ペロブスカイト太陽電池とは?仕組みやメリットを解説

太陽電池は、カーボンニュートラル実現に向けた主力電源として、今後の経済活動を支える再生可能エネルギーのひとつです。なかでもペロブスカイト太陽電池は、太陽光発電をさらに普及させる次世代の太陽電池として注目されています。

本記事では、ペロブスカイト太陽電池の概要や仕組み、メリットや既存の太陽電池との違いを解説します。ペロブスカイト太陽電池の課題や研究・開発事例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。


▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、サーマルリサイクル技術に関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他


目次

  • ペロブスカイト太陽電池とは
  • ペロブスカイト太陽電池と既存の太陽電池の比較
  • ペロブスカイト太陽電池のメリット
  • ペロブスカイト太陽電池が抱える課題
  • ペロブスカイト太陽電池の研究・開発事例
  • 「PV EXPO 太陽光発電展」で太陽電池の情報収集を
  • ペロブスカイト太陽電池は商用化へ向け研究開発が進んでいる

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ペロブスカイト太陽電池とは

ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト構造を持つ材料で製造された太陽電池です。従来型のシリコン系太陽電池や化合物系太陽電池に迫る変換効率を持ちます。

ペロブスカイト太陽電池は、軽量で柔軟性がある点が特徴です。シリコン系太陽電池が設置困難なビルの壁面や耐荷重が低い屋根にも設置できます。

スピンコート技術(高速回転で生じた遠心力で薄膜を作る)で比較的容易に製造できるため、太陽光発電の利用可能性を広げる電池として注目を集めています。

 

そもそもペロブスカイトとは?

ペロブスカイトは、以下の独特の結晶構造を持ちます。ペロブスカイト太陽電池は、この構造を発電層に用いる点が特徴です。

※出典:経済産業省 資源エネルギー庁「日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)~今までの太陽電池とどう違う?」


ペロブスカイトは従来、灰チタン石を意味していました。しかし、ペロブスカイト構造を持つ物質は灰チタン石だけではありません。

また、ペロブスカイト構造を構成する化学物質の組み合わせは多数あることから、近年では上記の構造を持つ物質を総称して「ペロブスカイト」と呼んでいます。

 

ペロブスカイト太陽電池の仕組み

ペロブスカイト太陽電池は、その他の太陽電池と同様に「発電層」「電極」「正孔(ホール)輸送層」「電子輸送層」で構成されます。

発電層(ペロブスカイト層)を中心に正孔輸送層と電子輸送層があり、一番外側に2つの電極が配置される5層のサンドイッチのような構造です。

ペロブスカイト太陽電池に太陽光が当たると、発電層で電子と正孔が発生します。電子は電子輸送層を経由してマイナスの電極へ、正孔は正孔輸送層を経由してプラスの電極へ輸送され、電荷の移動により電流が発生して電力が生じる仕組みです。

ペロブスカイト太陽電池と既存の太陽電池の比較

それでは、ペロブスカイト太陽電池は既存の太陽電池とどのように違うのでしょうか。

太陽電池は、大きくシリコン系太陽電池、化合物系(CIGS)太陽電池、有機系(有機薄膜)太陽電池に分けられ、ペロブスカイト太陽電池は有機と無機のハイブリッド型太陽電池に位置付けられます。それぞれの特徴を比較した表は次のとおりです。

※出典:国立研究開発法人産業技術総合研究所「ペロブスカイト太陽電池の研究開発動向」

現状、変換効率やコスト面でシリコン系太陽電池が優れており、太陽電池分野の95%のシェアを占めています。

有機と無機のハイブリッドであるペロブスカイト太陽電池は、有機系太陽電池が持つ軽量性やフレキシブル性を備えつつ、近年の研究・開発により変換効率が飛躍的に向上しました。

コスト面や耐久性の面でも研究が進んでおり、シリコン系太陽電池に代わる次世代の太陽電池として期待されています。

 

ペロブスカイト太陽電池のメリット

ペロブスカイト太陽電池は、従来の太陽電池と比較して次のメリットを持ちます。

①  製造コストを抑えられる
②  軽量で柔軟性がある
③  弱い光を電力へ変換できる
④  材料を国内で調達できる

各メリットの詳しい内容を紹介します。
 

① 製造コストを抑えられる

ペロブスカイト太陽電池は少ない工程で製造できるため、製造にかかるコストを削減できる点がメリットです。太陽電池で使用されるペロブスカイト膜は、塗布技術を用いて比較的簡単に作れることから、最終的な太陽電池の価格の低下につながります。

また、材料のペロブスカイトにレアメタルは利用されていません。ペロブスカイトは合成材料の一種であり、溶解処理で製造できる点も製造コストを抑えられる要因です
 

② 軽量で柔軟性がある

ペロブスカイト太陽電池は、ポリマーシートなどの軽量基盤への塗布や印刷で製造できます。軽量性や柔軟性を確保しやすい点が特徴です。

現在主流のシリコン系太陽電池はシリコンウェハー部分が割れやすいことから、基盤にガラスが採用され、ポリマーシートで挟み込んで強化しています。そのため、製品に一定の重量があり、柔軟性がない点がデメリットです。

一方、ペロブスカイト太陽電池は小さな結晶の集合体が膜となって構成されます。

シリコン系太陽電池と比較すると軽量な太陽電池を製造でき、折り曲げや歪みにも強い側面を持ちます。建物の窓や外壁、電気自動車、IoT機器、ドローンなど、様々な場所での活用が可能な太陽電池です。

③ 弱い光を電力へ変換できる

ペロブスカイト太陽電池は光の吸収力が強く、エネルギーの変換効率が高い点も特徴です。発電層内で発生した電子と正孔が電極までたどり着く距離が短いため、ロスなく発電できます。

そのため、曇りの日や室内など光が弱い状況下でも発電が可能です。また、フィルムなど薄膜型太陽電池である特性を活かして積層電池を開発できれば、より効率的な発電も可能となるでしょう。

④ 材料を国内で調達できる

ペロブスカイト太陽電池の主な材料であるヨウ素は、日本が世界第2位のシェアを占めています。サプライチェーンを海外に依存せずに確保できるため、経済安全保障の観点からもメリットがある太陽電池です。


ペロブスカイト太陽電池が抱える課題

ペロブスカイト太陽電池は複数のメリットがある一方、いくつかの課題を抱えています。主な課題は次のとおりです。

  • 大面積の運用が難しい
  • 寿命が短い
  • 耐久性が低い

ペロブスカイト太陽電池は「耐久性」と「安定性」が課題です。現段階の技術では大面積にペロブスカイトの膜を均一に製造するのは難しく、変換効率が下がるという課題が報告されています。

また、ペロブスカイト太陽電池は劣化が早く、現状、ペロブスカイト太陽電池の寿命は5年ほどとされており、今後、実用化に向けてシリコン系太陽電池と同等の耐久性が求められます。

 

ペロブスカイト太陽電池の研究・開発事例

ペロブスカイト太陽電池は、国内外で研究・開発が進められています。以下では、日本や各国の具体的な取り組み事例を紹介します。

積水化学工業株式会社(日本)

積水化学工業株式会社では、様々な国家や自治体、他企業と連携し、ペロブスカイト太陽電池に関する取り組みを進めています。

2023年4月、株式会社NTTデータ※1と共同で、国内ではじめて建物外壁にフィルム型ペロブスカイト太陽電池を設置する実証実験をスタートしました。

2024年2月には太陽電池の社会実装に向け、スロバキア共和国内の大学・研究機関※2との共同検討実施の覚書を締結し、現在(2024年5月時点)は東京都※3と連携して港湾施設での検証を進めています。

※1出典:積水化学工業株式会社「国内初、ペロブスカイト太陽電池を建物外壁に設置した実証実験開始」
※2出典:積水化学工業株式会社「スロバキア共和国とペロブスカイト太陽電池の共同検討実施に関する覚書を締結」
※3出典:積水化学工業株式会社「東京都との港湾施設における国内最大規模のフィルム型ペロブスカイト太陽電池の検証について」
 

株式会社カネカ(日本)

株式会社カネカは、NEDOグリーンイノベーション基金事業を活用し、超薄型ペロブスカイト太陽電池を開発中です。

カネカでは、開発を通じて20%に迫る変換効率の薄型ペロブスカイト太陽電池を実現しました。今後、薄型でサイズフリーな特徴を活かしたペロブスカイト太陽電池の社会実装を目指しています。

※出典:株式会社カネカ「カネカ 高性能ペロブスカイト太陽電池の実用化技術開発を加速」
 

株式会社アイシン(日本)

株式会社アイシンは、1999年から「色素増感太陽電池」の研究・開発に着手するなど、太陽光発電の研究を早い段階で進めてきた企業です。2010年からは、東京大学と協力して研究を続けています。

株式会社アイシンのペロブスカイト太陽電池は、酸素や水に耐性のある薄板ガラスを基板に採用する点が特徴です。ペロブスカイト太陽電池の課題である耐久性をクリアするため、20年以上の寿命を持つペロブスカイト太陽電池の実用化を進めています。

※出典:株式会社アイシン「【5分でわかる】塗って発電!?ペロブスカイト型太陽電池とは」
 

株式会社エネコートテクノロジーズ(日本)

株式会社エネコートテクノロジーズは、京都大学科学研究所との共同研究を起源に創業した会社です。

株式会社エネコートテクノロジーズのペロブスカイト太陽電池は、曇り空や室内などの光が弱い環境での発電が特徴です。2024年4月からは北海道苫小牧にある物流業者と提携して、倉庫の屋根や壁面にペロブスカイト太陽電池を設置する実証実験を開始しています。

※出典:株式会社エネコートテクノロジーズ 公式サイト
 

サウレ・テクノロジーズ(ポーランド)

サウレ・テクノロジーズはポーランドの首都ワルシャワに本社を置く企業です。

サウレ・テクノロジーズでは、スーパーやコンビニの商品に使用される電子タグへのペロブスカイト太陽電池の活用を進めています。その他、オフィスの壁面を活用したペロブスカイト太陽電池の実証も行っています。

※出典:経済産業省 資源エネルギー庁「再生可能エネルギーに関する次世代技術について」
 

オックスフォードPV(イギリス)

オックスフォードPVは、オックスフォード大学発のスタートアップ企業です。

オックスフォードPVでは、既存のシリコン系太陽電池とペロブスカイト太陽電池を積層した「タンデム型」の太陽電池を開発しています。2023年には、28.6%の高い変換効率を実現しました。

※出典:経済産業省 資源エネルギー庁「再生可能エネルギーに関する次世代技術について」
 

大正微納科技有限公司(中国)

大正微納科技有限公司は、2012年からペロブスカイト太陽電池の研究に着手しました。2020年にはセルサイズで21%の変換効率を実現し、2023年7月には生産ライン構築に関する調印式を実施しています。

※出典:経済産業省 資源エネルギー庁「再生可能エネルギーに関する次世代技術について」

 

「PV EXPO 太陽光発電展」で太陽電池の情報収集を

ペロブスカイト太陽電池の研究・開発は各国で進められています。最新の科学的知見を得たい方は、ぜひ「PV EXPO 太陽光発電展」へご来場ください。

PV EXPO 太陽光発電展は、次世代の太陽電池から太陽光発電システム、パワーコンディショナーやインバータなどのシステム機器、太陽光発電所の保守・運用まで、多彩な製品・技術が出展される展示会です。

ご来場の対象となる企業様は、主に以下のとおりです。

  • 発電事業者
  • 施工・EPC事業者
  • メンテナンス会社
  • ゼネコン・住宅メーカー
  • 太陽電池メーカー
  • 需要家(工場・ビル・施設) など

国内の開発者や研究者だけでなく、世界各国の専門家がPV EXPO 太陽光発電展へ来場するため、最新の研究や知見に触れられます。

また、以下の対象製品・技術を取り扱っている企業様は、PV EXPO 太陽光発電展への出展もぜひご検討ください。

  • [次世代]太陽電池
  • 太陽光発電システム
  • パワコン・システム機器
  • 架台・施工技術
  • 保守・メンテナンス
  • パネル回収・リサイクル技術 など

会場には太陽電池に関する多様な関係者が来場するので、自社製品のアピールに適しています。自社製品の認知度向上やリードの獲得、具体的な商談にも繋がるかもしれません。

PV EXPO 太陽光発電展は、ご来場いただく方、ご出展いただく方を橋渡しする貴重なプラットフォームです。

■PV EXPO 太陽光発電展
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ペロブスカイト太陽電池は商用化へ向け研究開発が進んでいる

ペロブスカイト太陽電池は、製造コストの低下が期待でき、軽量で柔軟性がある点がメリットです。国土が狭い日本では、シリコン系太陽電池が設置できない部分での実装に期待が集まっています。

ペロブスカイト太陽電池は、日本を含む多くの国・地域で、実用化・商用化に向けた開発が進んでいます。世界中から人と情報が集まるPV EXPO 太陽光発電展をご活用いただき、太陽光発電のリアルな情報を収集しましょう。

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※「PV EXPO 太陽光発電展」は、「スマートエネルギーWeek(SMART ENERGY WEEK)」の構成展です。

【出展社・来場者募集中!】
ペロブスカイト太陽電池に必要な情報が集まる【PV EXPO】

▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、サーマルリサイクル技術に関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他


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