人工光合成とは?脱炭素社会の実現に向けた技術の基礎知識と研究開発の進捗を紹介

人工光合成とは?脱炭素社会の実現に向けた技術の基礎知識と研究開発の進捗を紹介

人工光合成は太陽エネルギーを活用し、水素や酸素の生成を目指す技術です。2050年カーボンニュートラルの実現に向けて実用化が期待されています。

カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みは、日本だけでなく世界的に促進されているため、新しいエネルギーに関連する技術や情報を知ることが大切です。

本記事では、人工光合成の基礎知識や実用化に向けた研究開発の進捗などを紹介します。


▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)

肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授

プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他


目次

  • 人工光合成とは
  • 人工光合成によって化学品を生み出すプロセス
  • 人工光合成の技術が注目される背景
  • 人工光合成を活用するメリット
  • 人工光合成の実用化に向けた日本の動向
  • 新エネルギーの最新技術・情報を知るなら「SMART ENERGY WEEK」へ
  • クリーンな水素を生み出す人工光合成の実用化が期待されている

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人工光合成とは

人工光合成とは、太陽光を化学エネルギーに変換する技術です。植物が太陽光を利用してCO2(二酸化炭素)と水から水素と酸素を作り出す仕組みを模しており、触媒などの道具を利用して行うため「人工光合成」と呼ばれます。

日本は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指しており、人工光合成はカーボンニュートラルを実現するための鍵となる技術のひとつです。

主に化学産業で活用が期待されており、実用化に向けて研究開発が進められています。
 

人工光合成によって化学品を生み出すプロセス      

人工光合成の技術は、日本が国際的に強みを持つ触媒技術です。人工光合成によって化学品を生み出すプロセスは、大きく3つに分かれます。

以下では、プラスチックなどの原料となる「オレフィン」を例に、人工光合成によって化学品を生み出すプロセスを紹介します。
 

①光触媒を活用し、水を水素と酸素へ分解する    

水を水素と酸素に分解するプロセスでは、光に反応して特定の化学反応を促す「光触媒」を利用します。

光触媒に光を当てることで電気を使わずに水を酸素と水素に分解できるため、生産段階でCO2が生じないことが特徴です。

人工光合成では、太陽エネルギーからどの程度の効率で水素を生成できるかという「エネルギー変換効率」が重要です。そ民間企業や教育機関、公的機関がエネルギー変換効率を高める研究を進めています。

②混合気体から水素のみを取り出す

水素と酸素の混合物は爆発を起こしやすいため、「分離膜」を利用して水素のみを取り出します。

人工光合成の実用化には安全性の担保が不可欠であり、水素と酸素を効率的に分離させることが大切です。民間企業や教育機関、公的機関は、高性能の分離膜の開発を進めています。

③水素とCO2を反応させて化学品を合成する

分離させた水素と工場などから排出されるCO2を反応させ、化学合成を促す「合成触媒」を使って、高効率にオレフィンを生成します。

水素の生産段階だけでなく、化学品の合成段階でも工場などから排出されるCO2を削減することが可能です。

人工光合成の技術が注目される背景

日本では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて様々な業界がCO2排出量の削減に取り組んでいます。

CO2排出量を産業別に見ると、プラスチックなどの製品の原料を製造する「化学工業」が2位となっており、1位の鉄鋼業と3位の機械製造業を含めた3つの産業で全体の約60%を占めています※。

そのため、カーボンニュートラルの実現に向けて、化学工業のCO2排出量の削減が欠かせません。

こうした背景を踏まえて、化学工業を含む化学産業では、人工光合成技術の活用やCO2回収・利活用、バイオプラスチックの活用などを目指しています。

※出典:環境省「2.3 産業部門におけるエネルギー起源CO2」

人工光合成を活用するメリット

人工光合成の技術は、まだ実用化の段階にはありませんが、研究開発が進み活用されると様々なメリットが得られます。人工光合成を活用する主なメリットを以下で紹介します。
 

CO2削減が期待できる

人工光合成のプロセスでは、CO2を排出しません。そのため、人工光合成の技術が実用化すると、CO2排出量の大幅な削減が期待できます。

また、化学品の合成段階では工場などから排出されるCO2を利用します。化学産業界のCO2排出量の削減だけでなく、他業界のCO2排出量の減少にもつながります。

新エネルギーとして活用できる

太陽エネルギーを直接利用できる技術は限られており、現状では太陽電池、バイオマス、太陽熱利用の3種類とされています。

人工光合成は太陽光を水素などのエネルギーに直接変換できるため、新しいエネルギー源として活用できるメリットがあります。

また、日本では主力電源となる火力発電の燃料や化学製品など、様々な分野で化石資源が使われていますが、化石燃料の約83%を海外からの輸入に頼っている状況※です。

人工光合成の技術が実用化すると、水素エネルギーとしての活用や、生成したオレフィンをプラスチックなど化学製品の原料として活用できるため、脱化石資源にもつながります。

※出典:経済産業省「エネルギー自給率の推移」

人工光合成の実用化に向けた日本の動向

人工光合成の実用化には、光触媒・分離膜・合成触媒の研究開発が不可欠です。

日本では、人工光合成の実用化に向けたプロジェクトとして、2012年に経済産業省が支援する「ARPChem」がはじまり、三菱ケミカル株式会社、富士フイルム株式会社、株式会社INPEXなどの関連企業が組合員として参加しています※1。

2014年には国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に引き継がれ、日本を代表する企業、大学、国立研究機関など、産学官の連携によって現在も研究開発が進められている状況です※2。

人工光合成の技術の実用化には、植物の光合成の太陽エネルギー変換効率を大幅に上回らなければなりません。

一般的に、植物の光合成における太陽エネルギー変換効率は0.2%~0.3%とされていますが、人工光合成は2017年時点で3.7%の太陽光エネルギー変換効率を達成しており※2、2019年度には7%を達成しています※3。

さらに、2021年には株式会社豊田中央研究所が、世界最高の太陽光変換効率10.5%を達成しており※4、人工光合成の実用化に向けた研究開発は確実に成果を上げています。

※1出典:経済産業省「研究開発の促進」
※2出典:経済産業省「CO2を“化学品”に変える脱炭素化技術「人工光合成」」
※3出典:経済産業省「太陽とCO2で化学品をつくる「人工光合成」、今どこまで進んでる?」
※4出典:株式会社豊田中央研究所「太陽光と水でCO2を資源に!世界最大級の1メートル角人工光合成セルで世界最高の太陽光変換効率10.5%を実現」


「人工光合成型化学原料製造事業化開発」プロジェクトが発足

2021年にはNEDOのグリーンイノベーション基金を活用した「人工光合成型化学原料製造事業化開発」プロジェクトがスタートしており※、人工光合成の研究開発は次のステージに進んでいます。

グリーンイノベーション基金とは、企業などのカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みに対し最長10年間の継続的な支援を行うものです。

同プロジェクトでは、人工光合成によるクリーンな水素製造システムを提供するためにARPChem参加各社の技術を組み合わせ、早期の実用化を目指しています。

ロードマップでは、2030年までに研究開発を進め、既製品と同価格を目指しており、2032年には一部事業化することを計画しています。

※出典:NEDO 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発」

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2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、人工光合成をはじめとした新エネルギーの研究開発が進んでいます。

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クリーンな水素を生み出す人工光合成の実用化が期待されている

人工光合成は、太陽光を化学エネルギーに変換し、CO2を排出せずに水素などを生産する技術です。特に化学産業での活用が見込まれており、脱化石資源や脱炭素につながる技術として期待されています。

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、人工光合成を含めた新エネルギーの技術は日々進歩しており、最新の情報を知ることが大切です。

SMART ENERGY WEEK -スマートエネルギーWeek-は、世界最大級の新エネルギー総合展です。新エネルギーの最新情報を知りたい方は、ぜひご来場ください。

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▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)

肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授

プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他


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