【分析レポート】
「期待感と停滞感」——WIND EXPOのデータが示す、日本風力市場の今
レポート・インタビュー:株式会社三菱総合研究所 GX本部 再エネ産業戦略グループ 主席研究員・特命リーダー 寺澤 千尋 氏
聞き手:RX Japan WIND EXPO事務局長 小笠原 徳裕
株式会社三菱総合研究所 寺澤氏(写真左)と、WIND EXPO 小笠原(写真右)(WIND EXPO【春】~第17回 [国際] 風力発電展~ 会場にて撮影)
2026年3月に開催されたWIND EXPO【国際】風力発電展。今回、WIND EXPO事務局は過去5年分の出展社数推移・セミナーテーマ・受講者数データを、本展のアドバイザリー委員であり、再生可能エネルギー分野の専門家である三菱総合研究所・寺澤千尋氏に提供し、率直な見解をコンパクトなレポートにまとめていただいた。
2008年から風力市場に携わり、2019年以降は洋上風力を中心に業界の動向をウォッチしてきた寺澤氏の目に、データと現場は何を映したのか。
寺澤 千尋 氏 プロフィール
株式会社三菱総合研究所 GX本部 再エネ産業戦略グループ 主席研究員・特命リーダー。2008年入社以来、再生可能エネルギー分野で風力発電に携わる。2019年のカーボンニュートラル宣言以降、洋上風力を中心に政策・市場動向のウォッチを本格化。業界関係者との対話を通じ、日本の風力市場の課題と展望を発信している。
国内と海外の出展社数で"真逆の動き"——データから見えた構造変化
- RX 小笠原:WIND EXPOのデータを複数年で見たとき、どんなことが見えてきましたか?
寺澤氏:国内と海外で、まったく逆の動きが出ています。国内出展社数が横ばいで推移する一方、海外出展社数は明確な増加傾向にある。全体の出展社数が増えているとすれば、その成長を牽引しているのは海外勢です。 海外から見ると、日本はスピードこそ遅いけれど、政情が安定していて電力需要も大きく、ポテンシャルがある市場として信頼されています。米国市場の停滞やアジア市場の足踏みが続く中で、海外プレイヤーや政府機関が日本市場に大きな期待を寄せている。その動きが出展社数に表れているのだと思います。
2023年をピークに下降——セミナー受講者数が示すもの
-RX 小笠原:セミナーの受講者数については、どのように見ていますか?
寺澤氏: 2023年に大きな山があって、それ以降は下降傾向です。2023年の急増の背景には、三菱商事など業界の注目を集めた企業が基調講演に登壇して約800人規模を集め、秋田港・能代港の洋上風力運転開始というマイルストーンとも重なったのではないかと見ています。それが一つのピークになった。 受講者数は登壇者やテーマによる影響も大きいですが、その後の下降については周辺産業の関係者の関心や、情報収集の優先度が、やや下がっている可能性もあると見ています。
リアル来場者の"質"は上がっている——ウェビナー普及がもたらした変化
-RX 小笠原:受講者数の変化については、ウェビナー普及で「まず情報収集」という層がオンラインに移行した側面もあると思います。裏を返すと、展示会場にわざわざ足を運ぶ、熱意の高い層は残っていると感じてますがそのあたりはどう思いますか。
寺澤氏: おっしゃる通りで、そこは重要な視点だと思います。リアルの展示会に来る方は、高い目的意識と熱量を持って来場している。私自身、今年のWIND EXPOで半日かけてブースを回りましたが、把握できていなかった技術について直接質問できたり、新しいつながりができたり。そういう場でできた出会いが、後々いろんな場面で生きてくるんですよね。
"二重のフラストレーション"——目の前の混乱と先の議論のギャップ
-RX 小笠原:今、日本の風力業界はどのような状況にあると捉えてますか。
寺澤氏:二重のフラストレーションが溜まっているんだと思います。一方では、目の前で領海内入札の混乱がある。案件パイプラインが見えない、インフレで事業性が読めず、足元の案件もおぼつかない。ところがセミナーではEEZや浮体式といった先の話が中心になる。この期待と現実とのギャップへのフラストレーションが、アンケートにも表れている印象を受けます。
「期待感」と「停滞感」の共存——"ギリギリの戦い"の局面にある
-RX小笠原:この状況を一言で表すとしたら?
寺澤氏:「期待感」と「停滞感」の共存、これに尽きます。 海外からの期待は高いですが、足元や将来市場の見通しが立たない今の状況が今後も続くようであれば、今は増加している海外出展社数も伸び悩みや減少に転じるリスクがある。私は今「ギリギリの戦い」の中にいると捉えています。業界として危機感を共有しなければいけない局面です。
📊「期待感」と「停滞感」がデータ上どう表れているか——出展社構成の変化や受講者動向から読み解いた分析は、レポート本編に掲載しています。
官民交流の場、そして"日本市場の温度計"——展示会が果たす役割
-RX 小笠原:そうした中で、WIND EXPOのような展示会が果たす役割をどう見ていますか?
寺澤氏: 商談の場としての役割はもちろんですが、官民双方の業界関係者が定期的に集まって、風力を推進しようという強い思いを共有し、一緒に成長できる場としての意味は、非常に大きいと思います。 政府関係者は約2年サイクルで交代していきます。そういう方々に会場の規模と熱気を体感していただくことが、政策推進の意識を強める契機になる。また、産業界にとっても、政府の意志を直接聞き、市場の信頼性と可能性を確認する重要な機会となる。官民交流の場として機能しているわけです。 海外参加者にとっても、WIND EXPOの規模や熱量は「日本市場の魅力を測るバロメーター」になっている。展示会の数字そのものが、市場の現在地を映す指標になっているんです。だからこそ、こういう状況だからこそ、業界関係者が一堂に会して熱量を発信し続けることが大切だと思っています。
「市場の見える化」と「漁業共生の議論の深化」——そして9月へ
-RX 小笠原:最後に、今後の業界として最も重要なテーマと、9月のWIND EXPOへの期待を聞かせてください。
寺澤氏: 重要なテーマは二つあります。一つは、日本市場の「見える化」です。これは兼ねてから官民で協議し続けていることではありますが、どの海域でどれくらいの容量の開発可能性があるのかを、国が主導しながら、官民で協力して明らかにしていくことが必須だと思っています。それが国内の案件形成を加速化し、グローバル市場における日本市場の魅力を維持し、民間投資を促進させる出発点になる。 もう一つは、漁業共生の議論の深化です。「漁業共生」という一言でふわっと語るのではなく、海域ごとの漁法などの特性やステークホルダーに踏み込んだ議論が必要です。また、領海とEEZを分けて考えるのではなく、事業性や漁業共生の観点から日本周辺海域の全体的な適地を見ていく——そういう目線を官民で共有していくことが、これからの最重要テーマだと考えています。 9月のWIND EXPOについては、今回の分析を踏まえてまさにRXさんとセッション構築を進めています。「ギリギリの戦い」だからこそ、展示会の場で業界全体の熱量を可視化することに意味がある。 光る技術を持つ企業にはぜひ出展していただきたいし、関係者の方々には最新の技術・情報の収集はもちろん、人と人がつながる場や意見形成の場として展示会を最大限に活用していただきたい。私自身、今年の会場で新しい出会いやお互いのアップデートを通じて、改めてそう感じました。
-RX 小笠原:寺澤様、有難うございます。風力発電に関わる方は皆、本当にこの産業を心から愛している——多くの方と関わる中で、私自身そう感じています。だからこそ私たち主催者も、もっと良い場をつくらなければと身が引き締まる思いです。 また9月、ぜひ会場でお会いしましょう。
▼ レポートダウンロード 寺澤氏が執筆した分析レポート「WIND EXPOから見る日本の風力市場」では、出展社数・セミナー受講者数の複数年推移データ、国内外の動向比較、カンファレンスから見えた業界の論点をコンパクトに解説しています。業界の現在地を短時間で把握したい方におすすめです。
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