リチウムイオン電池が発火する原因は?予防策や防ぐ技術を解説
リチウムイオン電池が発火する原因は?予防策や防ぐ技術を解説
リチウムイオン電池は、小型でありながら大容量の電力を貯蔵でき、長寿命である特徴を有しています。近年では、スマートフォンやノートパソコンなどの身近な機器から電気自動車、産業用ロボットまで幅広く利用されています。
ただし、過充電や熱、衝撃、内部での短絡が生じると発火する危険性があり、近年は事故例が多く報告されています。安全に利用するためには、発火につながる原因を把握し、予防のための対策を実施することが重要です。
本記事では、リチウムイオン電池が発火する原因や廃棄物処理プロセスでの発火の状況、予防策などを解説します。
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他 資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。
その後、経営企画、事業企画等に従事し、技術経営、サプライチェーンマネージメント及び事業継続マネジメント等を推進。
2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて環境経営支援、資源エネルギー技術開発等など社会実証に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 内閣府国土強靭化推進会議 委員他
リチウムイオン電池とは
リチウムイオン電池とは、リチウムイオンが正極と負極の間を移動することで充放電を行う二次電池です。使い切りの一次電池とは異なり、充電して電気を蓄え、繰り返し使用できます。
リチウムイオン電池は、二次電池のなかでも小型で軽量、長寿命、大容量である点が特徴です。1991年にソニー株式会社が商品化して以降、スマートフォンやノートパソコン、電気自動車、電子機器、航空機、工場設備など幅広い用途で利用されています。
リチウムイオン電池の種類や二次電池について詳しく知りたい方は、以下もあわせてご覧ください。
▶関連記事:リチウムイオン電池の種類は?材料・形状の特徴と安全性・用途を解説
▶関連記事:二次電池とは?種類・特徴・用途や一次電池との違い、メリットを解説
リチウムイオン電池が発火する原因
リチウムイオン電池を搭載した製品から出火する火災が多く発生しています※1。
2020年から2024年までの5年間にNITE(ナイト)に通知された製品事故情報※1では、「リチウムイオン電池搭載製品」の事故※2は1,860件ありました。事故の約85%(1,860件中1,587件)が火災事故に発展し、事故発生件数は春から夏にかけて気温の上昇とともに増加する傾向にあり、6月~8月にかけてピークを迎えます。
出火要因をみると、使用者の明らかな誤使用(分解、衝撃、充電方法誤り等)により出火する火災の他に、製品の欠陥により製品から突然出火する火災も発生しています。
以下では、リチウムイオン電池が発火する原因を解説します。
※1 出典:東京消防庁「リチウムイオン電池搭載製品の出火危険」
※2 出典:『夏バテ(夏のバッテリー)』にご用心~「リチウムイオン電池搭載製品」の火災事故を防ぐ3つのポイント~ | 製品安全 | 製品評価技術基盤機構
内部短絡(ショート)
リチウムイオン電池の内部にあるセパレーター(絶縁膜)が衝撃などで破損すると、正極と負極が直接接触して内部短絡(ショート)が発生します。内部短絡が継続して起こると急激な加熱につながり(熱暴走)、発火の原因となることがあります。
過充電
リチウムイオン電池を過度に充電した場合、電池内部の負極に金属リチウムのデンドライト(樹枝状結晶)が生じます。これがセパレーター(正極と負極を隔てる部材)を突き破ると内部短絡が発生し、結果として発火の原因となります。
過放電
リチウムイオン電池は、過放電の状態に置かれると負極集電体に使用されている銅が溶け出してデンドライトが生じます。デンドライトの析出は内部短絡の原因となる場合があり、発熱して発火する可能性があります。
物理的損傷
物理的損傷は、リチウムイオン電池が発火する原因のひとつです。落下や強い衝撃により内部に傷や亀裂が生じると、内部短絡が発生して発熱し、発火へとつながります。
高温環境
リチウムイオン電池は、高温環境下に置くと熱の影響で異常反応が起こる可能性があり、それが原因で発熱や発火が生じることがあります。特に、直射日光下の車内や暖房器具の近くでは注意が必要です。
製品の欠陥
リチウムイオン電池では、製造過程での異物混入や製造不良など、製品の欠陥によって発火する事故が報告されています。
2020年~2024年の5年間で、リコール対象製品の事故が360件以上発生しているため、リコール対象となっているかどうかの確認が重要です※。非純正バッテリーによる火災事故も報告されています。
※出典:独立行政法人製品評価技術基盤機構「Vol.481 7月22日号『リチウムイオン電池搭載製品の事故』」
リチウムイオン電池の発火は廃棄物処理でも起こる
リチウムイオン電池は、製品使用中の発火の他、廃棄物処理プロセスでの発火が近年の課題です。廃棄物処理でリチウムイオン電池が発火する原因や事故の状況を解説します。
廃棄物処理で発火する原因
廃棄物処理では、各工程を効率的に進めるために、廃棄物の破砕や圧縮が必要です。この破砕や圧縮の工程が、リチウムイオン電池の発火原因になります。
例えば、プラスチックリサイクル工場では、処理の第一段階でベール解砕機や破砕機の刃で廃棄物を砕きます。リチウムイオン電池は押しつぶされると発熱や発火が生じ、周囲のプラスチックに引火して火災へとつながります。
また、収集段階では、塵芥車(ごみを投入すると自動的に圧縮する車両)で押しつぶされる危険性がある他、自動圧縮を行わない平ボディー車でも、廃棄物が積み重なって圧縮される可能性を否定できません。
なお、リチウムイオン電池が原因の発火は、直後発火と遅延発火に分けられます。遅延発火は破砕や圧縮後しばらくしてから発火する種類であり、搬送コンベアや保管場所で10分~11時間以上経過した後に温度上昇した事例が報告されています。
廃棄物処理でのリチウムイオン電池の火災事故
リチウムイオン電池使用製品による発火事故は、発火事故全体の80~90%程度を占めるとの調査があるほど、廃棄物処理での火災事故の主な原因とされています。リチウムイオン電池使用製品の重量は不燃ごみ全体の0.3%程度であるため、その影響は大きいです。
また、環境省が実施した実態調査によると、リチウムイオン電池を含む二次電池が原因の火災事故は、以下の場所や品目で発生しています。
※出典:環境省「令和4年度リチウム蓄電池等処理困難物対策集(概要版)」
火災の発生場所としては廃棄物処理施設での解体・破砕作業中が最も多く、次いで収集車両での火災が続いています。発生品目では、モバイルバッテリーが最も多く、次いで加熱式たばこやコードレス掃除機が多い状況です。
リチウムイオン電池の発火に対する予防策
前述のとおり、リチウムイオン電池が発火する原因は様々です。適切に廃棄されなかったことにより、廃棄物処理での火災事故につながっています。
そのため、政府はリチウムイオン電池を内蔵した「モバイルバッテリー」「携帯電話」「加熱式たばこ」の3品目について、製造や輸入販売を行う事業者を対象に、回収とリサイクルを義務付ける方針です※。
日常生活で使用する際は、リチウムイオン電池の特性にあわせた対応が重要です。以下では、発火を防ぐための対策を解説します。
※出典:経済産業省「指定再資源化製品ワーキンググループ リチウム蓄電池使用製品の回収・リサイクルワーキンググループ」
適切な環境での使用
リチウムイオン電池は高温下で使用すると発火の恐れがあるため、以下の環境での使用は避けてください。
- 直射日光が当たる場所
- 熱がこもりやすい場所
- 暖房器具やガスコンロなどの熱源の近く
特に、温度が80℃以上になると熱暴走が生じやすくなり、発火の危険性が高まります。
物理的損傷への注意
リチウムイオン電池の物理的損傷は内部短絡の原因となるため、以下の点に注意が必要です。
- 製品を落としたり、重いものを載せたりしない
- むやみに分解しない
- 膨張や変形を見つけた場合は使用を中止する
スマートフォンやモバイルバッテリーなどで異常を感じた場合は、すぐに使用を中止しましょう。
正しい方法での充電
リチウムイオン電池の過充電は発火の原因になり得ます。予防策は以下のとおりです。
- 購入時に付属した充電器やメーカー認証の充電器を使用する
- 充電電圧を確認して充電する
- 充電できない、充電中に熱くなるなどの異常を感じたら使用をやめる
適切な方法での充電は、発火を防ぐとともにリチウムイオン電池の劣化軽減に役立ちます。
リチウムイオン電池の発火を防ぐ技術
リチウムイオン電池には、安全に使用するための多くの技術が備わっています。また、発火の危険性自体が少ない電池も開発中です。以下では、リチウムイオン電池の発火を防ぐ技術の例を紹介します。
BMSによる制御
BMS(バッテリーマネジメントシステム)は、リチウムイオン電池をはじめとする二次電池を安全に利用するための制御システムです。BMSには主に以下の機能が備わっています。
- 電圧や電流、温度のリアルタイム監視
- 過電流や過放電、短絡の検知とシャットダウン
- セルバランシング
- SOCやSOHの推定
BMSは主に電気自動車や電動アシスト自転車、産業用機器などに搭載されているシステムです。小型のリチウムイオン電池には過充電や過放電などを防ぐ保護回路が組み込まれ、安全性を高めています。
▶関連記事:BMSとは?主な機能や蓄電池に欠かせない重要な役割を解説
全固体リチウムイオン二次電池
全固体リチウムイオン二次電池は、可燃性の有機電解液の代わりに不燃性の無機固体電解質を使用するリチウムイオン電池です。電極だけでなく電解質まで固体化するため、温度変化に強く、発火の危険性が低いという特徴を有しています。
全固体リチウムイオン二次電池は、現在、社会実装に向けた開発の途上です。大きく硫化物系と酸化物系の2種類があり、特に硫化物系全固体電池は実用化に近づいています。
▶関連記事:全固体電池の種類やメリットと課題、利用用途を解説!実用化はいつ?
リチウムイオン電池の最新動向を把握するなら「BATTERY JAPAN 二次電池展」へ
リチウムイオン電池の研究開発は、安全性の向上を目指して日々進化しています。リチウムイオン電池の最新動向を知りたい方は「BATTERY JAPAN(バッテリージャパン) 二次電池展」にご来場ください。
BATTERY JAPAN 二次電池展には、二次電池に関する以下のような様々な製品・サービスが出展されます。
- 電池用部品・材料
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業界の第一人者によるセミナーも開催されるため、リチウムイオン電池をはじめとする関連技術の動向把握に最適です。
また、BATTERY JAPAN 二次電池展では、展示会への出展を受け付けています。本展示会にご出展いただくと、多くの見込み顧客と出会うことができ、直接自社製品・サービスの特徴を伝えることができます。関連する製品・サービスをお持ちの企業様は、ぜひ出展をご検討ください。
リチウムイオン電池の発火原因を知って適切に対応しよう
リチウムイオン電池の発火の主な原因は、内部短絡や過充電、過放電などです。高温や強い衝撃が原因で発火するケースもあり、廃棄物処理プロセスでの発火を含め、関連する火災事故は増加しています。
リチウムイオン電池には安全性を高める様々な技術が搭載されていますが、火災事故を完全に防げるわけではありません。リチウムイオン電池の特性を把握し、適切に使用することが大切です。
BATTERY JAPAN 二次電池展では、二次電池メーカーやエレクトロニクスメーカーなどの多彩な製品・サービスが展示されます。リチウムイオン電池の最新の動向把握に、ぜひBATTERY JAPAN 二次電池展をご活用ください。
※「BATTERY JAPAN 二次電池展」は、「SMART ENERGY WEEK -スマートエネルギーWeek-」の構成展です。
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他 資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。
その後、経営企画、事業企画等に従事し、技術経営、サプライチェーンマネージメント及び事業継続マネジメント等を推進。
2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて環境経営支援、資源エネルギー技術開発等など社会実証に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 内閣府国土強靭化推進会議 委員他
