【会期前インタビュー】
日本のネットゼロ実現に向けて――風力発電の現在地
――JERA Nex bp Japan 山田 正人氏に聞く、業界を横断して解くべき次の課題
インタビュー:JERA Nex bp Japan合同会社CEO 山田 正人氏(写真右)
聞き手:RX Japan SMART ENERGY WEEK・WIND EXPO事務局 小笠原 徳裕(写真左)
SMART ENERGY WEEKでは、風力・太陽光・蓄電池・水素など多様なエネルギー分野が一堂に会します。この“業界横断”という強みを、どのように次の議論やイノベーションにつなげていくべきか――。
今回は、日本の風力発電業界において長年ご協力いただいているJERA Nex bp Japan合同会社 CEO 山田 正人氏に、日本の風力発電の現在地と、今後のWIND EXPO・SMART ENERGY WEEKへの期待についてお話を伺いました。
メーカー・事業者・業界団体――3つの視点を持つキャリア
-小笠原:本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、簡単にご経歴を教えてください。
山田氏:もともとは三菱重工業に入社し、最初の15年ほどは火力発電システムの営業を担当していました。2002年から風力発電に携わるようになり、2014年にはデンマークのVestas社との合弁会社「MHI Vestas Offshore Wind」設立に参画。CStOとして現地に6年間駐在し、欧州の洋上風力プロジェクトを目の当たりにしてきました。2020年に日本へ帰国後、2021年に新会社「MHIヴェスタスジャパン」を設立し、代表取締役として陸上・洋上風車の日本総代理店を務めました。その後2025年に株式会社JERAへ移り、同年8月、英bpとJERAの洋上風力事業を統合した合弁会社設立にあわせてJERA Nex bp Japan合同会社のCEOに就任し、今日に至っています。
-小笠原:メーカー、発電事業者、そして業界団体という複数の立場からご覧になってきたのですね。JWPA( 一般社団法人 日本風力発電協会)の役員としては、いつ頃から関わっていらっしゃるのですか。
山田氏:JWPAの理事になったのは2020年5月です。ちょうど日本に戻ってきたタイミングでした。そこから副代表理事を務め、一貫して業界団体の活動にも関わっています。
日本のネットゼロ実現に向けて――「迷う余地はない」
-小笠原:日本のネットゼロ実現に向けて、今どのような見方をされていますか。
山田氏:カーボンニュートラルを宣言したのは菅政権の時、2020年です。あの決断は非常に画期的でした。産業界が大反対するのではという懸念もありましたが、みんなでやっていこうという機運が生まれたことは意義深いと感じています。
同じ2020年12月には、洋上風力を主力電源化するための「洋上風力産業ビジョン」も策定されました。私自身、デンマーク時代からずっと洋上風力の必要性を訴えてきた立場なので、非常にいい方向に来ていると感じていました。
ただ、その後もウクライナ情勢やコロナ禍、物価変動など様々な出来事がありました。カーボンニュートラルは今日明日で判断すべき話ではなく、長期的に腰を据えて取り組み続けるべき課題です。短期的な事情に左右されるべきではありません。
日本は、エネルギー安全保障の観点からも、脱炭素の観点からも、再生可能エネルギーは迷わず全方位的に投入していくべきだと考えています。原子力も含め、あらゆる選択肢を適切に組み合わせて実現すべき課題です。
欧州で学んだ「目的思考」――目標から逆算する政策のつくり方
-小笠原:デンマーク駐在時代のご経験で、印象に残っていることはありますか。
山田氏:ヨーロッパの人たちは、気候変動に対する意識が当時から非常に高かったですね。政府・業界団体との交渉を通じて感じたのは、彼らはまずゴールを目指して、そこから逆算して計画を立てるということでした。
日本では、今できることから目標を決めがちです。一方で欧州は、必要だからこの目標を立てる、という発想。達成できるかどうかは二の次で、必要な目標を先に掲げ、そこに向けてやり方をみんなで必死に考えるのです。
-小笠原:具体的なエピソードがあれば教えてください。
山田氏:2015年頃の話です。英国政府が、洋上風力の発電コストをメガワット当たり100ポンド以下まで下げるという目標を掲げていたことがありました。当時150~200ポンドと言われていたので、私はメーカー出身として『どうやって実現するのか』と尋ねたんです。
すると英国政府の高官が『今の時点では誰にもわからない。でも、市場に十分な需要があって資本が投下されれば、技術は後からついてくる』と。実際、その2年後には本当に100ポンドを切りました。目標を緩めず、コミットし続けることの大切さを実感した経験です。
「難しいとわかったなら、乗り越え方を考える」――秋田プロジェクトが示す実行力
-小笠原:日本の風力発電について、期待している点と課題に感じている点を教えてください。
山田氏:日本は地形が複雑で風況も弱く、陸上風力に適した平地も少ない。これはもともとわかっていたことです。難しいことが見えてきたのは、実際にやり始めたからこそ。むしろ実現に近づいている証拠だと捉えています。
課題が見えたら、それをどう解決するかを考えればいい。本当に必要なら、難しくてもやるべきです。過去の日本の大きなプロジェクトも、みなそうした困難に直面しながら進めてきたはずです。
-小笠原:JERA Nex bpが代表するコンソーシアムが進めている秋田県の男鹿・潟上・秋田プロジェクト(秋田)の状況はいかがでしょうか。
山田氏:秋田では実際に建設を進めています。タワー組立用の基礎はすでに複数完成し、大型クレーンの設置も完了しました。2026年9月には最初のモノパイル基礎が搬入される予定です。
一つひとつ実際にものを作って動かし、建設の準備を進めていく。実行して初めて得られるデータがあり、そこから次のプロジェクトへの学びにつながります。今あるプロジェクトを前に進め、早く洋上風力発電所の運転をスタートできるようにすることが、私は一番大事だと思っています。
日本の産業界の強み――「新幹線を運営する国」の技術力
-小笠原:プロジェクトを進める中で、日本ならではの強みを感じる場面はありますか。
山田氏:台湾ではすでに約4ギガワットの建設実績がありますが、工事の過程で数多くのトラブルに直面してきたと聞いています。日本でも同様の苦労があるだろうと当初は見られていました。
しかし、実際にやってみると、日本のゼネコンやマリンコントラクター、ケーブルサプライヤーの技術力は非常に高く、厳しい工程の中でも着実に進んでいます。品質へのこだわり、周到な準備。新幹線を時刻表通りに運行できる国の総合力は、洋上風力の建設・保守現場でも生きていると感じます。
WIND EXPO・SMART ENERGY WEEKへの期待――「業界の垣根を越えた議論の場」
-小笠原:アドバイザリーとして2026年からWIND EXPOにご協力いただいていますが、この展示会にどのような役割を期待されていますか。
山田氏:風力に限らず、クリーン・エネルギーに関連するあらゆるプレイヤーが一堂に集まっているのがこの展示会の強みです。系統連系や電力市場など、電源の種類を問わず共通して解決すべき課題は数多くあります。
個別分野ごとのカンファレンスは業界団体がそれぞれ開催していますが、分野を横断した問題提起ができる場は、ここ以外になかなかありません。私自身、登壇のたびに洋上風力事業に直接関わらない業界の方やメディアの方から反響をいただくのですが、そうした産業を超えた交流こそ、この展示会ならではの価値だと思っています。
-小笠原:他の展示会と比較して、SMART ENERGY WEEKの構成をどう評価されていますか。
山田氏:さまざまなエネルギーに携わる企業が、それぞれの業界の垣根を越えて一つ屋根の下に集まっているという構成は、世界的に見てもなかなかありません。それぞれの強みを生かしながら共通のゴールを目指せるという点は、非常に大きな価値だと思います。
新たな論点提起――送変電システムという“隠れたピース”
-小笠原:今後の展示会・カンファレンスで扱うべきテーマとして、送変電システムやラウンドテーブルなどが挙がっていますがどう思われますか。
山田氏:一つのアイデアとして非常によいと思います。送変電システムは、データセンターの急増や洋上風力の立地拡大により、送電線・変電設備の増強がますます急務になっています。今の制度では、新規に系統接続する電源側が接続コストを負担する構造になっているのですが、これは風力だけの問題ではなく、電力・ガス業界全体に関わる話なんです。
送配電事業者、発電事業者、行政など、多様なプレイヤーが業界の垣根を越えて議論していくことが重要だと考えています。
読者へのメッセージ――「トライすること」への挑戦
-小笠原:最後に、本記事をご覧の読者へメッセージをお願いします。
山田氏:日本ではどうしても『失敗したらどうするのか』という発想が強くなりがちです。しかし本当に問題なのは、何もしないことだと思っています。
必要な目標を先に掲げ、トライ&エラーを重ねながらスピード重視で進めていく。これは外資系企業で働く中で強く意識するようになった姿勢でもあります。野心的な目標を掲げ、実行を通じて学びを重ねていくことが、日本の風力発電産業、そしてエネルギー業界全体が次の段階に進むための鍵になると考えています。
▶インタビューに答えていただいた方
JERA Nex bp Japan合同会社 CEO 山田 正人氏
<プロフィール>三菱重工業入社後、火力発電営業を経て2002年より風力発電事業に従事。2014年、デンマークVestas社との合弁会社 MHI Vestas Offshore Wind 設立に参画し、 CStO:Chief Strategy Officer として欧州の洋上風力事業を6年間統括。2020年帰国後、アジアパシフィック地域統括、MHIヴェスタスジャパン設立(べスタス社陸上・洋上風力タービンの日本代理店)を経て、2025年株式会社JERA入社。同年8月、JERA Nex bp Japan合同会社CEOに就任。日本風力発電協会(JWPA)理事・副代表理事(2020年5月~)。
編集後記
今回のインタビューを通じて感じたのは、山田氏の一貫した「目的思考」と実行への姿勢だった。メーカー・事業者・業界団体という3つの視点を持つからこそ語れる、日本の風力発電の現在地。そして、送変電システムという新たな論点は、WIND EXPO・SMART ENERGY WEEKが今後さらに価値を高めていくためのヒントになるはずだ。
風力発電にとどまらず、エネルギー業界全体が次の段階へ進むために何が必要か――そのヒントを、ぜひ会場でも探していただきたい。
本記事で語られた送変電・洋上風力・再エネ拡大の議論は、WIND EXPO会場でも行われる。
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