メタネーションとは?
カーボンニュートラルとの関係やメリット、実用化の例を解説

メタネーションとは?カーボンニュートラルとの関係やメリット、実用化の例を解説

2050年のカーボンニュートラル実現に向け、ガスの脱炭素化が求められる今、プラン達成の鍵を握る技術として「メタネーション」が注目を集めています。

都市ガスに含まれるメタンを、メタネーションで作り出した合成メタンに置き換えれば、大気中のCO2量の増加を実質的に抑えられるためです。

本記事では、メタネーションの概要や歴史からメリット、実用化に向けた企業の取り組みまで紹介します。メタネーションの理解を深めたい方、カーボンニュートラルに向けた取り組みでエネルギービジネスを加速させたい方は、本記事で紹介する情報を有効活用してください。

 

メタネーションとは水素とCO2(二酸化炭素)からメタンを合成する技術

メタネーションは、水素とCO2(二酸化炭素)から人工的にメタンを合成する技術です。メタネーションで合成したメタンは「合成メタン」「カーボンニュートラルメタン」「e-methane」などと呼ばれ、ガスの脱炭素化に役立つと期待されています。

メタンは自然界にも存在する物質で、都市ガスの原料となる天然ガスの主成分です。化学品やプラスチック製品の原料にも使われており、私たちの生活や産業に欠かせないものです。

しかし、メタンが含まれる都市ガスは燃焼時にCO2を排出するため、地球温暖化の原因になり得ます。都市ガスは工場や家庭での蒸気加熱、給湯、暖房など様々な用途に使われるので、カーボンニュートラル実現のためには軽視できない問題です。

この問題の解決手段として期待されている技術がメタネーションです。工場や発電所で排出されたCO2を分離・回収しメタネーションに使えば、合成メタン燃焼時に排出されるCO2と相殺できるため、大気中のCO2量の増加を実質的に抑えられます。

一般社団法人日本ガス協会の試算※では、2050年に都市ガスの90%が合成メタンに置き換われば、年間約8,000万トンのCO2削減効果が得られる見込みです。

ちなみに、CO2とともにメタネーションの原料となる水素も、再生可能エネルギーによる電力で水を電気分解してつくる「グリーン水素」を使えば、CO2排出抑制となり環境負荷はかかりません。

こうした理由から、メタネーションで作り出した合成メタンの利用は、ガスの脱炭素化を進め、カーボンニュートラルの実現に向けた大きな一歩になると考えられています。

※出典:経済産業省 資源エネルギー庁「ガスのカーボンニュートラル化を実現する「メタネーション」技術」


メタネーションの歴史と今後
メタネーションの歴史は、1911年にまでさかのぼります。フランスの化学者ポール・サバティエが、ニッケルを触媒にしてCO2と水素を高温で反応させると、メタンと水を得られることを発見したのが始まりです。この反応は「サバティエ反応」と呼ばれ、メタンを人工的に合成する技術として、さらなる研究開発が進められました。

そして、1995年、日本が世界初のメタネーションによる合成メタンの製造に成功します。その後、メタネーションの取り組みは、日本やヨーロッパを中心にますます活発化していきました。

2020年11⽉に一般社団法人日本ガス協会が策定した「カーボンニュートラルチャレンジ2050」では、アクションプランのひとつとしてメタネーション実装が掲げられています。今後は2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、メタネーション導入を検討する企業がますます増えていくかもしれません。

カーボンニュートラルチャレンジ 2050のアクションプラン(一部抜粋)※

  • 2030年時点で、既存の都市ガス導管へ合成メタンを1%以上注入する(年間28万トン)
  • 2050年時点で、全体の90%(年間2,500万トン)を合成メタンに置き換える
  • 2050年時点で、合成メタン価格を現在のLNG価格と同水準にすることを目指す

※出典:一般社団法人日本ガス協会「カーボンニュートラルチャレンジ2050 アクションプラン」

 

メタネーションのメリット

メタネーションの推進により得られる、具体的なメリットを3つ紹介します。

  • カーボンニュートラル化に貢献できる
  • 環境負荷を軽減できる
  • 既存の都市ガスインフラを活用できる


カーボンニュートラル化に貢献できる
カーボンニュートラルとは、CO2など温室効果ガスの排出量から吸収・除去量を差し引き、実質的な排出量をゼロにする取り組みをいいます。2020年10月に政府の宣言として2050年までのカーボンニュートラル実現が掲げられたため、現在は様々な企業や地方自治体が脱炭素の取り組みを進めているところです。

メタネーションでは、発電所や工場などから排出されたCO2を利用して合成メタンを作り出します。そのため、都市ガスの原料となる天然ガスのメタンを合成メタンに置き換えれば、燃焼時に排出されるCO2の相殺が可能です。

メタネーションを進めれば、全体で見た時にCO2排出量を増やさずにすむため、ガスのカーボンニュートラル化に貢献できます。

カーボンニュートラルについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

▶関連記事:カーボンニュートラルに向けた取り組みとは?国際的な背景と企業の導入事例を紹介


環境負荷を軽減できる
メタネーションでは発電所や工場などから回収したCO2を利用するため、合成メタンから成る都市ガスを使用することでガスの脱炭素化が進み、環境負荷を軽減できます。

特筆すべきは、そもそも天然ガス自体が、石炭や石油よりも燃焼時のCO2排出量が少ない特徴を持っている点です。まずは石炭や石油から天然ガスに燃料転換を進め、将来的に合成メタンへの置き換えを実行し、段階的な環境負荷の軽減を目指せます。


既存の都市ガスインフラを活用できる
メタネーションには、追加コストを抑えながらカーボンニュートラル化を推進できるメリットがあります。なぜなら、合成メタンへの置き換えは、既存のガス機器やガス導管などの都市ガスインフラをそのまま活用して実行できるためです。

メタネーション設備への投資さえ行えば、大きなコストや手間をかけずにガスの脱炭素化を実現できます。

 

メタネーションの課題

メタネーションは、カーボンニュートラル実現に貢献する重要な技術です。しかし、メタネーションの普及には克服しなければならない課題もあります。

  • 製造コストが高い
  • 環境付加価値の可視化が必要となる
  • メタネーション設備の大型化が求められる


製造コストが高い
メタネーションで得られる合成メタンには、製造コストが高い課題があります。

その理由は、メタネーションにより完全な脱炭素化を実現するには、原料の水素に「グリーン水素」を用いる必要があるためです。グリーン水素は再生可能エネルギー由来の電力で作るため大量に安定調達することにも課題があり、どうしてもコストがかさみやすくなります。

また、合成メタンの生成には、グリーン水素の他に設備コストや原料となるCO2の調達コストもかかります。そのため、メタネーションを進めるには、大量かつ低価格のCO2・水素・再生可能エネルギーの確保と、安定した供給体制の確立が必要です。


環境付加価値の可視化が必要となる
製造コストが高い合成メタンを普及させるには、環境付加価値の可視化が重要課題です。具体的には、LCA(ライフサイクルアセスメント)などを活用した合成メタンの環境付加価値を客観的に評価できる仕組みや、制度の整備が必要です。

製造コストが高くても、それ相応のメリットを示せれば、合成メタンの需要は高められます。合成メタンの普及が進めば、メタネーション設備の導入に踏み切る企業も増えていくでしょう。


メタネーション設備の大型化が求められる
合成メタンの商用化には、1時間あたり1万~6万Nm3を製造できるメタネーション設備が必要だといわれています。

しかし、現状は世界最大級といわれるメタネーション装置でも1時間あたり500Nm3の製造能力しかありません。合成メタンの商用化に向けて、今後はメタネーション設備のさらなる大型化が求められます。

 

メタネーション実用化に向けた企業の取り組み

カーボンニュートラルを実現するには、メタネーションの実用化など企業単位での具体的な取り組みが必要です。メタネーション実用化を目指すなら、すでに取り組みを進めている企業の実例が役立ちます。


株式会社IHI
株式会社IHIは2022年10月より、短納期かつ高拡張性を持つ小型メタネーション設備の販売を行っています※。今後は2030年までに、1時間あたり数千~数万Nm3の合成能力を持つメタネーション装置を国内外で商用化する予定としています。

※出典:株式会社IHI「CO₂と水素から燃料をつくる,メタネーション装置を販売開始~設計標準化により,短納期かつ高拡張性を実現~」


日立造船株式会社
日立造船株式会社は、独自の高性能触媒を用いた、試験用の小型メタネーション試験装置を販売しています※。この装置は1時間あたり0.1Nm3の製造能力があり、メタン化試験やPower to Gas(クリーンなエネルギーとして活用すること)の研究用途として提供しています。

また、同社は環境省委託事業として、神奈川県小田原市の清掃工場に国内最大級(125Nm3/h)のメタネーション設備を建設し、実証運転を開始しました。

※出典:日立造船株式会社「電気分解技術・メタネーション メタネーション装置」


大阪ガス株式会社
大阪ガス株式会社は、株式会社INPEXとの共同事業で、2021年からメタネーション実証事業を開始しました※1。その後、2023年に世界最大級となる家庭用1万戸分に相当するメタネーション設備の建設にも着手しています。

さらに、2025年からは当該設備を用いてINPEX長岡鉱場内から回収したCO2を使って合成メタンを製造し、都市ガスパイプラインへの注入を行う予定です※2。

※出典1:大阪ガス株式会社「世界最大級のメタネーションによるCO2排出削減・有効利用実用化技術開発事業における試験設備の建設開始について ~都市ガスのカーボンニュートラル化の実現に向けて~」
※出典2:大阪ガス株式会社 公式サイトより


横河電機株式会社
横河電機株式会社は、メタン生成菌を活用した微生物的メタネーションを研究開発しています※。微生物的メタネーションの研究開発には、同社のレーザー分析やpHセンサの測定技術が活かされています。

同社が微生物によるメタン生成技術の開発に乗り出したのは、熱源を必要とする従来のメタネーションでは、エネルギーの消費が少なからず発生するためです。メタン生成菌を活用し、CO2を水素と化学反応させれば、よりエネルギー消費の少ないメタネーションの実現が期待できます。

※出典:横河電機株式会社「真に豊かに生きる循環型社会に向けた未来へのシナリオ」

 

エネルギービジネスを加速させるなら「CCUS WORLD」へ

メタネーションに用いるCO2の分離・回収・利用・貯蔵技術の情報を集め、エネルギービジネスを加速させたい方は、「CCUS WORLD(シーシーユーエスワールド)」へご参加ください。

CCUS WORLDとは、世界最大級のエネルギー総合展「スマートエネルギーWeek(SMART ENERGY WEEK)」内に新設された特別展示エリアです。

CCUS WORLD には、CO2の分離・回収・貯留技術、メタネーション・合成燃料の利用技術などCCUSに関する様々な製品・技術が出展します。来場すれば、メタネーションに活用可能な技術や製品の情報を効率的に集められるでしょう。

また、CCUSに関する製品・技術をお持ちの企業は、CCUS WORLDへの出展をご検討ください。

当展示会には、CCUS技術の活用でカーボンニュートラルを実現したいあらゆる業種の方々が来場します。展示によって製品・技術の認知拡大を図れる他、個別商談での提案や見積も可能なため、新規顧客の獲得に繋がるケースもあります。

来場、出展ともにメリットのある展示会のため、ぜひ参加をご検討ください。

「CCUS WORLD」来場・出展案内はこちら

なお、会場では水素の社会実装に向けて、水素を「つくり」「はこび」「ためて」「つかう」ためのあらゆる技術が出展する展示会「H2 & FC EXPO 水素燃料電池展」も同時開催しています。

その他、「PV EXPO 太陽光発電展」や「WIND EXPO 風力発電展」など、太陽光や風力といった再生可能エネルギーに関する展示会も開催するため、ぜひあわせて足をお運びください。

「H2 & FC EXPO 水素燃料電池展」の詳細はこちら
「PV EXPO 太陽光発電展」の詳細はこちら
「WIND EXPO 風力発電展」の詳細はこちら

※「H2 & FC EXPO 水素燃料電池展」「PV EXPO 太陽光発電展」「WIND EXPO 風力発電展」は、「スマートエネルギーWeek(SMART ENERGY WEEK)」の構成展です。

 

カーボンニュートラルに向けてメタネーション設備の導入の検討を

メタネーションとは、水素とCO2から人工的にメタンを合成する技術です。工場や発電所で排出されたCO2を回収してメタネーションに使えば、合成メタン燃焼時に排出されるCO2と相殺できるため、カーボンニュートラル実現に役立ちます。

メタネーションでの合成メタン製造にはコストや設備能力などの課題があるものの、すでに実証実験などの取り組みをはじめている企業もあります。

メタネーションには再生可能エネルギーも深く関係しているため、導入を検討する際はエネルギービジネス全体への理解を深めることが不可欠です。エネルギービジネスの最新情報を効率的に集めたい方は、ぜひスマートエネルギーWeekの特別企画CCUS WORLDへご参加ください。

「CCUS WORLD」の詳細はこちら

※「CCUS WORLD」は、「スマートエネルギーWeek(SMART ENERGY WEEK)」の特別企画です。

 

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▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、サーマルリサイクル技術に関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他