ワット・ビット連携とは?
注目される背景や国の取り組み、実現するメリットを解説
ワット・ビット連携とは?注目される背景や国の取り組み、実現するメリットを解説
ワット・ビット連携は、電力インフラと通信インフラを連携して整備する構想です。AIの普及とそれを支えるデータセンター設置による電力需要の増加を背景に、官民一体となった環境整備が進められています。
本記事では、ワット・ビット連携の概要、注目される背景、国や事業者の取り組み、実現するメリットを解説します。
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他 資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。
その後、経営企画、事業企画等に従事し、技術経営、サプライチェーンマネージメント及び事業継続マネジメント等を推進。
2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて環境経営支援、資源エネルギー技術開発等など社会実証に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 内閣府国土強靭化推進会議 委員他
ワット・ビット連携とは
ワット・ビット連携とは、今後大量の電力を必要とするデータセンターの迅速な整備のため、電力、通信、データセンター事業者が一体となり、電力インフラと通信インフラを連携させて効率的に社会基盤を構築する取り組みです。
ワット・ビット連携の名称は、電力の単位である「ワット(W)」と情報通信の単位である「ビット(bit)」を組み合わせて名付けられました。
AIの社会実装には、データセンターの設置やそれを支える電力・通信インフラの整備が欠かせません。現時点では、データセンターが東京圏・大阪圏に集中し、それに伴いネットワークインフラが大都市圏に集中しているなど、多くの課題を抱えています。
ワット・ビット連携では、官民一体となり、再生可能エネルギーの導入が進む地域にデータセンターを設置するなど、課題解決に向けた取り組みを進めています。
ワット・ビット連携とスマートグリッドの違い
スマートグリッドは、ICTやIoT技術を活用し、電力需要と電力供給を最適化する電力網です。ワット・ビット連携と同様に、ICT技術を電力分野に活用する仕組みとして整備が進められてきました。
ワット・ビット連携とスマートグリッドの主な違いは、それぞれの構想の目的にあります。
スマートグリッドは、スマートメーターやBEMS(Building Energy Management System)に代表されるように、電力網全体の効率化が目的であり、主に需要家側の電力消費の可視化や最適化を中心に進められてきました。
一方、ワット・ビット連携は、発電地と需要地の広域的な再編、 APN(All-Photonics Network)導入を含めたネットワークの刷新など、電力インフラと通信インフラの機能的な統合が目的です。スマートグリッドと比較すると、より根本的な構造転換を伴う構想といえます。
スマートグリッドについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
ワット・ビット連携が注目される背景
ワット・ビット連携が注目される背景には、生成AIの普及に伴うデータセンターの電力需要の拡大と、都市部に集中しやすいデータセンターの地域分散の課題が挙げられます。
それぞれの詳しい内容を以下で解説します。
生成AI市場の拡大に伴う電力需要の増加
近年、生成AI技術の進化を背景に、生成AI市場は拡大を続けています。例えば、AIインフラ(サーバーやストレージなど)市場の需要だけでも、2030年には2023年の約3倍にあたる1兆円程度になる見通しです※。
生成AIの普及は、アイデア創出や業務効率化など、幅広いメリットをもたらす可能性を秘めています。一方で、GPT-4規模では1回の学習で約40,000MWhが必要とされるなど、膨大な電力消費が課題です。
今後、データセンターを含む関連施設の消費電力量は飛躍的に増加すると予測されます。その結果として予想される電力需給の逼迫を解決する仕組みとして、ワット・ビット連携が注目されています。
地域分散の重要性
現在、データセンターは東京・大阪圏に集中しており、立地の偏在による土地不足や電力需給の逼迫、大規模災害時のリスクなどが課題です。
また、データセンターの電力源には脱炭素電源の活用が望まれますが、脱炭素電源の供給拠点は各地域に偏在しており、現時点でのデータセンターの立地地域とは距離があります。
ワット・ビット連携を通じて、脱炭素電源が豊富な地域へデータセンターの分散が進めば、首都圏の電力需給の改善や多極化によるリスク分散につながります。再生可能エネルギーの活用推進の観点からも、ワット・ビット連携は有効な仕組みです。
ワット・ビット連携構想の登場と国の取り組み
ワット・ビット連携は、2024年7月に開催されたGX2040リーダーズパネルの有識者会議で、東京パワーグリッド株式会社によって提唱されました。その後、政府内の会議や有識者会合を通じて以下の検討が進められています※。

※出典:総務省・経済産業省「ワット・ビット連携官民懇談会事務局説明資料」
ワット・ビット連携は民間企業が提唱した構想ですが、現在では政府の中長期的な政策目標に組み入れられ、将来的な社会実装に向けた検討が進められています。
ワット・ビット連携を実現するメリット
ワット・ビット連携が実現すると、関連する事業者にいくつかのメリットをもたらします。以下では、電力事業者、データセンター事業者や通信事業者、行政の3つの立場からメリットを解説します。
電力事業者側のメリット
ワット・ビット連携の実現による電力事業者側のメリットは以下のとおりです。
- 送電線の建設コストを抑えられる
- 既存の電力系統の余力を最大限活用できる
- 再生可能エネルギーの活用により、電源の脱炭素化が図れる
データセンターを電力供給の余力がある地域に誘致すると、電力事業者は新たに大規模な送電線を建設する必要がありません。送電線の建設コストを抑えられる上、既存の電力系統の余力を最大限活用できるメリットがあります。
また、データセンターの電力を再生可能エネルギーで賄うことにより、電源の脱炭素化を図ることが可能です。特に、データセンターの連携によるワークロードシフトが実現されれば、脱炭素電源のさらなる活用へとつながります。
データセンター事業者や通信事業者側のメリット
ワット・ビット連携の実現によるデータセンター事業者や通信事業者のメリットは以下のとおりです。
- データセンターやネットワークインフラの分散により、災害時のレジリエンス向上が図れる
- 事業拠点の増加により、新たな事業機会が得られる
現在、データセンターやネットワークインフラは大都市圏に集中している状況です。各施設・ネットワークの分散設置が進められれば、災害時のレジリエンスが向上する上、事業拠点の増加に伴う新たなビジネス機会が得られます。
行政側のメリット
国や地方自治体にとっては、各地域でのデータセンターの建設が地方創生につながるメリットが挙げられます。具体的な活用例は以下のとおりです。
- スマート農業や遠隔手術などのAIサービスの提供
- 地域の大学・高等専門学校でのデジタル人材の育成
- 地域産業の活性化
データセンターの設置は、地域に根差した先進的なAIサービスの提供に役立ちます。地域の教育機関における技術教育の機会拡大や、デジタル産業の誘致による地域産業の活性化が見込まれる点もメリットのひとつです。
ワット・ビット連携に関連する技術構想
ワット・ビット連携の推進は、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)に代表される通信インフラのイノベーションに支えられ、将来的にはMESH構想への展開が期待されます。以下では、各技術構想の特徴を解説します。
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)
IOWNとは、NTT株式会社が提唱する光技術を基盤とする次世代のネットワーク構想です※。光技術の活用により、低消費電力、大容量・高品質、低遅延を実現します。
IOWNを構成する主要な技術分野は、以下のとおりです。

データセンターは通信遅延の影響から、需要地に近接する距離への設置などの立地条件が求められていました。
IOWNの整備が進むと、低消費電力、大容量・高品質、低遅延でのデータ通信が可能になり、データセンターの分散配置の実現に貢献します。
MESH(Machine-learning Energy System Holistic)構想
MESH(Machine-learning Energy System Holistic)構想は、東京電力パワーグリッド株式会社が提唱する技術構想です※。
MESH構想では、ワット・ビット連携を中核的な要素に位置付け、電力システムのインターネット化を推進します。
電力網とデジタルインフラを組み合わせ、それを網目(メッシュ)状に展開してフィジカル空間へと反映することにより、社会全体の生産性向上と電力消費の自律的な行動変容の促進を目指す構想です。
官民懇談会のワット・ビット連携に関する具体的な取り組み
技術開発と並行し、国内での事業化の加速に向けて2025年6月に開催されたワット・ビット連携官民懇談会では、ワット・ビット連携の実現に向けた具体的な取り組みが示されました※。
このなかで、足元のDC需要の対応に留まらず、新たなDC集積拠点の実現並びに地方分散・高度化について基本的な方向性が示されています。
足元のDC需要への対応のひとつが、ウェルカムゾーンマップの活用です。ウェルカムゾーンマップとは、新たに送電網を増強する必要がなく、比較的短期間で電力供給を開始できる地域を示したマップです。
供給余力のある地域をわかりやすくデータセンター事業者に提示し、その地域へと施設を誘導することで、既存の系統設備を最大限活用する取り組みを進めています。
また、将来の新たなDC集積拠点の実現には、地域に分散したデータセンターと需要地間の通信遅延を解決する取り組みも重要です。
ワット・ビット連携官民懇談会では、長期的には1ヶ所あたりの規模がGW級となる新たなDCの集積拠点を複数造成するべく、地域の選定を行っており、インフラの先行的・計画的な整備を進めています。
また、低消費電力・低遅延・大容量が特徴のAPNの技術開発および国際標準化を、官民一体で進める重要性も指摘されています。
今後、世界的に需要が拡大するDCのグローバルインフラとしての性質を踏まえ、国際海底ケーブルの整備を含む国外アクセスを確保や海外市場、経済安全保障、国際標準化など、国際的視点を持って官民が協力して取り組みを加速していくことが重要です。
電力分野へのICT技術の導入に「SMART GRID EXPO スマートグリッド展」の活用を
ワット・ビット連携を実現するためには、再生可能エネルギーの普及拡大に貢献する次世代電力網の構築が不可欠です。また、DCでの電力需給に応じたデマンドレスポンス(DR)が可能となれば、再生可能エネルギーのさらなる活用も見込めます。
次世代電力網やDR技術をはじめ、電力分野でのICT技術の最新情報を知りたい方、あるいは次世代電力システムの構築を検討している方は、「SMART GRID EXPO スマートグリッド展」をご活用ください。
SMART GRID EXPO スマートグリッド展は、VPPやDR関連技術、エネルギーマネジメントシステム、蓄電池、EV活用などが出展される展示会です。
世界各国から専門家が来場し、face to faceの相談が可能であるため、最新の技術動向を把握できます。
また、本展では展示会への出展も受け付けています。ご出展いただくと、自社製品や技術を直接来場者へ伝えられ、新規顧客の獲得につながります。関連する製品や技術をお持ちの企業様は、ぜひ出展をご検討ください。
ワット・ビット連携は今後のビジネス機会が期待できる分野
ワット・ビット連携は、電力インフラと通信インフラの連携を促進する取り組みです。
GX2040リーダーズパネルの有識者会議で提唱された新しい構想であり、政府の中長期ビジョンのひとつとして推進されています。電力事業者や通信事業者など、多くの企業にとって今後のビジネス機会が期待される分野です。
SMART GRID EXPOスマートグリッド展は、ITを活用した電力の需給調整をはじめとした製品・サービスが展示されるため、関連する情報を収集したい方はぜひご来場ください。
※「SMART GRID EXPOスマートグリッド展」は、「SMART ENERGY WEEK -スマートエネルギーWeek-」の構成展です。
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他 資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。
その後、経営企画、事業企画等に従事し、技術経営、サプライチェーンマネージメント及び事業継続マネジメント等を推進。
2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて環境経営支援、資源エネルギー技術開発等など社会実証に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 内閣府国土強靭化推進会議 委員他
