展者としてご参加いただくことも可能です。

展示会にはマテリアルズ・インフォマティクスやカーボンニュートラル、次世代電池への関心の高い方々が来場します。自社製品・サービスに興味を持った来場者の方と、具体的な設計の相談などが行えるので、ビジネスチャンスの拡大に繋がる可能性があるでしょう。

ぜひBATTERY JAPAN 二次電池展への来場、または出展をご検討ください。

「BATTERY JAPAN 二次電池展」来場・出展案内はこちら

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の成功事例を参考に効率的な材料開発を

今後は世界中でマテリアルズ・インフォマティクスの導入企業が増え、従来に比べ大幅な材料開発期間の短縮やコスト削減が進むと予想されます。そのため、材料開発分野で競争力を維持するには、マテリアルズ・インフォマティクスの流れに乗り遅れないことが重要です。

まずは、マテリアルズ・インフォマティクスの情報を集めて理解を深め、他社の成功事例をもとに自社での導入イメージを膨らませると良いでしょう。

マテリアルズ・インフォマティクスの情報がほしい方や成功事例を知りたい方は、ぜひBATTERY JAPAN 二次電池展にご参加ください。

「BATTERY JAPAN 二次電池展」詳細はこちら
※「BATTERY JAPAN 二次電池展」は、「スマートエネルギーWeek(SMART ENERGY WEEK)」の構成展です。

 

▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、サーマルリサイクル技術に関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他