【事前インタビュー】WIND EXPOが映し出す“これからの論点”
――猪狩 元嗣氏が語る、洋上風力の次の一手
【事前インタビュー】WIND EXPOが映し出す“これからの論点”
――猪狩 元嗣氏が語る、洋上風力の次の一手
インタビュー:浮体式洋上風力技術研究組合(FLOWRA)国際連携部長 猪狩 元嗣氏
聞き手:RX Japan WIND EXPO事務局長 小笠原 徳裕
展示会は、会期の数日だけで終わるイベントではありません。そこに集まる人の視線、交わされる言葉、背景にある「不安」と「期待」は、次の一年の議論の地図を形づくっています。
RX Japanでは、WIND EXPOを会期前後も含めた情報発信の場として位置づけ、登壇者への事前・事後インタビューなどの取り組みを進めています。
今回は、2026年3月17日(火)に開幕する「WIND EXPO【春】~第17回 [国際] 風力発電展~」で複数セッションに登壇予定の、浮体式洋上風力技術研究組合(FLOWRA)国際連携部長の猪狩 元嗣氏に、WIND EXPOを通じて見えてくる業界動向と、今回の講演で伝えたいこと、その狙いをお聞きしました。
WIND EXPOは業界の健全性を測る“バロメーター”
-RX 小笠原::毎年WIND EXPOをご覧になっている立場から、WIND EXPOは業界にとってどんな場だと捉えていますか。
浮体式洋上風力技術研究組合 猪狩 元嗣氏(以下、猪狩氏):私はWIND EXPOは、その盛り上がりによって業界全体の成長性を測ることができる“バロメーター”だと思っています。展示会に関心を持つ人が増えることで、業界は先に進んでいく。だから会場の熱量は重要です。
-RX 小笠原::来場者数以外に、熱量の変化はどんなところに表れますか?
猪狩氏:一番判りやすいのは、会場で皆さんが「何を、どれだけ真剣に話しているか」です。前回と比べて著しく話題が変わっていることがあります。そこから“今年の空気”のようなものが見えてきます。リアルな展示会は、そうした変化を捉えやすい場です。現在の情報技術では、サイバーな展示会において、こういった空気を捉えることは出来ません。私が毎年の WIND EXPOへのリアルな参加を重視している理由の一つは、この点です。
WIND EXPO【春】~[国際] 風力発電展~ 過去開催時の様子
いま論点が動いている――「エネルギー安全保障」と「電力価格」が“別々ではなくなった”
-RX 小笠原::その“話題の変化”として、いま強くなっている論点は何でしょうか。
猪狩氏:安全保障です。今回のWIND EXPOでも多くの方々と直接話すことを楽しみにしていますが、ここ最近の欧州での展示会・カンファレンスと同じく、安全保障について話し合うことが多いだろうなと想定しています。以前は、安全保障は安全保障、電力価格は電力価格として語られていました。でも今は一緒に議論されます。安全保障をきちんと考えないと需給不安が起き、価格にも跳ね返る――そういう現実感が強くなっています。
-RX 小笠原::再生可能エネルギーの位置づけも変わってきていますか。
猪狩氏:ええ、「やる・やらない」ではなく、「どう組み上げるか」の段階に位置付けられていると思います。
再エネは供給安定性が高く、かつ価格変動リスクが小さいので、間違いなくエネルギー安全保障に寄与します。他方で天候依存性が高く、既存システムのままでは大規模導入時に電力系統に負荷がかかり、国内に産業がないままでは地政学リスクに影響されます。また、再エネに限らず大規模インフラには必ず環境・社会的受容性の課題があります。
ただ、脱炭素の考え方は確かに大切ですが、洋上風力発電を導入するだけで全てが解決するとは私は思っていません。
再エネの強みによってエネルギー安全保障をマネージするには、他電源も含めた上流部分(発電)から、蓄電池や水素を含めた中流部分(送電)、そしてグローバル・スケールで急速な成長が見込まれているデータセンター等の下流部分(需要側)、これら全てを包含する一体システムとしてデザインし直す中で、再エネを“総動員”する必要があります。そこまでして初めて解決できる話です。
そこを現実的にかつ可及的速やかに議論する必要があります。そう、「可及的速やかに」。目下の国際情勢は悠長な議論を許してくれない様相ですよね。
今回の講演で強調したい「デジタル」という柱
――建設・O&Mのリスクとコストを変える“実装の言葉”へ
-RX 小笠原::今回のご登壇では、デジタルの論点も重要になりそうだと伺いました。どのあたりを、特に伝えたいとお考えですか。
猪狩氏:分かりやすい言葉で言えばデジタルツインですが、そのような言葉そのものより「だからデジタルによって何を変えられるのか」を考え続けることの大切さをパネリストの皆さんと一緒に伝えたいと考えています。
デジタルは、自動車や防衛、宇宙、医療、農業といった産業の在り方から仕組み、価値までを大きく変えています。それら産業ではデジタルがリアルを補完するのではなく、デジタルがリアルを再定義しているところです。
部材製造工場と物流現場、港湾、洋上建設現場、建設後の発電所、O&M現場、変換所・変電所を含めた高圧線系統、水素製造工場、各種製造現場、データセンター、一般家庭、…まだまだ挙げられますが、これら全てが繋がったコネクテッドな世界では、どのような景色が見えるのでしょうか?
どのような産業が新たに起き、どのような人たちが如何なる仕事をするのでしょうか?
たとえばリアルな建設は、失敗が許されないので新しい技術は実績を積み上げながら漸次的に取り入れないといけませんが、デジタル空間なら同時に複数の新しい技術を組み合わせながら無数の経験を積み上げ、それをリアルの実証サイトで確認することでリアルの積み上げだけの世界とは比較にならない速度でリスクとコストを落とすことが出来ます。
さらに一度仕組みを作れば、別プロジェクトでも活用できます。こうした考え方は、リスクとコストを急速に落としながらの洋上風力の実装に直結します。
猪狩氏は、必要な情報だけを選び、シミュレーションを高速に回すことの意義や、海洋データのデジタル化が設計・運用の最適化につながる可能性についても言及した。
“コネクテッド”が生む新しい宿題――サイバーセキュリティという国際論点
-RX 小笠原::デジタル化が進むと、リスク面の論点も増えてきますね。
猪狩氏:まさにそこです。
ヨーロッパではサイバーセキュリティが大きなテーマになっています。
それは再エネに限った話ではなく、電気インフラを含めた社会全体が不可逆的に常時接続になり、接続ポイントが指数関数的に増えていく現状を踏まえて、意識的な破壊活動や無意識の運用ミスを防ぐには、そしてそれらが電力システム全体に連鎖的に影響を与えていくことを防ぐにはどうしたら良いのか、という社会全体を護るための論点群です。
欧州ではその認識が進んでいる一方で、日本はまだ十分に論点そのものが認識されていません。だからこそ、展示会の場で共有し、議論していく意味があると思います。
今回の講演で伝えたいこと(2つの軸)
① 「国の政策が社会をどう変えるか」――その中で洋上風力は何を担うのか
-RX 小笠原::今回のセッションで、参加者に最も持ち帰ってほしいポイントは何でしょう。
猪狩氏:一つ目の軸は、国の政策が社会をどう変えようとしているのか、その中で(浮体式を含む)洋上風力が果たす意義や価値は何なのか、という点です。
これは国民生活に直接影響する話であり、産業全体の話、環境・社会的受容性の話であり、日本全体の話として皆で自分のこととして考えていきたいですね。
霞が関や各自治体では日夜、多くの方々が極めて真摯に我々の将来のことを考えてさまざまな施策を打ち出していますが、それを活かすも活かさないも、全ては我々次第です。ケネディが語ったように「Ask not what your country can do for you; ask what you can do for your country」です。
今回、一緒に登壇させて頂くパネリストの皆さんはいずれも、それぞれの立場で自分のこととして国民生活、産業、環境・社会的受容性、日本全体を考えて活動されている第一線の方々ばかりですので、その方々とのライブな議論の場にご一緒することを私自身が非常に楽しみにしています。
また猪狩氏は、セッション構成としてデジタル分野、政策・資金、事業者、産業界など多様な立場で議論のバランスを取る狙いがあることにも触れている。
② 「エネルギー×地域」――洋上風力が“地域創生の装置”になる理由
-RX 小笠原::もう一つの軸は「地域」ですね。
猪狩氏:はい。二つ目は、洋上風力発電を含むエネルギー・システムの再構築が地域社会・経済に何をもたらすのかを議論することです。
公開されているさまざまな一次資料によって、ヨーロッパにとって洋上風力はエネルギー安全保障を果たすだけでなく地域創生を果たす手段でもあると位置づけられていることが判っています。長く続いた低金利を背景として「より安い売電価格」を競い合った時代は終わり、各国で応札者の無かった入札が相次いだ苦い経験を経て、洋上風力発電によって何を実現するのか、各国各様に制度の再構築が進行中です。
関連製品の製造だけでなく、建設からO&Mに至るまで地域経済に長く影響を与えることの出来る洋上風力を、産業政策・生活政策・安全保障等の複眼で再評価するものですが、各国で共通する戦略の一つが地域創生です。
洋上風力発電を導入することは“地域創生エネルギー革命”を起こすことであり、安全保障観点を加味した洋上風力発電の振興は地域創生そのものでもある――この点を強く伝えたいですね。
「継続にはメリットがいる」――展示会を“3日間”で終わらせない
今回の事前・事後インタビュー企画についても、猪狩氏は「継続」をキーワードに、業界全体にとっての価値を語られました。継続的な取り組みには、関係者双方のメリット設計が不可欠であるという指摘です。
展示会事務局も、展示会の集客や業界との長期的なリレーション構築を見据え、会期前後の情報発信を強化していきます。
本インタビューで整理した論点は、WIND EXPOのカンファレンスで、より立体的に語られます。
登壇の場では、政策・産業・地域といった視点が交差し、**「いま何が起き、次に何が問われるのか」**がより明確になるはずです。
ぜひ会場で、その議論の続きをご体感ください。
猪狩氏のカンファレンスは以下よりお申込み可能です。画像をクリックすると聴講申込フォームに遷移します。
※猪狩氏の登壇は3/18(水)・19(木)となります。なお、カンファレンスの参加には展示会への事前来場登録も必要です。
※「WIND EXPO」は、「SMART ENERGY WEEK -スマートエネルギーWeek-」の構成展です。
※「WIND EXPO」は、「SMART ENERGY WEEK -スマートエネルギーWeek-」の構成展です。
▶インタビューに答えていただいた方
浮体式洋上風力技術研究組合
国際連携部長 猪狩 元嗣氏
<プロフィール>グリーン経済の推進者として事業開発に携わり、現在は主に浮体式洋上風力発電に関わり、他に着床式洋上風力発電やグリーン水素・アンモニアにも注力。エネルギー業界での幅広い仲間・友人・知己との繋がりの中でグリーン経済の実現を推進。
編集後記
WIND EXPOの価値は、展示物だけでは測れない。議論の“焦点”が動いたとき、業界のフェーズも動く。
今回、登壇前に伺った猪狩氏の言葉からは、安全保障と価格の一体化、デジタルによる実装の加速、そして地域創生としての洋上風力という、これからの議論に向けた複数の論点が、改めて浮かび上がってきた。
本記事が、会期前に論点を整理し、会場での学びをより深める“入口”となれば幸いである。
