浮体式洋上風力発電とは?種類別のメリット・課題や日本と各国の導入事例も紹介

浮体式洋上風力発電は風車を洋上に浮かべて発電する仕組みです。海底が深い場所でも設置できることから、次世代のエネルギーとして各国が導入に取り組んでいます。

本記事では、浮体式洋上風力発電の概要やその他の風力発電との違い、基礎となる浮体の種類や各国の動向を解説します。浮体式洋上風力発電が導入された事例も紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
 


▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、サーマルリサイクル技術に関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他


目次

  • 「浮体式洋上風力発電」は風車を洋上の浮体に設置する方式
  • 浮体式洋上風力発電の主な種類とメリット・課題
  • 【日本】浮体式洋上風力発電の動向
  • 【世界】浮体式洋上風力発電の動向
  • 浮体式洋上風力発電の導入事例
  • 浮体式洋上風力発電の製品・技術が集まる「WIND EXPO 風力発電展」へ
  • 浮体式洋上風力発電はエネルギー問題解決につながる技術

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「浮体式洋上風力発電」は風車を洋上の浮体に設置する方式

浮体式洋上風力発電とは、風車を海底に固定するのではなく、洋上の浮体構造物に設置する発電方法です。

浮体式洋上風力発電の基礎は、アンカーやチェーンなどで海底につなぎとめられます。水深の深い地域にも設置可能であるため、より広い海域で風力発電を実施できる点がメリットです。

一方、浮体式洋上風力発電では、風車に吹き付ける風の荷重の他、浮体に与える波の荷重が加わります。施工やメンテナンスに技術的な課題があり、今後のさらなる研究・開発が必要です。

なお、風力発電や洋上風力発電についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をあわせてご覧ください。

▶関連記事:風力発電の仕組みは?種類や特徴など基本情報を徹底解説!
▶関連記事:洋上風力発電とは?種類からメリット・デメリットや日本での取り組みまで解説

浮体式洋上風力発電と着床式洋上風力発電の違い

着床式洋上風力発電は、設備の基礎を海底に固定する発電方法です。浮体式洋上風力発電と着床式洋上風力発電は、基礎が海底に固定されるか、完全に固定されず海上に浮いているかに大きな違いがあります

着床式洋上風力発電は水深50mまでの海域に限定されますが、浮体式洋上風力発電の場合は、水深50mを超える海域にも設置が可能です。浮体式洋上風力発電は、これまで設置できなかった海域での発電を可能とする技術として、期待が寄せられています。

浮体式洋上風力発電と陸上風力発電の違い

陸上風力発電は、陸地沿岸部や山岳部などに設置される風力発電です。洋上風力発電と比較すると発電コストや設置費用が少なく、技術的なハードルも低いため、これまで風力発電の中心的な役割を果たしてきました。

しかし、陸地の風況の良い場所は急峻な場所や国立公園指定地域と重なる場合が多く、設置可能な場所があまり多くありません。導入ポテンシャルの面では、浮体式洋上風力発電のほうが大きくなっています。

浮体式洋上風力発電の主な種類とメリット・課題

浮体式洋上風力発電は、浮体の形状によっていくつかの種類に分けられます。主な形式は次の4つです。

以下では、各形式の特徴、メリットや課題を紹介します。
 

バージ形式

バージ形式は、浮体が箱舟のような平面型である点が特徴です。ポンツーン形式とも呼ばれています。

バージ形式は構造が単純であるため、コストが抑えられる、技術的に確立されているなどのメリットがあります。一方で、強風時に浮体が大きく動きやすく、海域の波浪条件によっては設置できない点が課題です。

セミサブマーシブル形式

セミサブマーシブル形式は、バージ形式の課題を改良した形式です。浮体の大部分を海面下に沈めることで、風や波の影響を受けにくくしています。

セミサブマーシブル形式の浮体は重心が低く設定されており、浮体動揺が小さい点がメリットです。厳しい波浪条件の海域にも設置しやすい側面を持ちます。

一方、十分な復原性と浮力を持たせるには、重量が大きくなる点やコストがかかる点が課題です。

スパー形式

スパー形式は、浮体が円筒形である点が特徴です。浮体の重心を下げて安定性を保っています。

スパー形式は浮体の動揺が小さく、波浪条件の厳しい沖合に設置可能です。構造が単純で製造のハードルが低く、コストも抑えやすくなります。

一方、浮体が縦に長いことから水深の浅い海域には設置できず、設置の難易度が高い点が課題です。

TLP形式

TLP(Tension Leg Platform)形式は、緊張係留で浮体を強制的に半潜水させる形式です。TLP形式は浮体が軽量でコストが低く、浮体の動揺も小さく抑えられる点がメリットです。

一方で、係留システムに費用がかかり、設置作業にハードルがあるため、現時点では実証段階にあります。

【日本】浮体式洋上風力発電の動向

日本では、2020年12月に政府が公表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で、浮体式洋上風力発電の技術開発の加速化が打ち出されました。

浮体式洋上風力発電に関する技術は横一線にあるとする認識に立ち、官民連携して浮体式洋上風力発電の商用化を目指しています。

2021年4月に策定された「洋上風力の産業競争力強化に向けた技術開発ロードマップ」では、浮体式基礎製造を含めた以下の8つの分野で技術開発が進められています。

  • 調査開発
  • 風車
  • 着床式基礎製造
  • 着床式設置
  • 浮体式基礎製造
  • 浮体式設置
  • 電気システム
  • 運転保守

浮体式洋上風力発電では、浮体や係留システム、風車の技術開発・コスト低減が不可欠です。浮体基礎の最適化や量産化、浮体式設置のための作業船や輸送システムなどの開発が図られています。

なお、日本の風力発電の現状についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶関連記事:日本の風力発電の現状とは?導入事例や課題と今後の展望を解説

日本で浮体式洋上風力発電が重要視される理由

日本で浮体式洋上風力発電が重要視される理由には、日本を取り巻く海域の状況が挙げられます。

日本の周囲の海域は、水深が急に深くなる点が特徴です。風が強く浅い海域が広がるヨーロッパと比較すると、着床式洋上風力発電よりも浮体式洋上風力発電が適する海域が多く存在します

また、日本は世界第6位の規模を誇るEEZ(排他的経済水域)を有しています。EEZに浮体式洋上風力発電を設置できれば、ヨーロッパ並みの洋上風力発電の大量導入が可能です。

日本を取り巻く海域に適した洋上風力発電を導入するため、領海ではないEEZでどのように導入するか、事業者にどのような権利を付与するかを含め、議論が進められています。

浮体式洋上風力発電に取り組む日本企業

近年、日本では複数の企業が浮体式洋上風力発電に取り組んでいます。

例えば、東京電力リニューアブルパワー株式会社※1は、2009年から着床式洋上風力発電の実証事業を行ってきた実績をもとに、スパー型浮体やテトラ・スパー型浮体の技術開発を進めています。

丸紅株式会社※2は、福島県沖と北九州市沖で浮体式洋上風力発電の実証実験に参加しました。2030年前後の運転開始を予定しているスコットランドでの大規模な浮体式洋上風力発電プロジェクトにも参加している状況です。

また、浮体式洋上風力発電機を開発する株式会社アルバトロス・テクノロジー※3をはじめ、浮体式洋上風力発電に取り組むスタートアップ企業も事業を展開しています。

※1出典:東京電力リニューアブルパワー株式会社「洋上風力発電の低コスト化プロジェクト(グリーンイノベーション基金事業)」
※2出典:丸紅株式会社「できないことは、みんなでやろう。洋上風力発電で、未来を変える」
※3出典:株式会社アルバトロス・テクノロジー 公式サイト

【世界】浮体式洋上風力発電の動向

2021年末時点で、世界の浮体式洋上風力発電の導入実績は約0.12GWです。洋上風力発電全体の導入実績が約57.2 GW(2021年末時点)であることと比べると、まだ少ない状況にあります。

世界風力エネルギー協会(GWEC)は、2030年には浮体式洋上風力発電の年間導入量が6.25 GWに達すると予測しています。

イギリスは、2030年までに12 GW、フランスは6 GWの浮体式洋上風力発電の累積導入を目標※としており、世界的に浮体式洋上風力発電の導入は拡大すると予想されています。

※出典:長崎大学 海洋未来イノベーション機構 織田 洋一「世界で急拡大する浮体式洋上風力発電と我が国の課題」

浮体式洋上風力発電の導入事例

普及の拡大にはいくつかの課題が残る浮体式洋上風力発電ですが、各地で運用が開始されています。以下では、国内外の3つの事例を紹介します。
 

長崎県五島市沖の事例

長崎県五島市沖では、2016年3月にハイブリッドスパー型の浮体式洋上風力発電の運用が開始しました。同風力発電所は、国内初の浮体式洋上風力発電の実用化であり、現在でも商用運転を継続しています。

五島市は環境省の実証事業として導入しましたが、浮体式洋上風力発電を採用するに至った要因のひとつは、生活への影響でした。また、浮体式洋上風力発電は撤去が容易であり、原状復帰が可能な点も決定のポイントとなっています。

ノルウェーのハイウィンドタンペンの事例

ノルウェーのハイウィンドタンペンでは、88MWの浮体式洋上風力発電所が2023年から稼働を開始しました。海域の水深は260~300m、海岸からの距離は約140kmにおよびます。スパー形式の浮体を採用しており、11基の風車が設置されています。
 

イギリスのキンカーディンの事例

イギリスのキンカーディンでは、49.5MWの浮体式洋上風力発電所を2021年から稼働開始しました。海域の水深は60~80m、海岸からの距離は約15kmです。組立や設置が容易なセミサブマーシブル形式を採用しており、下部構造は三角形の形状をしています。

浮体式洋上風力発電の製品・技術が集まる「WIND EXPO 風力発電展」へ

浮体式洋上風力発電の開発・導入に携わるなら、知見を深めて製品・技術の最新情報を得ることが大切です。風力発電の情報収集には、「WIND EXPO 風力発電展」をぜひご活用ください。

WIND EXPO 風力発電展では、風車を構成するナセルやブレードなどの風車構成部品をはじめ、風力発電所の建設やメンテナンス、洋上風力技術まで様々な製品・サービスが展示されます。世界各国から人と情報が集まる展示会で、情報収集に最適の場所です。

また、WIND EXPO 風力発電展には、発電事業者や風車メーカー、商社や代理店の関係者、建設や輸送に関わる方々など多くの方が来場されます。関係する技術をお持ちであれば、出展のご検討もおすすめです。

さらに、特別企画として、浮体式洋上風力発電に関する製品や技術が出展される「浮体式洋上風力ワールド」が開催されます。ご興味のある方は、以下のリンクより詳細をご確認ください。

■WIND EXPO 風力発電展
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浮体式洋上風力発電はエネルギー問題解決につながる技術

浮体式洋上風力発電は、海上に風車を浮かべて発電することが可能です。様々な海域での大規模な導入が実現でき、エネルギー問題解決の一手段として期待が寄せられています。技術的課題が残されていますが、日本を含む各国で実証実験が進む分野です。

浮体式洋上風力発電は、世界的にも導入が拡大すると予測されており、ビジネス機会が見込まれるエネルギーです。WIND EXPO 風力発電展をぜひご活用いただき、風力発電に関する最新の研究や知見を収集しましょう。

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※「WIND EXPO 風力発電展」は、「スマートエネルギーWeek(SMART ENERGY WEEK)」の構成展です。

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風力発電に不可欠な技術が集まる「WIND EXPO 風力発電展」

▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、サーマルリサイクル技術に関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他


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