リチウムイオン電池の先駆者パナソニックの、持続可能な社会に向けた戦略とは…【関西】二次電池展 11月16日開幕
パナソニック エナジー(株) 副社長執行役員 CTO 渡邊 庄一郎氏
《写真提供 パナソニック》パナソニック エナジー(株) 副社長執行役員 CTOの渡邊庄一郎氏
2022年11月16日(水)から18日(金)の3日間にわたり、インテックス大阪で「【関西】二次電池展」(通称:バッテリー大阪)が開催される。二次電池の研究開発、製造に必要なあらゆる技術、部品・材料、装置、二次電池が出展する、西日本最大の二次電池の専門展だ。
世界的な環境意識への高まり、また欧州や北米をはじめとする環境規制への対応から、自動車の電動化はまったなしの状況だ。電気自動車(EV)はもちろん、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)などあらゆる電動車両の核となる二次電池の技術向上、そして生産体制の確保が急務となっている。世界の先端技術が一堂に会する二次電池展への期待も高まっている。
リアル開催となる二次電池展は、コロナ禍でビジネスの起点がオンラインによりがちな今だからこそ、人と情報が集まる貴重な場となるはずだ。本展および、本展を構成展の一つとする「スマートエネルギーWeek」は、徹底した安全対策を実施し、予定通り開催される。
二次電池展の目玉のひとつであるセミナーでは、自動車メーカーなど業界トップが登壇する全90講演を開催する。
「持続可能社会のカギとなる電池、その政策と企業戦略に迫る」をテーマとした基調講演では、パナソニック エナジー(株) 副社長執行役員 CTOの渡邊庄一郎氏が「持続可能な社会に向けたパナソニックの戦略」と題し登壇する。電池技術の先駆者であり続けるパナソニックのリチウムイオン電池を中心とした今後の技術戦略とは。
※この記事は、2022年3月東京開催「二次電池展」での講演に際しインタビューした内容です。記事内の社名・役職等は当時のものです。(2022年2月21日「response」掲載記事の再掲)
「黒鉛」負極材料の主流を作り上げた
《写真提供 パナソニック》パナソニックのリチウムイオン電池
パナソニックの社内カンパニー、エナジー社で副社長CTO(最高技術責任者)を務める渡邊庄一郎氏は、1990年の入社以来、一貫してリチウムイオン電池の開発に携わってきた。渡邊氏は「半導体や液晶が日本に残せなくて、電池だけがかろうじて土俵際で残っているのは、中身のケミストリーを変えると工場が復活するからだ」と語る。
渡邊氏が松下電器産業(現パナソニック)に入社した当時は、リチウムイオン電池の開発がまさに始まったばかりだった。「松下がリチウムイオン電池を始めたのが1989年。わずか3人でスタートし、私が4人目のリチウムイオン開発のメンバーとして加わった。その時には、だいたい概念的なものはわかっていたが、材料メーカーはまだ存在していなかったので、自前で合成したり調合したりしてやっていた」と渡邊氏は振り返る。
また「当時は金属リチウムを使った円筒型の一次電池を二次電池にしようというのが普通のアプローチで、松下もその方向で開発を進めていた。ところがそれとは異なる電池が他社では開発されていそうだというぼやっとした情報があり、うちでもやらねばならないという走りの年だった」とも。
結局、他社のグループは1992年にリチウムイオン電池の実用化に成功。松下はその2年後に漕ぎ着けることになる。「先行した他社はいずれも負極材料がハードカーボンだった。ハードカーボンは放電カーブがフラットではなくて、なだらかに落ちる。現在、負極材料として主流になっているのは黒鉛だが、その黒鉛を最初に実用化したのが、松下と三洋電機の2社だった」と渡邊氏は語る。
二次電池の行き着く先はEVである
一方、正極材について渡邊氏は「100%コバルトだった。すごく合成が簡単で、新入社員の私でも1日で合成できた。それですぐに普及したが、コバルトは希少金属なので相場が乱高下する。コバルトを減らしていくことをやらなければならない、というのは最初から認識されていた」と解説。
そうした課題と同時に、二次電池の行き着く先がEVである、ということは当初より開発者の共通認識だったという。「最終的にはEVだよねとなった時に、コバルトではあり得ないということは計算すればわかる話だった。パナソニックは現在、NCA(ニッケル酸リチウム)というニッケルが90%以上の正極材を使っているが、その開発に着手したのが1994年。100%コバルトを使ったリチウムイオン電池を出す頃には始めていた」と明かす。
「電池は基本的に丸か角かで、中身が電極体と電解液しかない。パナソニックならではの特徴というものを申し上げるのは難しいが、強いていうならば常に新しい材料系などの本質的なところを先頭切ってリスクをとってやってきたということに、自負はある。最初はコバルト100%で始めたが、それを3分の1にし、さらに5%以下と、その先頭を走って減らし続けてきている」と渡邊氏は胸を張る。
さらに「テスラ向けの出荷数が100億個を超えた。お客様に高品質の電池を届け続けること、そのレベル感はすごく難しい。1個や2個できますというレベル感ではなくて、100億個の電池が今、市場のあちらこちらでずっと動いていて、それが寿命を終えるまで安全でないといけないということが求められているので、そこも重要なポイントだ」とも。
リチウムイオン電池では「そう簡単に負けない」
《写真提供 パナソニック》パナソニック エナジー(株) 副社長執行役員 CTOの渡邊庄一郎氏
フロントランナーとして開発に携わってきた渡邊氏は、リチウムイオン電池の先行きをどう描いているのか。
「電池の性能というか、蓄電能力を増やしていくというのはすごく本質的なアクション。私なりには半導体とか液晶が日本に残せなくて、電池だけはかろうじて土俵際で残っているのは、中身のケミストリーを変えると工場が復活するからだと考えている」
「だから古い機械でも最先端のモノが造れるというところが結構ある。液晶や半導体はジェネレーションがチェンジすると生産設備が陳腐化してしまって役に立たなくなるが、それが電池だけは中身さえ変えれば常に最先端のモノが造れるというのが大きなポイント」と指摘する。
その上で渡邊氏は「基本的には容量を上げる力というのは、他社を常にリードして30年やってきたので、そこの持続的ステップアップ能力は持っていると思う」と強調。
ステップアップの伸びシロを問うと、「理屈上はまだ少なくとも手の内にある技術で2割くらいは上げられる」と答える。「ネタがないわけではない。やるべきことはわかっているが、バランスをとらないとだめ。性能は出せてもすごく不安定ではだめだし、しかも用途がEVなので、長期的な信頼性が無いと話にならない。それだけでもネタとしてはまだたくさんある」と応じた。
EV市場では航続距離を大きく伸ばせる次世代電池として全固体電池への期待が高まっているが、渡邊氏は「固体電池など様々な次世代電池の可能性は当然あり、そこも網羅的にはやっている」としながらも、「ただ液式のリチウムイオン電池のコストパフォーマンスが向上している今、新しいことをやってそこに追いつこうとするには、現在の規模までいかないと、なかなか難しいだろう」と話す。
その上で「液式のリチウムイオン電池を支えている身からすると、そんなに簡単に負けないとは思っている」と言い切る。というのも「全固体電池は電解質が固体になるわけだが、液式レベルの性能や低価格化を実現するには、固体電解質材料や製造プロセス等にいくつかのブレークスルーが必要だ。技術は進化していくとは思うが、現状の液式の産業規模の供給ができるようになるまでには時間がかかるとみている」からだ。
環境へのコミット「我々がやらねば誰がやるのか」
渡邊氏は「パナソニックは、環境に対していろいろコミットしていくような会社になっていくべきだと思っている。先日、パナソニックの楠見雄規社長がグリーンインパクトという言葉を使って表現したが、エナジー社がそのインパクトの一番大きなポイントを出せるカンパニーだと思っている。「我々がやらねば誰がやる」と考えているので、そうした意志をお伝えしたい」と講演への意気込みを語っていた。
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そう話す渡邊氏は11月16日からインテックス大阪で開催される二次電池展の2日目に行われる基調講演で「持続可能な社会に向けたパナソニックの戦略」をテーマに再び登壇する。ぜひ会場でリアルの講演を聴講いただきたい。
■【関西】二次電池展(通称:バッテリー大阪)
会期:2022年11月16日(水)~18日(金)10時~17時
会場:インテックス大阪
主催:RX Japan 株式会社
※8月23日現在。最新情報は展示会HPをご確認ください
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