DAC(直接空気回収技術)が注目される理由は?
仕組み・特徴や抱える課題を解説

DAC(直接空気回収技術)が注目される理由は?仕組み・特徴や抱える課題を解説

CO2排出量の増加による気候変動を受けて、近年、世界的にカーボンニュートラル実現に向けた流れが加速しています。日本でも、2020年に菅元総理大臣が2050年までのカーボンニュートラルを宣言したことから、実現への取り組みが進んでいます。

DACは、CO2排出削減とともに、カーボンニュートラルの実現に貢献する将来の技術です。本記事では、DACの基本知識や仕組み、特徴や課題を解説します。

 

DAC(直接空気回収技術)とは

DACは「Direct Air Capture」の略称で、直接空気回収技術のことです。カーボンニュートラル実現に役立つ技術として注目を集めています。以下では、DACの概要と注目される理由、CCSとの違いを解説します。


DACの概要
DACは、大気中から直接CO2(二酸化炭素)を分離・回収する技術の総称です。

DACでは、大気中の低濃度のCO2を、特殊な吸収液や吸着剤、分離膜などを利用して分離・回収します。回収したCO2は地下の安定した層に貯留する他、CO2を活用した合成燃料や合成化学品を製造することで、産業分野での資源として有効利用される仕組みです。

DACの技術は、CO2の分離・回収技術の研究開発をはじめ、大規模な実証研究が進められています。日本でも化学吸収法や膜分離法などの分離・回収技術の研究が進み、実用化を目指している段階です。


世界中でDACが注目される理由
DACが注目される理由には、2050年までのカーボンニュートラル実現が挙げられます。これまで、CO2の排出を抑制するために多くの省エネルギーや再生エネルギーに関する研究がなされてきました。

しかし、CO2の排出を抑制するだけでは、カーボンニュートラルの実現は難しいと予想されています。そこで注目される技術が、DACを含むネガティブエミッション(負の排出)技術です。

ネガティブエミッション技術は、大気中に蓄積されたCO2を分離・回収して、CO2の濃度を低減します。ネガティブエミッション技術はDAC以外にも様々あり、主な例は次のとおりです。

  • DAC
  • 植林
  • 土壌炭素貯留
  • 岩石の科学的風化
  • 沿岸部のブルーカーボン
  • バイオマス発電の炭化

DACは、植林やバイオマス発電の炭化などのネガティブエミッション技術と比べると、設置場所を選ばず、設置する面積も小さい点が特徴です。今後、多方面の活用が見込まれることもあり、世界中で注目されています。


DACとCCSの違い

DACと似た言葉にCCSがあります。CCSは「Carbon dioxide Capture and Storage」の略称で、火力発電所や製鉄所などで発生するCO2を分離・回収し、地中に貯留する技術です。

DACとCCSは、CO2を分離・回収して固定化する点では共通します。主な違いは、DACが回収する対象は大気中のきわめて低濃度のCO2であるのに対して、CCSは火力発電所や製鉄所など比較的濃度が高いCO2を対象としている点です。

なお、DACとCCSを組み合わせて、DACCS(大気中のCO2を直接回収し、貯留する技術)と呼ばれる場合もあります。

CCSについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶関連記事:CCS・CCUSとは?違いやCO2排出量削減に向けた国内外の取り組みを紹介

 

DACの仕組み

DACの大まかな仕組みは次のとおりです。

  1. 大気中の低濃度のCO2を含む空気を回収
  2.  CO2の分離・回収(膜や吸着剤の利用、ドライアイスでの分離など)
  3. CO2の貯留・利用

DACでは、ファンなどを用いて空気を取り込み、その空気からCO2を分離・回収して貯留・利用します。

また、DACでは、主に次のCO2を分離・回収する方法が想定されています。

 

DACのメリット

DACの実用化には複数のメリットが挙げられます。主なメリットは次のとおりです。

  • 回収したCO2は資源に利用できる
  • 世界中のどこにでも設置できる

それぞれのメリットを、以下で詳しく解説します。


回収したCO2は資源に利用できる

DACのメリットは、回収したCO2を資源として有効利用できる点です。具体的には、コンクリートなどの建材、包装材や容器などの化学製品などが挙げられます。その他、触媒開発やメタネーション、人工光合成や藻類への利用など、多彩な活用が期待されています。

CO2を炭素資源として捉え、燃料をはじめとした様々な用途で再利用することは「カーボンリサイクル」と呼ばれます。

カーボンリサイクルは、現在、実用化に向けたコスト削減や技術開発が進められている途上です。国は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」のなかで、DACを含むカーボンリサイクル技術を今後成長が見込める取り組みと位置付けています。


世界中のどこにでも設置できる
DACは前述のとおり、大気中の空気からCO2を分離・回収する技術です。CO2は世界中の空気のなかに存在するため、立地条件にとらわれず、どこにでも設置できる点は大きなメリットです。

また、CO2の吸収の代表例に植物の光合成が挙げられますが、植樹でCO2を回収するには木を育てる時間的な労力や相応の場所が必要です。

一方、DACのプラントは、植樹するほどの広大な土地を必要としません。比較的少ない時間と労力でCO2を分離・回収できる利点が挙げられます。

 

DACが抱える課題

DACは、CO2の気候目標達成への期待がかかる一方、現時点では複数の課題を抱えています。主な課題は次のとおりです。

  • コストがかかる
  • 実用化がまだ進んでいない

それぞれの課題の詳細を解説します。


コストがかかる
DACは低濃度のCO2を分離・回収するため、大きなコストがかかる点が課題です。

大気中のCO2濃度は、通常400ppm(0.04%)ととても低い数値です。高濃度のCO2が含まれる石炭火力発電所の排出ガス(12~14%)と比較すると、CO2の分離・回収コストが約3倍以上かかるといわれています。


実用化がまだ進んでいない
DACは海外で一部実用化されているものの、薄い大気中のCO2を分離・回収する技術は多くの技術的な革新・進歩が必要です。技術的な難易度は高く、実用化に向けて求められるハードルは多数存在します。

必要なのはCO2の分離・回収に関する技術だけではありません。大気を施設内へ大量に回収する技術、回収したCO2を効率よくハンドリングする技術も求められます。

その他、DACのためのエネルギーも必要であり、太陽光発電や風力発電、地熱発電などの再生可能エネルギーを効率的に利用する技術も検討されています。

 

国内外のDACの実例

DACに向けたCO2の分離・回収技術、DACを用いたプラントの実用化は、多くの国や地域で研究されています。以下では、国内外のDACの事例を解説します。


海外のDACの例
海外のDACの事例には、世界初の商用プラントを稼働中のスイスClimeworks社※1が挙げられるでしょう。

Climeworks社のプラントでは、コレクタ内部に設置されたファンで大量の大気を取り込み、フィルターを通じてCO2を分離・回収します。回収されたCO2はアイスランドの提携企業へ輸送され、地下の貯留層へ半永久的に保管される仕組みです。

また、アメリカはDACへ積極的な投資を行っています。2023年8月11日には、アメリカのエネルギー省が大規模施設の開発推進のために12億ドルの拠出を発表しました。

助成先のひとつである石油会社のOccidental社※2は、テキサス州に世界最大規模(年50万t)のDACを建設中です。政府によるDACへの支援は、企業にとって新たなビジネス機会です。

その他、カーボンクレジット(Carbon Credit)を活用した取り組みも進められています。カーボンクレジットは、企業がCO2の削減努力を行って得られたクレジット(排出権)を他の企業と取引できる仕組みです。

例えば、2023年8月1日、航空業界大手の全日本空輸株式会社(ANA)※3は、DAC技術に取り組むアメリカ企業・1PointFiveと調達契約を締結しました。

この契約により、ANAは2025年稼働予定のDACプラントで生じるカーボンクレジットを、3年間で3万トン以上調達する予定です。

※出典1:Climeworks社「Direct air capture: our technology to capture CO2」
※出典2:Occidental社「Occidental, 1PointFive to Begin Construction of World's Largest Direct Air Capture Plant in the Texas Permian Basin」
※出典3:全日本空輸株式会社「ANA、CO2除去技術DACに取り組む 米国企業1PointFiveと契約締結」


国内のDACの例
国内のDACの事例では、川崎重工業株式会社※1の取り組みが挙げられます。

川崎重工業株式会社では、長く潜水艦や宇宙船などでの固体吸収材を用いたCO2分離回収技術を開発していました。長年の実績と経験を活かして新しい固体吸収材を開発し、従来の方式と比較して省エネルギーでのCO2の分離・回収を実現しています。

また、東京大学の先端科学技術研究センター※2では、CO2をビルの空調設備で回収する都市型DACシステムを開発中です。人が多く活動するビルに着目して、CO2を効率的に回収・有効利用する研究を進めています。

※出典1:川崎重工業株式会社「空気からのCO2分離回収(DAC)技術(DAC:Direct Air Capture)」
※出典2:東京大学「大気中のCO2を資源に変えられるってホント?」

 

DACの今後の展望

前述のとおり、DACに関する研究は日本を含む世界各国で行われています。研究が進み、実証を交えた検証が行われれば、ゼロカーボン社会の実現に役立つでしょう。個々の研究や実証だけでなく、サプライチェーンの構築や社会的な制度設計も必要です。

DACは、気候変動に影響を与えるCO2を大気中から回収する技術であり、SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」にも関係しています。気候変動への実効的な対策として、DACは今後重要な技術です。

なお、カーボンニュートラルに向けたDACの活用例に、合成燃料(e-fuel)が挙げられます。合成燃料はCSSやDACで回収したCO2とH2(水素)で製造され、人工的な原油とも呼ばれます。

合成燃料は原油と比べて重金属や硫黄分が少なく、利用時もクリーンなエネルギーです。また、ガソリンエンジンなどの既存の設備を活用でき、導入コストを抑えやすいメリットがあります。

 

DACの情報収集に「CCUS WORLD」の活用を

DACに関する最新の知見や情報を収集したい方は、ぜひ「CCUS WORLD(シーシーユーエスワールド)」へご来場ください。

CCUS WORLDは、CO2の分離・回収、利用・貯蔵に関する技術の展示会です。CCUS WORLDでは、次の技術や製品、サービスが出展されます(一部抜粋)。

  • DAC
  • CO2分離・回収設備
  • CO2分離・回収に関するソリューション(化学吸収や物理吸収など)
  • CO2を輸送する船や車両
  • カーボンリサイクルや利用に関する技術(合成燃料やメタネーションなど)
  • 合成技術、貯留技術

CCUS WORLDでは、DACそのものに関する技術やサービスの他、CCSやCCUSにも関わるCO2の分離・回収の技術など、様々な技術やサービスが出展されます。DACの詳細を知りたい方に適した場所です。

また、CCUS WORLDでは、会期中に業界の第一人者による特別講演が開催されます。カーボンリサイクルやネットゼロカーボン社会など、貴重な講演を聞ける点もメリットです。

なお、CCUS WORLDでは、展示会への出展も受け付けています。CCUS WORLDへの出展は、自社の製品やサービスをアピールして、リード見込み客と接する良い機会です。出展は空き枠が埋まり次第締め切りとなるため早めのお申し込みをおすすめします。

来場、出展ともにメリットのある展示会のため、ぜひ参加をご検討ください。CCUS WORLDの詳細は、以下で確認が可能です。

「CCUS WORLD」来場・出展案内はこちら

 

DACはカーボンニュートラルの鍵を握る技術

DACが実用化されれば、大気中にすでに排出されたCO2を分離・回収できます。回収したCO2の有効利用が見込める他、設置する場所を柔軟に選びやすい点がメリットです。

一方、大気中の低濃度のCO2を分離・回収するため、コスト面や実用化に課題があります。現在、世界各国で研究が行われており、将来的な動向が注目される技術です。

CCUS WORLDでは、DACやCO2の分離・回収に関する様々な製品やサービスが出展されます。DACに携わる研究者や開発者の方が来場されるので、自社製品やサービスの出展もおすすめです。

DACに興味のある方は、ぜひCCUS WORLDへの来場・出展をご検討ください。

「CCUS WORLD」の詳細はこちら

※「CCUS WORLD」は、「スマートエネルギーWeek(SMART ENERGY WEEK)」の特別企画です。

 

▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、サーマルリサイクル技術に関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他