【脱炭素経営の前線から 15】

「再エネの活用は経営の重要課題」

公益財団法人 自然エネルギー財団 シニアマネージャー 石田雅也氏

今回は、2022年11月脱炭素経営EXPO(関西)同時開催セミナーへの初登壇が決定した、石田雅也氏の最新インタビューをお届けします。石田氏は孫正義氏創設の自然エネルギー財団シニアマネージャーとしてご活躍されるとともに、昨年9月には再生可能エネルギーの電力100%の利用を推進する国際的企業の連合体RE100の技術諮問グループメンバーに唯一の日本人として就任され、その知見に注目が集まっています。就任までの経緯から脱炭素経営に悩む日本企業関係者へのヒントまで、セミナーに先駆けてお聞きしました。

・プロフィール【石田 雅也】

2017年4月から現職。企業・地域における自然エネルギーの利用拡大に向けた情報発信や政策提言を担当。「自然エネルギーユーザー企業ネットワーク」(RE-Users)を運営するほか、地域の自然エネルギーの開発・利用を促進する「RE-Users地域連携プロジェクト」を主導する。2021年9月から国際イニシアティブ「RE100」のテクニカル・アドバイザリー・グループのメンバーを務める。2012年10月から2017年3月まで電力・エネルギー専門メディアの「スマートジャパン」をエグゼクティブプロデューサーとして運営。それ以前は日経BPで日経コンピュータ編集長やニューヨーク支局長などを務める。東京工業大学工学部卒、同大学院情報工学専攻修士課程修了。


■政府とも対話しながら、制度見直しを促進

―まずは、石田さんが所属されている、自然エネルギー財団について教えてください。

石田 私どもの財団は、東日本大震災における福島第一原子力発電所の事故を契機に生まれました。当時、首都圏は計画停電が続く前代未聞の状態となりましたね。火力発電を中心に原子力がそれを補う日本の電力供給構造の問題に直面したわけです。この状況を見たソフトバンクグループの孫正義代表が、「今後も日本が国として成り立つためには、自然エネルギー主体のエネルギー供給に変えていく必要がある」との危機感を持ち、適確な情報を発信できる研究機関を作ろうと2011年に設立されました。

設立者である孫正義氏が会長となり、理事長にはスウェーデンの元エネルギー庁長官であるトーマス・コーベルエル氏が就任しています。ヨーロッパを中心にエネルギー分野で広い人脈を持つ人物なのですが、会長からの要請をうけて「ぜひ日本のために活動したい」と引き受けてくれました。

当財団は、国際性を大きな特徴としています。日本国内の閉じた研究ではなく、海外の研究者や研究機関とも連携しながら、世界のエネルギー事情を踏まえて日本を自然エネルギー主体に変革していきたいと考えています。海外の良い部分を日本に取り込んだり、日本向けにアレンジしたものを日本で広めたり、イベントを開催する場合も海外の専門家を招へいしています。

 

―自然エネルギーに関する情報を、国際的視野で発信ができる研究機関なのですね。

石田 はい。そして私たちの活動には、大きくは3つの柱があります。ひとつめは調査研究を行いレポート等を発行すること。2つめは調査研究をもとにイベントを開催して、広く情報を発信すること。3つめは政策提言を行い、政府とも対話をしながら制度の見直しを促進していくことです。

■RE100参加企業が、2番目に多いのは日本

―自然エネルギー財団に、石田さんが入られたご経緯は?

石田 以前はソフトバンクグループのアイティメディアで「スマートジャパン」というエネルギー分野のメディアを立ち上げ、責任者を務めていました。多方面からご支持をいただくメディアに成長したのですが、メディアとは日々新しい情報を出し続ける仕事ですから、やりがいを感じながらも、もっと深く掘り下げて研究できる仕事に移りたいと思ったのが財団に入ったきっかけです。私はもともと技術系のメディア業界におりまして、雑誌「日経コンピュータ」編集長や、アメリカを中心としたエレクトロニクスで一番大きな雑誌「EE Times」の日本語版立ち上げなどもやりました。

 

―ITやエレクトロニクスからエネルギー分野へとご専門を変えられた中で、昨年はRE100のテクニカル・アドバイザリー・グループのメンバーに就任されました。石田さんがメンバーに選ばれたのは、やはり専門的分野に関する強味があったからでしょうか。

石田 2017年に財団に入って以来、私は「企業の自然エネルギー調達の支援」を担当しています。調達方法を詳しく調査して情報発信をし、政策提言を行うこと。そして日本国内の企業が自然エネルギーの電力を使いやすくすること。これが私のミッションとなりました。そして企業の再エネ調達に関する活動を続けていく中で、多くの企業とディスカッションや情報交換させていただく場を持つことができました。これは日本国内に限ったことではありません。アメリカやヨーロッパなど海外にも、エネルギーを利用する企業の集まりがあります。そういった海外イベントに出席して交流を続けるうちに、RE100のメンバーや日本でRE100関連の活動をしている方々との情報交換も頻繁に行うようになりました。2年前にはRE100が日本市場を開設するレポートを発行したのですが、その一部も私が執筆することになりました。このような活動が元となったのだと思います。

RE100参加企業の数で、アメリカについで2番目に多いのが日本なんです。日本企業の加盟は今後も増え、さらに中国も増えると見込まれています。そこで、ヨーロッパとアメリカの専門家だけで構成されていたRE100テクニカルクライテリアの検討メンバーに、昨年9月から私と中国からも1人加わる体制になりました。日本の状況を伝えてRE100の技術要件にどのように整合性をもたせていくのかという部分と、逆にRE100で決定されたことを日本の皆さんにお伝えするといったことが、私のミッションとなるととらえています。

 

■再エネ調達における注意点を、セミナーで

―日本企業は、再生可能エネルギー導入待ったなしの状況となっています。今回のセミナーで、企業に対して伝えたいことは何でしょう。

石田 RE100をはじめとして、今は世界中の企業が脱炭素を最重要の経営課題と認識し、さまざまな取り組みをされています。少し前までは日本の経営者の認識は海外と比べると劣っていると言われたりもしていましたが、もう違います。このまま気候変動が進むと、気温上昇によって農作物を栽培できなくなり、災害などによって工場も操業できなくなる可能性が高まります。そこから関連して金融やサービス業、流通業と、すべての業種にかかわる重大な問題であることと多くの経営者が認識しています。気候変動の問題は社会貢献の観点だけではなく、経営のど真ん中の課題になっていますね。

セミナーでは、大企業だけではなく中小の企業まで意識が広がってきた今、脱炭素経営にとって重要なトピックである、再エネ電力を調達するためにどのような方法があるのかについてお話しできればと考えています。なかでも、事業者に新しい発電所を作ってもらってその電力を長期で買い取る「コーポレートPPA」について最新の動向をご紹介する予定です。さらに電力調達にはさまざまな方法があり、こちらについても注意点とともにお話します。

その一例をあげますと、最近は「再エネ100%メニュー」といったものが小売事業者から販売されていますが、既存の電力や証書を買う場合であれば、運転開始から15年以内のものを買うことをおすすめします。発電設備の投資回収期間がだいたい15年なので、効果を考えるとできるだけ新しいものから買うことが重要なのです。RE100でも技術要件の改定を検討中で、15年ルールを要件として盛り込む予定になってます。

このような最新の状況や注意点、世界標準の考え方についてお示しできればと思います。

―脱炭素経営にこれから着手される方に、ぜひ聞いていただきたい内容ですね。

石田 再エネ電力は高いと思い込んでいる方もいらっしゃいますが、実際のところ発電コストはどんどん下がっていまして、既に化石燃料を主体にした電力より安くなっています。コストの問題は解決できていますので、あとは調達方法を考えるだけ。決して難しいことはなく、講演を聞いてご理解いただき、ぜひ実行に移していただければというのが、私の一番の希望です。