ESSとは?
電力貯蔵システムの役割や機能、普及に向けた課題などを解説

ESSとは?電力貯蔵システムの役割や機能、普及に向けた課題などを解説

ESS(Energy Storage System)は発電した電力を一時的に貯蔵し、需要にあわせて電力を供給するシステムです。世界中で脱炭素が推進されるなか、電力を効率的に貯蔵・供給するESSの需要が増加しています。

本記事では、ESSの概要や役割、普及に向けた課題を解説します。より長期的な貯蔵技術であるLDES、各企業が取り組むESSの事例も紹介するため、ぜひご一読ください。


▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)

肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授

プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他


目次

  • ESSとは?
  • ESSが注目される背景
  • ESSが果たす役割
  • ESSの普及に向けた課題
  • ESSの事例
  • ESSの今後
  • ESSに関連する情報収集なら「ESS -Energy Storage System - World (エネルギー貯蔵技術ワールド)」「SMART GRID EXPO スマートグリッド展」へ
  • ESSは今後の市場拡大が見込める分野

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ESSとは?

ESS(Energy Storage System)とは、電力を一時的に貯蔵し、必要な時に供給を行い電力の需給バランスを保つことを目的としたシステムです。短時間の蓄電から長時間の蓄電まで様々な蓄電技術が含まれます。

ESSでは発電された電力を蓄電池に貯蔵し、電力需要が増加した際に放出するため、安定した電力供給を行えます。太陽光発電や風力発電など、発電量が変動するエネルギー源の活用で需給バランスの調整など重要な役割を果たすシステムです。

近年は再生可能エネルギーの普及が進み、より長期的な電力の貯蔵が求められるようになりました。そのため、従来の電気化学式だけでなく様々な数類の蓄電が可能である、LDES(Long Duration Energy Storage)の活用が重要です。
 

蓄電池とLDESの違い      

LDESは、「長時間の蓄電」に特化しています。一般的な蓄電池は電力を一時的に貯蔵する技術ですが、そのなかでLDESは、定格出力での電力供給が8~10時間以上行えるエネルギー貯蔵技術やシステムをさします。

LDESの種類は主に以下の4つです。

LDESにはリチウムイオン電池をはじめとする電気化学式の他、機械式や蓄熱式、化学式の種類があります。

特に機械式、蓄熱式、化学式のLDESは、例えばリチウムイオン電池と比較して低コストでの長時間貯蔵が可能で、資源制約が少ない貯蔵技術として今後の実用化が期待されています。
 

ESSが注目される背景    

ESSが注目される背景には、カーボンニュートラル実現に向け、再生可能エネルギーへの転換が世界的に進められている状況が挙げられます。

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、日照時間や気温、風速や地形などの条件で発電量が変化するため供給される電力は一定ではありません。電力を一定に供給するために、電力の貯蔵と供給を安定的に調整できるESSは大きな役割を果たしています。

その他、再生可能エネルギーの普及拡大に向け、各国政府がESS導入の支援制度を実施している点もESSが注目される理由です。工場や施設で再生可能エネルギーへの転換が進み、自家発電・自家消費の需要が増加している点もESSの導入を後押ししています。

ESSが利用される場所

ESSは電力が必要な様々な場所で利用されます。具体的な利用場所は以下のとおりです。

  • 再生可能エネルギーの発電所
  • 送電網や変電所
  • 工場や商業施設
  • アパートやマンション、複数の戸建てなどの住宅
  • VPP(バーチャルパワープラント)

再生可能エネルギーの発電所では、発電の変動抑制や余剰電力の調整などを目的にESSが利用されます。また、ESSは送電網や変電所で電力の需給調整にも役立つシステムです。

その他、ESSは工場や商業施設、集合住宅や戸建てなどの需要家の施設に設置され、ピークカットによる電力料金の削減や停電への備えに利用されます。

なお、近年、分散するエネルギーをひとつの発電所のように制御するVPP(バーチャルパワープラント)の研究・開発が進んでおり、ESSはアグリゲーターによるデマンドレスポンスをはじめとしたVPPの課題解決にも貢献できる仕組みです。

ESSが果たす役割

ESSは、電力の安定供給や効率的な利用に重要な役割を果たします。ESSが果たす主な役割を以下で紹介します。

再生可能エネルギーの電力供給の安定化

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、VRE(変動型再生可能エネルギー)と呼ばれ、季節や時間による発電量の変動が大きいエネルギーです。VREは電圧や周波数の変動も大きいため、電力系統に連系する際に運用面で課題を抱えます。

ESSは変動が大きい電力を調整できるため、ESSを利用することで再生可能エネルギーによって発電された電力の貯蔵が可能です。発電量が多い時には電力を貯蔵し、需要が高まった際に必要な電力を供給することで、安定した電力供給を実現します。
 

揚水発電に代わる効率的な電力の貯蔵

電力は、大規模かつ長期の貯蔵が難しいことが課題です。電気は同時同量と呼ばれる供給と消費を一致させることが大原則であり、電力供給網では、両者を常に一致させる必要があります。最悪の場合、このバランスが崩れると、停電が発生するおそれがあります。

そのため、これまで大規模な電力調整、貯蔵は、揚水発電(余剰電力で水を汲み上げて発電に利用する方法)が主に利用されてきました。

近年はリチウムイオン電池の開発が進み、リチウム電池を活用したESSは長期間の電力の貯蔵が可能となりました。例えば揚水発電と比較して効率的な充放電が可能であり、立地制約も少ないメリットがあるため、揚水発電に代わる電力の貯蔵方法として採用されています。
 

電力変動の調整による省エネルギー化

ESSを導入すると需要のピーク時に電力をシステムから補完でき、発電所の出力を緊急的に増加させる必要がありません。需要が少ない時は、電力を蓄電池に貯蔵できる点もメリットです。

このように、ESSは需要にあわせて供給する電力の調整が可能です。電力網全体のバランスを保ち、省エネルギー化を図る役割を果たします。
 

ESSの普及に向けた課題

ESSは再生可能エネルギーの普及や効率的な電力の貯蔵に役立つ一方で、課題を抱えています。ここではリチウム電池を活用したESSの課題を説明します。

  • 製造費が高い
  • 設置コストがかかる
  • 導入のメリットがわかりにくい
  • 性能や品質の評価が正しくなされていない

ESSにはリチウムや半導体などが必要であり、部材の需給がひっ迫しているため製造費が高い点が課題です。導入のメリットや各ESSの評価もこれからの状態で、部材調達に対する国の支援、ユースケースガイドラインの策定などの対応が求められています。

ESSの事例

ESSは主流のリチウムイオン電池に加え、幅広いタイプの貯蔵方法が開発されています。現在、実証されているものや注目されているESSの事例を以下で紹介します。

液化空気エネルギー貯蔵(LAES)|住友重機械工業株式会社

液化空気エネルギー貯蔵(LAES)は、余剰電力で空気を圧縮・冷却し、液体にしてタンクに貯蔵する方法です。電力利用時は液化空気を加熱・気化し、タービンを駆動して発電・供給を行います。

住友重機械工業株式会社はLAESの技術開発を進め、プロジェクトの実現可能性から試運転までの総合的なサービスを提供しています※。

※出典:住友重機械工業株式会社「液化空気エネルギー貯蔵(LAES)」

岩石蓄熱|東芝エネルギーシステムズ株式会社・中部電力株式会社

岩石蓄熱は、余剰電力を岩石や溶融塩などに熱エネルギーとして蓄え、電力が必要な時に発電に利用する技術です。国内では、東芝エネルギーシステムズ株式会社と中部電力株式会社が岩石蓄熱技術に着目し、共同で研究を進めていました。

2024年11月、両社の岩石蓄熱技術は新東海製紙株式会社の島田工場のプラントに採用され、静岡県島田市と新東海製紙株式会社を含め、同工場で技術実証を行うための協定を締結しました※1。

2025年3月には愛知県岡崎市とも同プラントの導入に向けた協定を締結し、岩石蓄熱技術の実証を進めています※2。

※1出典:中部電力株式会社「岩石蓄熱およびエネルギーマネジメント技術を用いたプラントの技術実証を推進するための連携に基本合意」
※2出典:東芝エネルギーシステムズ株式会社「国内最大規模の熱容量となる岩石蓄熱エネルギーマネジメント設備の導入に向けた協定を締結」


系統用蓄電所|関西電力株式会社・オリックス株式会社

系統用蓄電所は、電力系統に大型蓄電池を直接連系し、発電所のように活用する設備です。電力系統に直接連系する大型蓄電池を系統用蓄電池と呼びます。電力の需給調整や安定性確保に役立つため、再生可能エネルギーの最大限の活用が可能です。

関西電力株式会社とオリックス株式会社は、2024年12月に出力48MWの系統用蓄電所「紀の川蓄電所」の稼働を開始しました※。国内最大級の規模で、約1万3,000世帯相当の電力供給が可能です。

※出典:オリックス株式会社「当社初の蓄電所事業『紀の川蓄電所』、和歌山県で運転開始」

VPP|テスラ

VPPとは、エリア内のエネルギーリソースをひとつの発電所のように統合・制御するシステムです。

テスラ(アメリカ)のVPP仮想発電所では、家庭用蓄電池「Powerwall」に蓄えられた太陽光発電の余剰電力を、電力需要が高い時に家全体へ供給します。

2021年には、日本の宮古島でもPowerwallによるVPP事業をスタートさせました※。日本でPowerwallが商業利用された初の事例で、島内の系統電力の安定化に役立つと期待されています。

VPPについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶関連記事:VPPとは?再生可能エネルギー普及のカギを握る技術をわかりやすく解説

※出典:テスラ「Powerwallによるバーチャルパワープラント『宮古島VPP』が日本最大級に。」

ESSの今後

ESSは、電力系統側での電力貯蔵や調整電源、企業や家庭での自家発電の貯蔵、非常用電源など、幅広い用途があるシステムです。カーボンニュートラルの実現に向けた再生可能エネルギーの導入拡大とともに、将来的に需要が拡大すると想定されます。

一方、製造コストや設置コストにより、事業として採算が取れるかがESSの課題です。今後は研究・開発に基づく電池価格の適正化、各国政府による支援策などにより、コスト面での改善が期待されています。
 

ESSに関連する情報収集なら「ESS -Energy Storage System - World (エネルギー貯蔵技術ワールド)」「SMART GRID EXPO スマートグリッド展」へ

再生可能エネルギーの導入や電力供給の安定化に向け、ESSの導入や新たな技術の実証が加速しています。ESSを含め、電力の需給調整に関する情報収集には「ESS -Energy Storage System - World (エネルギー貯蔵技術ワールド)」をご活用ください。

ESS -Energy Storage System - Worldは、次世代電力システムの関連情報が集まる「SMART GRID EXPO スマートグリッド展」内で開催される特別展示です。

例えば、系統用蓄電池や長期エネルギー貯蔵技術(LDES)、Power to Gas(P2G)システムなど、エネルギー貯蔵の関連製品・技術が出展され、エネルギー貯蔵技術に特化した情報が集まります。

また、SMART GRID EXPO スマートグリッド展は、ESSや蓄電池、VPPなど、ITを活用した電力の需給調整を行うスマートグリッドに関する技術が出展される展示会です。エネルギー貯蔵に関する技術も多数出展されるため、最新の知見や情報の収集に役立ちます。

また、ESS -Energy Storage System - World (エネルギー貯蔵技術ワールド)・SMART GRID EXPO スマートグリッド展では、ご出展いただく企業様も募集しております。

ご出展いただくと、多くの見込み顧客に出会え、システムの設計相談や見積・納期の調整など、具体的な商談も進められます。発電事業者や送配電事業者、アグリゲーターなどの需要家が来場するため、関連する技術やサービスをお持ちの方は出展もご検討ください。

ESS -Energy Storage System - World (エネルギー貯蔵技術ワールド)の詳細はこちら

SMART GRID EXPO スマートグリッド展の詳細はこちら

ESSは今後の市場拡大が見込める分野

再生可能エネルギーの導入拡大を背景に、ESSの需要は拡大しています。電力のピークシフトや安定供給、省エネルギー化にもメリットがあり、幅広い場所で利用できるため、市場拡大が見込める分野です。

ESSを含め、エネルギーの貯蔵や利用に関する技術は日々進展しています。ESS -Energy Storage System - World (エネルギー貯蔵技術ワールド)には、系統用蓄電池をはじめとしたエネルギー貯蔵の関連製品・技術が集まります。

また、SMART GRID EXPO スマートグリッド展ではESSや蓄電池、VPPなど多くの技術や設備が展示されます。最新情報の収集に、ぜひこれらの展示会をご活用ください。

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※「SMART GRID EXPO スマートグリッド展」は、「SMART ENERGY WEEK -スマートエネルギーWeek-」の構成展です。

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▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)

肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授

プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他


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