ナトリウムイオン電池とは?
注目される理由やメリット・デメリットを解説

ナトリウムイオン電池とは?注目される理由やメリット・デメリットを解説

ナトリウムイオン電池は、現在主流のリチウムイオン電池の代替として期待される二次電池です。二次電池は使い切りの一次電池と異なり、充放電を繰り返して使用できます。

ナトリウムイオン電池は、資源制約が少なく、安定した供給が見込まれるため、今後の実用化・量産化が注目されています。本記事では、ナトリウムイオン電池の基本的な仕組みや注目される理由、メリット・デメリットを解説します。


▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)

肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授

プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他


目次

  • ナトリウムイオン電池とは
  • ナトリウムイオン電池のメリット
  • ナトリウムイオン電池のデメリット
  • 実用化に向けて開発が進む国内外のナトリウムイオン電池
  • ナトリウムイオン電池の現状と今後の動向
  • ナトリウムイオン電池を含む次世代の二次電池
  • ナトリウムイオン電池の情報収集に「BATTERY JAPAN 二次電池展」の活用を
  • ナトリウムイオン電池は「脱リチウム」が期待される次世代の二次電池

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ナトリウムイオン電池とは

ナトリウムイオン電池は、充電して繰り返し使用できる二次電池のひとつです。

ナトリウムイオン電池では、正極にナトリウム金属酸化物、負極にハードカーボンなどの素材が用いられます。充電時には正極から負極へ、放電時には負極から正極へと、正極と負極間をナトリウムイオン(Na+)が移動して、充放電が行われる仕組みです。

ナトリウムイオン電池には、資源制約のあるリチウムやコバルトなどのレアメタルが使用されていません。次世代の蓄電池として、EVやスマートフォン、ノートパソコンなどへの利用が期待されています。
 

ナトリウムイオン電池が注目される理由

ナトリウムイオン電池が注目される理由のひとつに、現在二次電池に使用される資源確保の問題が挙げられます。

二次電池は、生活を支える機器の電力源として欠かせない製品です。近年では、リチウムイオン電池や鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池などの二次電池が各機器に使用されています。

特にリチウムイオン電池は、他の二次電池と比較して同重量・同体積での電圧やエネルギー密度が高い特徴を持ちます。1991年にソニー株式会社が製品化※して以降、EVやノートパソコン、スマートフォンなどの機器で使用されてきました。

しかし、リチウムイオン電池の原料であるリチウムは、産出地域が限定される希少な金属です。EVなどの普及で需要の急激な増加が見込まれますが、需要に対する供給に不安を残しています。

その点、ナトリウムはリチウムと比較すると資源量が豊富で偏在していません。そのため、ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン電池に代わる二次電池として研究・開発が進められています。

二次電池やリチウムイオン電池については以下の記事で詳しく紹介しているため、ぜひあわせてご覧ください。

▶関連記事:二次電池とは?種類・特徴・用途や一次電池との違い、メリットを解説
▶関連記事:リチウムイオン電池の種類は?材料・形状の特徴と安全性・用途を解説

※出典:ソニー株式会社「業界最高レベルのエネルギー密度を実現したリチウムイオン電池 発売〜併せてハイパワー電源に適した高出力筒型リチウムイオン電池も発売〜」

ナトリウムイオン電池のメリット

ナトリウムイオン電池は、前述のとおり資源量の豊富さが大きなメリットです。その他、充電速度や使用温度範囲などの面でも有利とされています。
 

資源が豊富で低コスト化を図れる

ナトリウムは、地殻中に存在する元素のなかで6番目に多い元素です。海水にも多く含まれており、資源量が豊富で偏在しておらず、安価に入手できます。レアメタルであるリチウムやコバルトなどと比較すると、低コストでの製造を見込める点がメリットです。

また、リチウムイオン電池では、正極や負極の集電体として銅箔が使用されています。一方、ナトリウムとアルミニウムは合金化しないため、ナトリウム電池では集電体にアルミ箔を用いることで、コスト削減が可能となります。

充電速度が速い

ナトリウムイオン電池は充電速度が速く、EVやスマートフォンをはじめとする機器の急速充電が期待されています。

例えば、中国の湖南立方新能源科技と湖南鈉方新能源科技が開発したナトリウムイオン電池では、常温環境での約15分の充電時間で80%程度の急速充電※が可能です。

現状でもリチウムイオン電池と同等またはそれ以上の充電速度を持っており、将来的にはさらなる急速充電の可能性が見込まれています。

※出典:日本貿易振興機構「湖南立方新能源科技など、新しいEV用ナトリウムイオン電池を発表」

使用温度範囲が広い

使用温度範囲とは、二次電池を含む電子機器が適正な状態で連続使用可能な温度の範囲です。使用温度範囲よりも高温または低温の環境で充放電を繰り返すと、電池の能力や容量が劣化する恐れがあります。

製品により異なりますが、ナトリウムイオン電池の使用温度範囲は-20℃~60℃程度です。開発が進むナトリウムイオン電池のなかには、-40℃~80℃の使用温度範囲の製品も報告されています。

一方、一般的なリチウムイオン電池の使用温度範囲は0℃~35℃程度です。ナトリウムイオン電池は、冬に氷点下となる地域や体温を超える環境下でも使用しやすい側面を持っています。

既存の製造設備の流用が見込める

ナトリウムイオン電池とリチウムイオン電池は、電解液中を移動するイオンが異なりますが、基本的な構造は類似しています。

そのため、ナトリウムイオン電池の製造設備は、既存のリチウムイオン電池で使用される製造設備や施設を流用可能です。既存設備の活用により初期投資を軽減できるメリットがあります。

ナトリウムイオン電池のデメリット

ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池の代替製品として注目される一方、現時点ではいくつかのデメリットがある点も事実です。以下では、主なデメリットを解説します。
 

エネルギー密度が低い

エネルギー密度とは、電池から取り出せる単位質量または単位体積あたりのエネルギー量です。Wh/kgまたはWh/Lで表され、エネルギー密度が高いほど、供給できるエネルギー量も多くなります。

ナトリウムイオン電池のエネルギー密度は、200Wh/kgに届かない製品が多い現状です。

一方、高性能なリチウムイオン電池のエネルギー密度は、200~270Wh/kgに達しており、性能面でリチウムイオン電池が有利です。ナトリウムイオン電池が市場で優位性を確保するためには、今後のエネルギー密度向上につながる研究が求められます。

新たな正極材料や負極材料を開発する必要がある

ナトリウムとリチウムは類似した性質を持つアルカリ金属であり、類似構造の二次電池を製造できる点がメリットです。

しかし、ナトリウムはリチウムと比較して3倍の原子量、2倍のイオン体積を持つ元素です。電荷を運ぶイオンもリチウムイオンからナトリウムイオンへと変わるため、リチウムイオン電池の電極材料をそのまま使用することはできません。

したがって、ナトリウムイオン電池では、新たな正極材料や負極材料などの開発が必要な点が課題です。現在、正極材料ではポリアニオン化合物やプルシアンブルー類、負極材料ではハードカーボンやソフトカーボンなどの研究・開発が進められています。

実用化に向けて開発が進む国内外のナトリウムイオン電池

近年、リチウムイオン電池を中心とする電池分野では、中国・韓国のメーカーが世界シェアの多くを握っています。以下では、国内外のナトリウムイオン電池の研究・開発事例を解説します。
 

【中国】寧徳時代新能源科技(CATL)

中国のCATL(寧徳時代新能源科技)は、中国最大手の車載リチウムイオン電池メーカーです。国内でのEV市場の成長もあり、CATLは世界の生産能力で50%のシェア※を誇っています(2020年)。

CATLは長年ナトリウムイオン電池の開発を進めており、近年、EVでのナトリウムイオン電池の実用化を開始しました。

CATLが開発したナトリウムイオン電池は、一般的な使用温度範囲より低い温度環境でも性能を保持できる点が特徴です。充電速度の向上も図られており、本格的な量産と電気自動車への搭載に向けた投資が行われています。

※出典:国立研究開発法人科学技術振興機構「中国の先端研究者から見た次世代蓄電池の研究開発動向」

【韓国】韓国科学技術院(KAIST)

韓国科学技術院(KAIST)は、高度な研究者・科学者の育成を目的に設立された国立大学です。韓国の科学技術発展に大きな役割を担う研究機関であり、その一環として、ナトリウムイオン電池の研究開発も進められています。

KAISTの研究チームは、2024年3月に高出力のナトリウムイオン蓄電技術の開発成功※を発表しました。

KAISTが開発した技術には、ナトリウムイオンハイブリッドエネルギー蓄電(SIHES)が採用されています。これは、ナトリウムイオン電池の負極材料とナトリウムイオンキャパシタの正極材料を活用した技術です。

KAISTが開発したナトリウムイオン電池は、高いエネルギー密度と安定した充放電効率を示しており、今後EVをはじめとした多様な業界での活用が期待されています。

※出典:KAIST「KAIST Develops Sodium Battery Capable of Rapid Charging in Just a Few Seconds」

【日本】日本電気硝子株式会社  

日本電気硝子株式会社は、液晶ディスプレイや特殊ガラス製品の製造などを手掛ける企業です。結晶化ガラスの研究・開発で得られた技術をもとに、全固体ナトリウムイオン電池の開発にも取り組んでいます。

全固体ナトリウムイオン電池は、正極や負極、電解質部分を安定した酸化物材料で構成している点が特徴※1です。発火や有毒ガスの発生リスクがなく、-40℃~200℃までの広い使用温度範囲が備わっています。

2024年2月に、日本電気硝子株式会社は、全固体ナトリウムイオン電池のサンプル出荷を開始※2しました。電気自動車や船舶、産業用機械や発電所の蓄電システム、スマートフォンなど幅広い用途での活用を想定しています。

※1 出典:日本電気硝子株式会社「オール酸化物全固体ナトリウム(Na)イオン二次電池」
※2 出典:日本電気硝子株式会社「全固体ナトリウムイオン二次電池のサンプル出荷を開始」


【日本】戸田工業株式会社と鳥取大学

戸田工業株式会社は、200年の歴史がある微粒子に関する化学素材メーカーです。国立大学法人鳥取大学とともに研究を推進し、ナトリウムフェライトを用いたナトリウムイオン電池を開発※しています。

戸田工業株式会社が開発したナトリウムフェライトは、ナトリウムイオン電池の負極材料への活用が期待されています。

※出典:戸田工業株式会社・国立大学法人鳥取大学「戸田工業と鳥取大学が酸化鉄(ナトリウムフェライト)を負極と正極に用いた革新的なナトリウムイオン電池を共同開発」 
 

ナトリウムイオン電池の現状と今後の動向

現在、世界各国の企業がナトリウムイオン電池の開発を進めています。特に中国では、政府が実施する政策の後押しもあり、研究・開発が活発な状況です。2020年代の早期という諸外国より早い時期を目標に、ナトリウムイオン電池の量産化を加速させています。

欧米では、イギリスのFaradion Limited社やフランスのTiamat Energy社、アメリカのNatron Energy社などが主要メーカーとしてナトリウムイオン電池を開発しています。

ナトリウムイオン電池市場はサプライチェーン形成の途上にあり、市場拡大の見通しには未知数な部分が多い分野です。将来的に大きな市場となる可能性もあり、今後の動向が注目されています。

ナトリウムイオン電池を含む次世代の二次電池

現在主流のリチウムイオン電池は、原材料の確保や安全性の向上などの課題を残しています。リチウムイオン電池の課題をクリアするため、ナトリウムイオン電池を含む次世代の二次電池が開発されています。
 

※出典:経済産業省「蓄電池産業の競争力強化に向けて」

例えば、全固体リチウムイオン電池は、現行のリチウムイオン電池の電解液を固体に変えることで優れた安全性を目指しています。資源制約の少ないナトリウムやカリウムの活用も重要な選択肢です。

ナトリウムイオン電池の情報収集に「BATTERY JAPAN 二次電池展」の活用を

EVやスマートフォンの普及により、繰り返し充電が可能な二次電池の需要は高まっています。二次電池に関連するビジネスに携わっているなら、最新の情報に触れ、理解を深めるプロセスは重要です。

ナトリウムイオン電池を含め、二次電池の情報収集をしたい方は「BATTERY JAPAN(バッテリージャパン) 二次電池展」にぜひご来場ください。

BATTERY JAPAN 二次電池展は、二次電池の研究・開発に関する技術や装置、部品や材料が集う電池分野世界最大級の展示会です。

出展対象製品は、正極材や負極材などの材料、ナトリウムイオン電池やリチウムイオン電池、マテリアルズインフォマティクスやデータ解析サービスの材料開発支援など多岐に渡ります。世界各国の専門家も来場するため、最新の知見に触れる良い機会です。

BATTERY JAPAN 二次電池展には、二次電池メーカーや自動車メーカーなど、二次電池に関わる多くの方が来場します。多様な方々との関係性が構築できる場となるため、関連する技術をお持ちの企業様は、ぜひ出展もご検討ください。

BATTERY JAPAN 二次電池展 詳細はこちら
 

ナトリウムイオン電池は「脱リチウム」が期待される次世代の二次電池

ナトリウムイオン電池は、資源が豊富で使用温度範囲が広い点がメリットです。レアメタルを使用するリチウムイオン電池に代わる二次電池として、実用化が進められています。

ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン電池と比較するとエネルギー密度が低く、適した材料の開発が課題です。中国をはじめとする各国で研究・開発が進んでおり、今後の動向が注目されます。

BATTERY JAPAN 二次電池展は、二次電池ビジネスの重要なプラットフォームとして定着している展示会です。ナトリウムイオン電池を含む二次電池の理解に、ぜひご活用ください。

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※「BATTERY JAPAN 二次電池展」は、「SMART ENERGY WEEK -スマートエネルギーWeek-」の構成展です。

【出展社・来場者募集中!】
ナトリウム電池に不可欠な技術が集まる「BATTERY JAPAN 二次電池展」

▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)

肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授

プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他


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