PaaSとは?
サーキュラーエコノミーのカギを握るビジネスモデルを紹介
PaaSとは?サーキュラーエコノミーのカギを握るビジネスモデルを紹介
廃棄物を循環資源として最大限に活用し、付加価値を生み出すことで、新たな成長に繋げるサーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行が世界的に進んでいます。日本でも環境問題や資源制約への取り組みとして、サーキュラーエコノミーが注目されはじめています。
サーキュラーエコノミーのビジネスモデルでは、シェアリングやリサイクルモデルが代表的ですが、近年では「PaaS(Product as a Service)」が重要視されています。
本記事では、サーキュラーエコノミー実現のカギとなるPaaSの概要や導入のメリット、具体的なサービス例を紹介します。
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他
PaaS(Product as a Service)とは
PaaS(Product as a Service)とは、従来のように製品を売るのではなく、製品の提供をサービスとして継続的に顧客へ販売する循環型ビジネスモデルです。
従来のように製品(モノ)を販売し需要者が「所有」するのではなく、需要者が「サービスとして利用」する考え方で、サブスクリプションやリース、シェアリングなどの形態が代表的なPaaSです。
例えば、家具・家電のサブスクリプションサービスの場合、需要者にとっては必要な時に必要な期間だけ製品を利用できるため、初期投資を抑えられ、柔軟な利用が可能です。
サービスの提供者にとっては、サブスクリプションにより安定的な収益モデルを構築できるだけでなく、製品のライフサイクルを最適化し、環境負荷を低減できるメリットがあります。
PaaSがサーキュラーエコノミーのカギとして注目される背景
近年、廃棄物問題や気候変動などの環境制約に加え、世界的な資源需要による資源制約や地政学的リスクの高まりが問題となっています。
そのため、資源制約の観点から、廃棄物を循環資源として最大限活用しながら付加価値を生み出し、新たな成長に繋げるサーキュラーエコノミーへの移行が世界的に進んでいます。
なお、サーキュラーエコノミーとは、資源投入量・消費量を抑え、ストックを有効活用しながら、サービス化などを通じて付加価値を生み出す経済活動です。
世界最大級の総合コンサルティングファーム「アクセンチュア(Accenture)」では、サーキュラーエコノミーを以下の5つのビジネスモデルに分類しています※。
※出典:アクセンチュア(Accenture)「2030年を見据えたイノベーションと未来を考える会 イノベーション・エグゼクティブ・ボード(IEB) サーキュラー・エコノミー」
PaaSはサーキュラーエコノミー実現のカギを握るビジネスモデルとして、今後も多様化が期待される分野です。
サーキュラーエコノミーについてより詳しく知りたい人は、以下の記事もあわせてご覧ください。
PaaSを導入するメリット
近年、注目されているPaaSには様々なメリットがあります。以下では、PaaSを導入する主なメリットを3つ紹介します。
収益化を図りながら資源の無駄を省ける
従来の供給側が製造したモノを需要側が購入するビジネスモデルでは、モノの所有権が供給者から需要者へ移動します。しかし、PaaSではモノではなくサービスを売るため、モノ自体はサービスの供給者が所有したままです。
需要者は必要な時に利用料を払うことでサービスを利用できるため、消費型社会で生じる大量廃棄の削減に繋がります。
供給者は製品の販売量が減少する可能性があるものの、顧客のニーズを満たすサービスの提供により、継続して利益を上げることが可能です。
また、利用・返却された製品を修繕して再利用すれば、仕入れ原価や製造コストを抑えられるため、価格競争力の獲得も期待できます。
このようにPaaSの導入によって、収益化を図りながら資源の無駄を省くことが可能です。
カーボンニュートラルの実現に寄与できる
日本は、2050年までにCO2(二酸化炭素)をはじめとする温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目指しています。そのため、再生可能エネルギーへの移行を進めていますが、エネルギー関連の取り組みだけでは不十分とされています。
エレン・マッカーサー財団によると、世界中のエネルギーを全て再生可能エネルギーに移行してエネルギー効率を追求しても、世界の温室効果ガス排出量の55%しかアプローチできないと報告しています※。
カーボンニュートラルの実現には、エネルギー関連の取り組みだけでなく、モノの生産から廃棄までの過程で生じるライフサイクルでのCO2排出量の削減も重要です。
PaaSの導入によって生産と廃棄物が削減されるため、カーボンニュートラルの実現に貢献できます。
※出典:ELLEN MACARTHUR FOUNDATION「Financing the circular economy - Capturing the opportunity」
サービスの向上・新たなビジネスモデルの創出に繋がる
PaaSは供給者が所有する製品をサービスとして利用するため、製品を販売するビジネスモデルに比べて、長期間需要者と接することが可能です。
顧客データを長期間収集できるため、顧客ニーズへの理解を深められ、サービスの販売促進や質の向上に繋げられるでしょう。
また、サーキュラーエコノミーの市場規模は拡大しており、2030年には500兆円の経済効果の見込まれています※。サーキュラーエコノミーの分野はまだ発展途上のため、収集した顧客データを基に、PaaSを活用した新たなビジネスを創出できることも期待できます。
PaaSを導入する際の課題
PaaSの導入には様々なメリットがある一方、いくつかの課題も存在します。以下では、PaaSの導入に向けた主な課題を3つ紹介します。
製品のライフサイクル全体でCO2排出量が削減されるか検証が必要である
PaaSを導入する際には、従来の消費型ビジネスモデルに比べて、製品のライフサイクル全体でCO2排出量が削減されるかを検証する必要があります。
PaaSの導入によって、モノの製造に関しては環境負荷の低減が期待されますが、サービスを利用するための通信や輸送などによる環境負荷が増大する可能性もあります。
そのため、サービスの提供に関連するライフサイクル全体での環境負荷を考慮し、資源の循環に配慮した設計を行う必要があるでしょう。
持続可能なサービスの創出が必要である
PaaSを導入するには、持続可能なサービスの創出が必要です。そのため、従来の製造・販売による「供給」の発想ではなく、需要者の利用・メリットの享受という「需要」の発想でビジネスモデルを構築しなければなりません。
さらに、PaaSでは製品をサービスとして利用するため、需要者に提供した製品は回収・修繕されます。製品の品質とサービスの継続性を保証するには、メンテナンス体制やサプライチェーン全体の最適化が必要となり、新たにコストが発生する可能性もあります。
そのため、PaaSを導入する際は、「何を体験してほしくて、何を提供するか」「本当にLTV(顧客生涯価値)を高められるか」「自社のリソースで可能か」などを十分に検討する必要があります。
セキュリティ面で対策が必要である
PaaSでは、顧客の使用データに基づいてサービスを提供できます。ただし、顧客データを使用する場合は、データプライバシーとセキュリティの確保が重要です。
セキュリティが守られ、顧客情報を適切に管理することで、安心感や提供者への信頼が生まれます。顧客データを適切に管理できない場合、顧客からの信頼を損なうことに繋がるため、セキュリティ面の十分な対策を行う必要があります。
PaaSの導入によるサーキュラーエコノミーの事例
PaaSを導入する企業は増加しており、すでに一定の成果を上げている企業も存在します。以下では、PaaSの導入によるサーキュラーエコノミーの事例を3つ紹介します。
【ミシュラン社】マイレージ・チャージプログラム
フランスのタイヤメーカーであるミシュラン社は、トラックの走行距離に応じてタイヤの料金を支払うB to B型サブスクリプション「マイレージ・チャージプログラム」を提供しています※。
タイヤではなく走行距離という利用価値を売るビジネスモデルで、摩耗したタイヤを100%回収して再生品化することで、廃タイヤ活用率90%以上を達成しています。
【ヒューレット・パッカード】マネージドプリントサービス(MPS)
パソコンやプリンターなどの製造・販売を行っているヒューレット・パッカード(HP)では、プリンターの運用・管理を総合的にサポートする「マネージドプリントサービス(MPS)」を提供しており、以下の4つをひとつにまとめた包括的なアプローチを行っています※。
ヒューレット・パッカードは、MPSの利用によって用紙の無駄を25%削減し、プリンティングコストを10~30%削減できると発表しています。
また、温室効果ガス排出量と生態系への影響の低減は12%、資源効率の向上は13%とされており、環境にも配慮されたサービスです。
【ダイキン工業株式会社】ZEAS Connect
大手空調機器メーカーのダイキン工業株式会社は、店舗・オフィス用エアコンの定額利用サービス「ZEAS Connect」を提供しています※。
ZEAS Connectは、機器本体や取付工事、異常通知メール機能、修理サービスなどをワンパッケージ化したサービスです。
エアコンの導入費用や更新にかかる初期費用をなくすだけでなく、日々の安定したエアコン運用をサポートすることで、無駄な電力消費の抑制が可能です。
PaaSに関する情報を知るなら「サーキュラー・エコノミー EXPO」へ
サーキュラーエコノミー実現のカギとしてPaaSというビジネスモデルが注目されています。PaaSに関する最新情報を知りたい場合は「サーキュラー・エコノミー EXPO」へご来場ください。
サーキュラー・エコノミー EXPOは、サーキュラーデザインやサステナブルマテリアル、PaaS(製品のサービス化)支援、資源回収・リサイクル・再製品化技術などが出展する循環型経済・サスティナブル経営に特化した専門展です。
本展はB to Bの商談展で、ご来場いただくと機械・デモ機を見ながら出展社から詳細を聞くことができます。
また、本展にご出展いただいた場合には、自社製品やサービスの内容を直接来場者へ伝え、新規顧客の獲得に繋がります。本展ではご出展も受け付けているため、関連企業様はぜひ参加をご検討ください。
PaaSはサーキュラーエコノミーのビジネスモデルとして期待されている
PaaSは製品を「所有」するのではなく、「サービスとして利用」する考え方の循環型ビジネスモデルで、サーキュラーエコノミーのひとつとして今後も多様化が期待される分野です。
また、サーキュラーエコノミーは日本でも注目されはじめており、まだ発展途上の分野なため、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性もあります。サーキュラーエコノミーの最新情報を知りたい方は、展示会への参加がおすすめです。
サーキュラー・エコノミー EXPOは、循環型経済・サスティナブル経営に特化した専門展のため、ぜひご来場ください。
※「サーキュラー・エコノミー EXPO」は、「サステナブル経営WEEK (旧称:GX経営WEEK)」の構成展です。
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他