GX-ETS(排出量取引制度)とは?
概要や対象企業、活用されるソリューションを解説
GX-ETS(排出量取引制度)とは?概要や対象企業、活用されるソリューションを解説
GX-ETS(排出量取引制度)は、カーボンニュートラル実現に向けた重要な制度のひとつです。2026年度からは第2フェーズへと移行し、排出量取引市場を本格稼働させるとともに同取引を義務化することで、CO2(二酸化炭素)排出量が一定規模以上の企業に対して、排出量の管理や削減に向けた取り組みを加速させる狙いです。
GX-ETSの導入によって、排出量に経済的な価値が生まれ、企業のコスト構造や投資判断に大きな影響を与えます。排出削減に取り組む企業にとっては収益機会となる一方、対応が後手に回った場合はコスト増加や競争力低下のリスクが想定されます。
影響はサプライチェーン全体に及ぶ可能性もあるため、対象企業は対応が必要です。
本記事では、GX-ETSの仕組みや対象企業の要件、先進企業の取り組み事例、活用が期待されるソリューションを解説します。
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他 資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。
その後、経営企画、事業企画等に従事し、技術経営、サプライチェーンマネージメント及び事業継続マネジメント等を推進。
2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて環境経営支援、資源エネルギー技術開発等など社会実証に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 内閣府国土強靭化推進会議 委員他
GX-ETS(排出量取引制度)とは
GX-ETSとは、2026年度から一定規模以上のCO2(二酸化炭素)の排出を行う事業者を対象に、排出量取引制度への参加を義務化することを定めた改正GX推進法に基づき実施される制度です。
具体的には、企業のCO2排出量に上限を設けた上で、排出枠の過不足分を売買できる仕組みです。排出実績が上限を下回り排出枠に余裕のある企業は余剰分を他社に売却でき、排出実績が上限を超えた企業は不足分を市場から調達します。
日本では、経済産業省が主導する「GXリーグ」の一環として、すでに2023年から試行運用が進められていました。GXリーグは、脱炭素社会の実現と経済成長の両立を目指す企業が集まるプラットフォームであり、その活動は以下の4つの柱で構成されています。
- 自主的な排出量取引(GX-ETS)
- 市場創造のためのルール形成
- ビジネス機会の創発
- GXスタジオ
GX-ETSの主な狙いは、排出量に経済価格というシグナルを与えることで、企業が自発的に排出削減へ動くインセンティブを生み出すことです。市場メカニズムの活用により、社会全体として効率的な排出削減の実現を目指しています。
GX-ETSは第2フェーズで義務化へ
GX-ETSは、2023年4月の運用開始以降、段階的な制度発展を前提とした3つのフェーズで展開されています。

第1フェーズでは、企業が自主的に排出削減目標を設定し、超過分をクレジットとして活用できる仕組みが採用されました。あくまで任意参加・自主目標の段階であり、準備期間としての位置付けが強いフェーズです。
第2フェーズからは、排出量取引制度が本格的に稼働しました。CO2の直接排出量が前年度までの3年度平均で10万トン以上の企業を対象に、排出量削減計画の策定や排出枠の保有などが義務付けられています。
GX-ETSの第2フェーズの制度概要
第2フェーズでは、排出量取引制度が本格的に導入され、対象企業に対して具体的な排出量取引の義務が課されています。第2フェーズの対象企業や取引制度の全体像、今後のスケジュールを解説します。
GX-ETSの対象企業
第2フェーズの対象は、CO2の直接排出量が前年度までの3年度平均で10万トン以上の事業者です。親会社が義務対象者となる場合、密接な関係にある子会社との一体での義務履行も認められます。
対象企業は全国で300~400社程度であり、日本全体のGHG排出量の60%程度をカバーできる見通しです。製造業や電力・エネルギー分野など、エネルギー消費量の大きい業種が中心となります※。
GX-ETSの全体像
GX-ETSの第2フェーズでは、以下の主要な仕組みが設けられています。

※1出典:資源エネルギー庁「GX-ETSにおける発電ベンチマークについて」
※2出典:経済産業省「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案の概要」
排出枠は、業種・事業特性に応じて無償で割り当てられますが、割当量を超過した場合は、差分を市場で購入しなければなりません。一方で、目標を上回る削減を達成した場合は、余剰分を売却して収益を得ることもできます。
価格安定化措置では、排出枠の取引価格が大きく変動しすぎないよう、上限・下限の目安が設定されます。2026年度は、参考上限取引価格が4,300円/t-CO2、調整基準取引価格が1,700円/t-CO2です。
また、排出実績に対して排出枠が不足し、未償却となった場合、企業は未償却相当負担金の納付が必要です。負担金額は、未償却量に参考上限取引価格と調達コスト相当の算定率(1.1倍)を乗じて算出されます。
GX-ETSの導入スケジュール
制度開始に先立ち、2026年1月には、排出量の第三者検証を担う「登録確認機関」の登録申請が開始されました。
GX-ETSでは、制度初年度にあたる2026年度に、通常とは異なる特例スケジュールが適用されています。
排出目標量の届出や排出枠の割当は2027年度に実施される一方、排出実績量の算定は2026年4月から開始し、9月末までに年度平均排出量の届出と移行計画の提出が求められます。
2027年度以降は排出量の算定・報告、排出枠の割当・償却が順次進む通常サイクルに移行する予定です※。
なお、排出枠取引市場は2027年秋ごろの開設が予定されており、GX推進機構が設置・運営を担います。市場には制度対象事業者に加え、一定の要件を満たす取引事業者も参加が認められる見通しであり、取引の流動性確保に向けた環境整備が進められています。
GX-ETSがもたらす企業の変化
GX-ETSの導入は、企業のコスト構造やビジネスモデルに様々な変化をもたらします。主要な変化のポイントは以下のとおりです。
排出枠による収益・コスト構造の変化
GX-ETSのもとでは、削減目標を達成して過達した排出枠は市場で売却できるため、積極的な削減活動が新たな収益源になり得ます。
一方で、不足分は市場から調達・購入しなければならず、その費用は事業コストとして計上されるため、削減の進捗状況次第では、同業他社との間にコスト競争力の差が生じる可能性があります。
さらに、2028年度には化石燃料賦課金の導入、2033年度には発電事業者を対象に排出枠の有償オークションへの移行も予定されており、カーボンプライシング制度が進んでいくため、将来像を見据えた上での経営戦略が必要です。
排出量の測定・報告・検証(MRV)への対応
GX-ETSの信頼性を担保する仕組みとして、MRV(Measurement, Reporting, Verification=測定・報告・検証)が重要な役割を担っています。
GX-ETSに対応する企業は、ガイドラインに基づいて排出量を正確に測定し、その結果を登録確認機関による第三者検証にかけた上で、国へ報告する義務を負います。
MRVに対応するには、各拠点・設備単位でのエネルギー使用量や排出量を継続的に把握できる体制整備が必要です。
新たなビジネス機会の拡大
排出量は、一般的にScope1(自社の直接排出)、Scope2(購入した電力・熱に伴う排出)、Scope3(サプライチェーン全体での排出)の3つに分類されます。業種によっては、Scope3が全体の排出量の大部分を占めるケースも少なくありません。
脱炭素への取り組みは取引先の調達基準に組み込まれる動きも見られ、排出量削減に貢献できる企業は、サプライヤーとしても評価されやすい状況です。自社の排出削減は競争力の強化につながり、新規受注の面で優位に働く可能性があります。
GX-ETSに関する企業の事例
GX-ETSへの対応も見据え、各企業は排出量の把握や削減体制の整備を進めています。以下では、企業の取り組み事例を紹介します。
YKK AP株式会社
建材メーカーのYKK AP株式会社では、製造工程の見直しや設備更新によるエネルギー使用量の削減を進めています※。例えば、アルミ鋳造設備の再構築を進め、効率的なアルミ溶解炉・保持炉の更新や、アルミリサイクル専用炉の新設、高効率な空調設備導入によるエネルギー消費の最適化はその一例です。
再生可能エネルギーの活用も積極的に推進しており、太陽光発電・小水力発電の導入や非化石証書の調達などを組み合わせながら、電力由来の排出量削減を推進しています。
このような取り組みを支えるため、2030年までに累計500億円の中長期的な投資を計画しており、GX実現に向けた取り組みを進めています。
NECネッツエスアイ株式会社
ITサービス企業のNECネッツエスアイ株式会社は、Scope1・2・3それぞれに排出削減目標を設定し、全社的に脱炭素へ取り組んでいます※。Scope1・2では2030年度の実質ゼロ、Scope3では2030年度に2019年度比35%削減を目標に掲げている状況です。
具体的な取り組みには、エコカーの導入や電力の再エネプランへの切り替え、非化石証書の活用などが挙げられます。サプライヤーへの働きかけやサプライチェーン排出量の可視化にも取り組んでおり、Scope3を含めた対応を進めている事例です。
株式会社JERA
大手発電事業者の株式会社JERAは、「JERAゼロエミッション2050」を掲げ、2050年までにCO2排出実質ゼロの達成を目指しています※。火力発電の脱炭素化が重要課題となるなか、水素やアンモニア活用を含む脱炭素ロードマップを掲げている点も特徴です。
また、再生可能エネルギー分野では各地域の知見を活かす「グローカル」体制の構築を進める一方、火力発電分野ではアンモニア混焼や水素活用の商用化を見据えた取り組みを展開しています。
※出典:GXリーグ「株式会社JERA」
GX-ETSに対応するためのソリューション
GX-ETSへの対応は、排出量の正確な把握から始まり、削減施策の実行までの一体的な推進が重要です。以下では、企業の対応を支援する主なソリューションを紹介します。
排出量の可視化・管理システム
GX-ETSへの対応では、MRVを適切に実施するための体制整備が重要です。各部門でのエネルギー使用量や排出量を一元的に管理できるシステムは、算定作業の効率化と制度運用の向上に貢献します。
近年では、事業活動データの入力で排出量を自動で算定・可視化するサービスが登場しています。サプライチェーン全体の排出管理に対応した製品もあり、規模や業種に応じた選択肢が広がっています。
エネルギーマネジメントシステム(EMS)
排出量を削減する取り組みでは、エネルギー使用量そのものを抑える省エネルギー活動は引き続き重要です。工場やオフィスビルでの設備の高効率化や運用方法の最適化によって、エネルギー消費量を効果的に抑制できます。
このような取り組みを支援するツールとして、エネルギーマネジメントシステム(EMS)が活用されています。EMSは、エネルギー使用状況の可視化や無駄な消費を検知・制御する機能を備えた製品もあり、省エネルギーの推進や継続的な運用改善に役立ちます。
再生可能エネルギーの導入・調達
再生可能エネルギーの導入・調達は、電力由来の排出量(Scope2)の削減に効果的なアプローチのひとつです。
具体的には、自家消費型太陽光発電の導入やPPA(電力販売契約)、カーボンクレジットの活用などが挙げられます。近年は、立地や電力使用規模などに応じて様々な調達方法が選べるようになっており、複数の手段の組み合わせでより大きな削減効果が期待できます。
PPAやカーボンクレジットについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
▶関連記事:太陽光発電のPPAとは?仕組み・メリットや再エネ導入時の「追加性」について解説!
▶関連記事:カーボンクレジットとは?メリット・デメリットや国内外の制度をわかりやすく解説
GX-ETS対応に向けた情報収集なら「サステナブル経営WEEK」へ
GX-ETSへの対応を実効性のあるものにするためには、制度の理解にとどまらず、活用できる技術・ソリューションの最新動向の把握が欠かせません。
「サステナブル経営WEEK」は、企業の脱炭素・GX対応に関する製品が一堂に集まる展示会です。
構成展である「脱炭素経営 EXPO」や「サーキュラー・エコノミー EXPO」では、ゼロカーボンコンサル、排出量見える化、サーキュラーデザイン、サステナブルマテリアルなど、幅広いソリューションが出展されます。
また、特別企画である「SCM -サプライチェーンマネジメント- ワールド」では、サステナビリティやリスクマネジメントなどの経営に関するテーマを通じて、サプライチェーン全体での排出量管理や最適化を考える機会が得られます。
排出管理や省エネ、再エネ関連の製品をお持ちの企業にとって、本展示会は導入を検討する企業と直接対話できる貴重な場です。出展も受け付けているため、関連する企業様はぜひご参加ください。
■サステナブル経営WEEKの詳細はこちら
■脱炭素経営 EXPOの詳細はこちら
■サーキュラー・エコノミーEXPOの詳細はこちら
■SCM -サプライチェーンマネジメント- ワールドの詳細はこちら
GX-ETSへの理解を深めて脱炭素経営の実現へ
GX-ETSは、排出量の管理と取引という市場メカニズムを通じて、企業の脱炭素化を促進する制度です。第2フェーズでの本格稼働が始まり、対象企業には排出量の算定・報告体制の整備と、削減に向けた実効的な取り組みが求められます。
対応の具体例には、排出量の可視化システムの導入、省エネ設備への更新、再生可能エネルギーの調達などが挙げられます。自社の状況に合わせた施策を組み合わせながら、着実に進めるプロセスが重要です。
サステナブル経営WEEKでは、世界各国の専門家が集い、GX-ETS対応に役立つ技術を比較検討できます。GX-ETS対応に向けたソリューション探しにぜひご活用ください。
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他 資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。
その後、経営企画、事業企画等に従事し、技術経営、サプライチェーンマネージメント及び事業継続マネジメント等を推進。
2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて環境経営支援、資源エネルギー技術開発等など社会実証に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 内閣府国土強靭化推進会議 委員他
