サーキュラーエコノミーとは?
そのメリット・デメリットや企業の取り組み事例を解説

サーキュラーエコノミーとは?そのメリット・デメリットや企業の取り組み事例を解説

2015年ごろからヨーロッパを中心に広がってきた「サーキュラーエコノミー」が、日本国内でも注目されはじめました。

2020年には経済産業省が「循環経済ビジョン2020」を発表、翌年には環境省・経団連が「循環経済パートナーシップ」を発足するなど、従来の一方通行型の線形経済社会活動から、持続可能な形で資源を利用する「循環経済」への移行が始まっています。

本記事では、サーキュラーエコノミーのメリット・デメリットを解説します。日本・海外の企業事例も紹介するので、サーキュラーエコノミーの導入を検討している方はぜひ参考にしてください。

「サーキュラーエコノミー」とは資源を循環させる社会経済システム

出典:環境省 令和3年版「環境・循環型社会・生物多様性白書_第2節 循環経済への移行」

サーキュラーエコノミーとは、製品ライフサイクルのあらゆる段階で資源を効率よく循環させる社会経済システムです。2015年12月のEUによる政策パッケージ承認からヨーロッパを中心に広がり、各国で「社会経済の仕組みを変える政策」として推進されています。

この流れを受けて、近年はビジネスの世界でもサーキュラーエコノミーを志向する動きが増えてきました。

サーキュラーエコノミーのポイントは、以下の3つです。

  • 資源の投入・消費を抑制して環境負荷を低減する
  • 今ある資源、製品を効率的に活用する
  • サービス化などを通じて資源と製品の付加価値を生み出す

サーキュラーエコノミーは、限りある資源の効率的な利用などを通じて、循環経済を企業の競争力の源泉とし、世界で約500兆円の経済効果があると言われている成長市場獲得を目指す取り組みです。

サーキュラーエコノミーと「3R」の違い
サーキュラーエコノミーと従来の「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」の違いを解説します。

3Rは、「排出される廃棄物」を減らす(Reduce)、再使用する(Reuse)、再利用する(Recycle)など、後処理的な考え方です。

一方、サーキュラーエコノミーは、従来の3Rの取り組みに加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化などを通じて付加価値を生み出す経済活動です※。

資源・製品の価値の最大化や資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止などを目指すため、再利用・リサイクルしやすい製品設計、製品寿命を延ばすためのメンテナンス・修理など、廃棄物処理以外の段階を重視する必要があります。

また、循環経済への移行は企業の事業活動の持続可能性を高めるため、新たな競争力の源泉として、そのビジネスモデルの台頭が国内外で進んでいます。
※出典:環境省 令和3年版「環境・循環型社会・生物多様性白書_第2節 循環経済への移行」

サーキュラーエコノミーが求められる背景|従来型の「リニアエコノミー」による環境汚染

現代社会は、大量生産・大量消費・大量廃棄が一方通行で進む「リニアエコノミー(線形型経)」です。

この線形型社会経済システムは、健全な物質循環を阻害する他、気候変動問題や天然資源の枯渇、大規模な資源採取による生物多様性の破壊など、様々な環境問題と密接に関係しています。

その結果、資源・エネルギーや食糧需要の増大、廃棄物発生量の増加は、現在世界全体で深刻化しています。

一方、国連は2019年に「2050年に世界人口は97億人に到達する」との予想を発表しました。また、OECD(経済協力開発機構)は、世界の人々の所得平均が「2060年には1人あたり600万円」に近づき、世界全体の資源利用量は現在の2倍(167ギガトン)に増加すると予測しています。

予測どおりに1人ひとりの所得が増えても、資源やエネルギーが不足し、従来のような環境問題の進行を止めなければ、人間を含む生物は豊かに暮らしていけないでしょう。

この課題を解決するためにも、リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーのような「より環境負荷の少ない経済システム」へのシフトが求められています。

サーキュラーエコノミーの仕組み

廃棄物の概念をなくすサーキュラーエコノミーでは、どのように資源・製品が循環していくのでしょうか。

以下では、その仕組みと概念図「バタフライ・ダイアグラム」を解説します。

「製造・消費・リサイクル」の循環と価値の最大化
サーキュラーエコノミーでは「製造→消費→リサイクル・再利用(=資源の抽出)→製造…」のサイクルを繰り返します。製造・消費された製品から最大限に資源を抽出して、再び製品の材料として利用する循環構造が重要なポイントです。

資源・製品を可能な限り再利用することは「ものの価値の最大化」です。1度手をつけた資源は最後まで使い切り、廃棄物を最小限に抑えます。同じ資源を繰り返し使えば、バージン原料(天然資源をもとにつくられる原料)の投入も減らせるでしょう。

また、資源としての循環が前提になるため、製品・サービスの設計段階からリサイクル・再利用のしやすさを考慮します。製品寿命を延ばすメンテナンス・修理や品質向上、より効率的な製造・販売方法を生み出すのも重要です。

さらに、「モノ」としての付加価値ではなく、「サービス」としての付加価値を生み出すなど、ビジネスモデルの転換も重要な要素になります。

「バタフライ・ダイアグラム」

出典:エレン・マッカーサー財団「循環経済のバタフライ図」

「バタフライ・ダイアグラム」は、イギリスを拠点に世界のサーキュラーエコノミーへの移行を推進する「エレン・マッカーサー財団」が提示した循環経済の概念図です。羽を広げた蝶のような形で表されているため、このように呼ばれています。

バタフライ・ダイアグラムは、中央・右羽・左羽の3つの部分に大きく分けられます。蝶の胴体にあたる中央部は、材料生産業者から消費者・利用者までの流通過程を示しています。

右羽・左羽は、資源・製品の循環モデルです。右羽の「技術サイクル」では工業製品などの循環「枯渇性資源」の循環を示し、左羽の「生物サイクル」では木材・食材など生分解できる「再生可能資源」の循環を表しています。

「サーキュラーエコノミーの3原則」とは?

エレン・マッカーサー財団は、先に解説したバタフライ・ダイアグラムとあわせて「サーキュラーエコノミーの3原則」を提唱しています。

  1. 自然システムを再生する
  2. 最大限の有用性を保ったまま製品と原料を使い続ける
  3. 廃棄物・汚染を生み出さないデザイン・設計を行う

この3原則は、バタフライ・ダイアグラムの1番左側にも記載されています。

ダイアグラムは金属などの有限なストック資源を制御し、再生可能なフロー資源の収支を合わせることで自然資本を保全・強化していく一段目の「自然システムの再生」です。

一段目からインプットした資源をできる限りループの中で循環させ、長く使用し続ける二段目の製品や原料を使い続けます。

そして、二段目から出る汚染や廃棄といった負の外部性を特定し、排除する設計により、システムの効率性を高めることを求める三段目から構成されています。

両方をあわせて考えると、サーキュラーエコノミーの本質やビジネスとの関係がより深く理解できるでしょう。

サーキュラーエコノミーのメリット

サーキュラーエコノミーにシフトするメリットは、大きく分けて3つです。これらメリットが企業の持続性や、競争力の源泉につながるといわれています。

  • 脱炭素化・カーボンニュートラルにつながる
  • 中長期的な資源節約・コスト削減ができる
  • 新たなビジネス創出のきっかけになる

それぞれについて詳しくみていきましょう。

脱炭素化・カーボンニュートラルにつながる
社会全体・地球環境へのメリットは、脱炭素化・カーボンニュートラルにつながることです。

今までの経済システムでは、廃棄物処理の段階で多くの二酸化炭素が発生してきましたが、サーキュラーエコノミーにシフトすると、処理段階だけでなく他の過程でもCO2排出を抑制できる可能性があります。

現在も、再生可能エネルギーへのシフトやエネルギー利用の効率化などに取り組んでいる企業・自治体は多いでしょう。しかし、エレン・マッカーサー財団は、エネルギー関連の取り組みだけでは「温室効果ガス全排出量のうち55%にしかアプローチできていない」と報告しています。

カーボンニュートラルを達成するには、社会全体のサーキュラーエコノミーへのシフトが必要です。

カーボンニュートラルについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
▶関連記事:カーボンニュートラルに向けた取り組みとは?国際的な背景と企業の導入事例を紹介

中長期的な資源節約・コスト削減ができる
製品の製造段階では、資源消費の最小化、エネルギー消費の最小化並びに製造段階での廃棄物の発生抑止などによる効果が創出されます。加えて、使用済み製品を最大限に再利用・リサイクルするサーキュラーエコノミーは、資源の節約・コスト削減につながります。

可能な限り既存の資源を使い回せば、バージン原料・自然資源を節約できます。新たな資源の採掘・生産への費用も減らせるので、中長期的にはコスト削減も目指せます。

また、メンテナンス・修理やグレードアップによって製品寿命が延びれば、サプライチェーン全体でもコスト削減ができます。製品価格の改善や品質向上など、企業にも消費者側にもプラスの変化が起こるでしょう。

新たなビジネス創出のきっかけになる
世界的コンサルティング企業は、サーキュラーエコノミーから生み出される経済効果は「2030年までに約500兆円」と予測しています。サーキュラーエコノミーを取り入れた事業・ビジネスは未開拓の部分が多く、これから新たな市場が生まれる可能性も高いです。

サーキュラーエコノミーは、従来のリニアエコノミーと基本的な考え方・前提から異なる経済システムです。実現するためには、今までにない様々な工夫・取り組みが必要になり、新たなビジネスを生み出す機会であるとも考えられます。

サーキュラーエコノミーの実現には、高度なテクノロジー・ノウハウも必要です。他社との協業や産学連携などで、新たな試みを取り入れながら実現を目指します。あらゆる方向に発展する可能性がある点も、サーキュラーエコノミー導入のメリットです。

サーキュラーエコノミーのデメリット

サーキュラーエコノミーには、中長期的なメリットが多いです。一方で、短期的に見るとデメリットの懸念もあります。

  • サーキュラーエコノミーに移行するためにコストがかかる
  • 製品の機能・デザインに制約が生まれやすい

それぞれについて詳しくみていきましょう。

サーキュラーエコノミーに移行するためにコストがかかる
サーキュラーエコノミーを取り入れるためには、多額のコストがかかります。

今まで廃棄処分していたものをリサイクル・再利用するには、新しい設備・機械の導入が必要です。また、使用済み製品の回収やリサイクル・再利用を行うためのシステム構築、組織運営にもコストが発生します。

しかし、先述のとおりサーキュラーエコノミーは中長期的に考えるとコスト削減につながります。環境問題・SDGsに向けた企業の取り組みは、消費者や投資家への大きなアピールポイントにもなるため、長い目で見て、取り組む姿勢が大切です。

製品の機能・デザインに制約が生まれやすい
リサイクル・再利用が前提となる製品・サービスは、機能性やデザインに制約が生まれやすくなります。

例えば衣料品の場合、ポリエステルなどの混合素材を使うと耐久性・デザイン性は高くなりやすいですが、リサイクル・再利用には高度な技術が必要です。

そこで、コットンやシルクなど天然由来の材料を使えば、リサイクルの難易度が下がります。

しかし、天然由来の材料はポリエステルほどの耐久性がない場合が多く、変色・しわなどが起こりやすいため、デザインにも制約が生まれます。

サーキュラーエコノミーを導入して製品・サービスを開発しても、利用してもらえなければ意味がありません。また、価値の向上に加え、消費者から理解を得る活動も必要です。

消費者に受け入れられれば、制約こそがアピールポイントとなる可能性もあります。

サーキュラーエコノミーを推進する企業の取り組みとは?

ここまでサーキュラ―エコノミーの特徴を紹介してきましたが、実際に、大手企業はサーキュラーエコノミーをどのように推進しているのでしょうか。

以下では、日本・海外の企業事例を紹介します。自社に取り入れられる方法や考え方がないか、検討してみてください。

日本の事例:空調機器メーカー
ある空調機器メーカーでは、使用済みのエアコンから冷媒を回収・再利用するスキームを作っています。回収した冷媒の状態に応じて、簡易再生・再生・破壊の3つの処理ルートを構築しました。

温室効果ガスのひとつ・フロンの放出を防ぐ取り組みは、現在ヨーロッパを中心に行われています。

世界の事例:自動車メーカー
ある自動車メーカーでは、自動車製造の「再生資源使用率100%・リサイクル100%」を目指しています。

現在生産中の製品には、1台あたり平均60kgの再生プラスチックが使用されています。また、電気自動車に搭載している高電圧バッテリーは、素材の約90%のリサイクルが可能です。

さらに、製造プロセスで排出される廃棄物のうち、99%はリサイクル・熱回収で再利用されています。

ここ最近では、デザイン・開発・製造の全てのプロセスでサーキュラーエコノミーの3原則を貫いたコンセプトカーを発表しました。外装・内装にも表面仕上げは行わずにリサイクルしやすさを追求しながら、高いデザイン性も維持し、モーターショーでも高い評価を得ています。

最新の情報収集なら「サーキュラー・エコノミーEXPO」へ

サーキュラーエコノミーのヒントを得たい方は、まず展示会を訪れてみてはいかがでしょうか。特に、サステナブル経営を実現したい企業のための商談展「サーキュラー・エコノミーEXPO」がおすすめです。

サーキュラー・エコノミーEXPOは、日本唯一の循環経済・サステナブル経営に特化した専門展です。会場には、以下のような事業に取り組むメーカー・商社が出展します。

  •  サーキュラーデザイン
  • サステナブルマテリアル
  • PaaS(製品のサービス化)支援
  • 資源回収・リサイクル・再製品化技術 など

サーキュラー・エコノミーEXPOでは、実際の機械・デモ機を見ながら商談が可能です。出展企業の方から詳細を聞けるうえ、予算・納期なども直接相談できます。なお、サーキュラー・エコノミーEXPOは、来場登録をすれば無料で入場できます。

同時開催の「脱炭素経営EXPO」や「SMART ENERGY WEEK」とあわせて、1,100社以上が出展するため、思わぬ製品・サービスやテクノロジーとの出会いも起こるでしょう。

会期中は毎日セミナーが開催され、サーキュラーエコノミーへの理解もさらに深められます。

また、出展者と来場者の間で具体的な商談も行われるため、出展者側にもメリットがあります。

例えば、設備導入を検討しているメーカー、新商品のヒントを得たいメーカーなどに、自社商品のアピールが可能です。また、活発な商談が行われるため、新規顧客獲得につながりやすいのもメリットでしょう。

出展スペースには限りがあるため、早めの申し込みがおすすめです。

サーキュラー・エコノミーEXPOの詳細は以下のとおりです。

■サーキュラー・エコノミーEXPO
「サーキュラー・エコノミーEXPO」出展・来場案内はこちら

 

50年先の未来に向けて「サーキュラーエコノミー」への取り組みを

サーキュラーエコノミーとは、製品ライフサイクルのあらゆる段階で資源を効率よく循環させる社会経済システムです。

様々な環境問題の解決を目指ししつつ快適な生活を送るためには、現在の社会経済システムから、環境負荷の少ないサーキュラーエコノミーへの切り替えが求められます。

近年、サーキュラーエコノミー市場の拡大、ESG推進企業への支持上昇なども追い風となり、ビジネス界も新しい経済システムへと動きはじめました。

サーキュラーエコノミーの導入を検討している方は、正しい知識を得て取り組みのヒントをつかむためにも、ぜひ展示会への来場をご検討ください。

「サーキュラー・エコノミーEXPO」詳細はこちら
※「サーキュラー・エコノミーEXPO」は、「GX経営WEEK」の構成展です。

 

▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、サーマルリサイクル技術に関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他