電力取引市場とは?
日本の取引市場JEPXの仕組みや種類、特徴を解説
電力取引市場とは?日本の取引市場JEPXの仕組みや種類、特徴を解説
電力取引市場とは、発電事業者や小売事業者などが参加し、電力を取引する市場です。電力の小売全面自由化が実施されて以降、変動する電力需給への対応や市場原理の導入による価格の安定などを目的として設置されました。
本記事では、電力取引市場の概要や仕組み、JEPX(日本卸電力取引所)に設けられた市場の種類や特徴、JEPX以外の電力取引市場を解説します。
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他
電力取引市場とは
電力取引市場とは、発電事業者や小売電気事業者が電力を取引する市場です。
国内では、電力の全面自由化のなか、JEPX(日本卸電力取引所)が創設されました。JEPXは2003年に設立され、日本で唯一、電力の取引ができる市場です。
電力取引市場は、貯蔵が難しい電力の需給調整を円滑に進める役割を担います。近年はJEPXの市場を通じて多くの電力が取引されており、JEPXは電力産業にとって欠かせない存在です。
電力取引市場の仕組み
電力取引市場では、発電事業者や電気事業者が電力を売りに出し、電気事業者や小売電気事業者が購入する仕組みで市場が成立します。
例えば、JEPXの一日前市場(スポット市場)では、1日24時間が30分ごとに区切られ、それぞれの時間帯ごとにインターネット上の取引システムで入札が行われます。インターネットを通じて電力が取引されることで、効率的な電力の需給調整が行われる仕組みです。
なお、価格は電力の供給と需要によって決まります。前述した一日前市場(スポット市場)で採用されているのは「ブラインド・シングルプライスオークション方式」で、決定された約定価格で電力が売買されます。ブラインドとは、入札時に他の参加者の入札状況が見えない状態をさします。
JEPX(日本卸電力取引所)の電力取引市場の種類
JEPXには、主要市場である一日前市場(スポット市場)と当日市場(時間前市場)の他、複数の市場が設置されています。主な電力取引市場は以下のとおりです。
- 一日前市場(スポット市場)
- 当日市場(時間前市場)
- 先渡市場
- 間接送電権市場
- ベースロード市場
- 非化石価値取引市場
各電力取引市場の特徴や取引方法を紹介します。
一日前市場(スポット市場)
一日前市場は「スポット市場」とも呼ばれ、翌日に受け渡す電力を取引する市場です。他の市場参加者の入札が開示されない状態で入札が行われ、需給曲線の交わるところで約定価格や取引される電力量が決定されます。
一日前市場(スポット市場)はJEPXの主要な市場として扱われます。そのため、一日前市場(スポット市場)の約定価格は一般的な電力取引の市場価格と見なされることが多いです。
当日市場(時間前市場)
当日市場は「時間前市場」とも呼ばれ、急な発電量の減少や電力需要の急増など、不測の需給ミスマッチを調整するための市場です。
当日市場(時間前市場)の取引単位は、一日前市場(スポット市場)と同様に30分単位です。ただし、ブラインド・シングルプライスオークションで取引される一日前市場(スポット市場)とは異なり、当日市場(時間前市場)では「ザラ場取引」で電力が売買されます。
ザラ場取引とは、価格優先と時間優先の原則に基づいて取引される方法です。そのため、当日市場(時間前市場)では最も高い買い入札と最も安い売り入札が優先され、同じ価格の場合は発注が早いものが優先されます。
先渡市場
先渡市場は、1ヶ月や1年など、将来の特定期間に受け渡される電力を取引する市場です。取引方法は、当日市場(時間前市場)と同様にザラ場取引が採用されています。
JEPXの先渡市場で取引される商品は主に以下の5つがあります。
※出典:JEPX「日本卸電力取引所取引ガイド」
先渡市場では、年間商品の場合は受渡開始日の3年前から電力の取引が可能です。長期的に電力を確保したい場合に適した市場です。
間接送電権市場
間接送電権市場とは、送電線の混雑が理由で、約定価格がエリアによって異なる場合にエリア間の価格差を解消するため創設された市場です。間接送電権市場の対象エリアは、主に以下の5つの地域間連系線です。
- 北本直流幹線(北海道と東北)
- 東京中部FC(東京と中部)
- 本四連系線(中国と四国)
- 阿南紀北直流幹線(関西と四国)
- 関門連系線(中国と九州)
間接送電権市場では、週間24時間型の商品として電力が取引されます※。ブラインド・シングルプライスオークションで約定され、一日前市場(スポット市場)の決済と同じタイミングで同時間帯に取引所から電気を購入・販売した場合に限定されています。
ベースロード市場
ベースロード市場は、2019年7月に火力や原子力、水力などのベースロード電源を取引する市場として設立されました。
ベースロード電源は発電コストが低く、安定性の高さ特徴です。ただし、そのほとんどは大規模電気事業者が保有しています。ベースロード市場は、大規模電気事業者が保有しているベースロード電源を新電力などでも利用できるようにすることを目的とした仕組みです。
ベースロード市場の取引方法には、シングルプライスオークション方式が採用されています。
非化石価値取引市場
非化石価値取引市場は、再生可能エネルギーやその他の非化石電源で発電された電力を証書化して取引する市場で、大きく「再エネ価値取引市場」と「高度化法義務達成市場」に分かれます。
再エネ価値取引市場はグローバルに運用される形で取引ができ、小売電気事業者および需要家が購入できる市場です。取引対象は「FIT電源」です。
一方、高度化法義務達成市場は小売電気事業者が購入できる市場であり、一定の条件を満たす場合、需要家は発電事業者から非FIT証書を直接取得できます。取引対象は「非FIT電源」です。
JEPX(日本卸電力取引所)以外の電力に関する取引市場
近年では、JEPX以外にもいくつかの取引市場の導入や、これから創設するための検討が行われています。JEPX以外の主な電力取引市場は以下のとおりです。
- 電力先物市場
- 容量市場
- 需給調整市場
- 同時市場
各電力取引市場の概要を紹介します。
電力先物市場
電力先物市場は、事前に価格と量を取り決めた電力を、将来の約束した日に売買する市場です。電力先物市場での取引は、現物での取引と比較して将来的に起こり得る価格変動リスクに備えられるメリットがあります。
日本の電源は火力発電の割合が高く、使用する燃料の多くを輸入していますが、輸入費用は世界情勢により変動するため市場の価格にも影響を及ぼします。
しかし、電力先物市場では取引を決めた時点の価格から変動しないため、市場の価格変動の影響を回避することが可能です。
日本では2019年に東京商品取引所が試験上場を開始し、2020年5月からは欧州エネルギー取引所が取引を開始しました。
2022年4月からは東京商品取引所で先物市場の本格的な運用が始まり、「東エリア・ベースロード」「西エリア・ベースロード」「東エリア・日中ロード」「西エリア・日中ロード」の4商品が上場されています。
容量市場
容量市場は、将来的な電力供給に備えて「容量」を確保するための市場です。容量とは、必要な時に発電できる供給力をさします。容量市場では、電力量が取引される卸電力取引市場と異なり、供給力を取引する点が特徴です。
容量市場の運営主体は電力広域的運営推進機関です。小売電気事業者は電力広域的運営推進機関への容量拠出金の支払いやオークションへの入札により、4年後の電力供給力を確保します。
需給調整市場
需給調整市場は安定的な電力供給を行うため、「調整力」を取引する市場です。需給調整市場では、以下の5つの調整力が取引されます。
- 一次調整力(応動時間10秒以内)
- 二次調整力①(応動時間5分以内かつLFC信号による指令)
- 二次調整力②(応動時間5分以内かつEDC信号による指令)
- 三次調整力①(応動時間15分以内)
- 三次調整力②(応動時間45分以内)
需給調整市場は2021年4月に創設され、2024年度からは5つ全ての商品区分で取引を開始しました。従来、調整力の調達はエリアごとの公募が必要でしたが、需給調整市場の創設により、各エリアにまたがった広域的な需給調整を円滑に行えるようになりました。
同時市場
同時市場は、短期的な電力需給の安定した運用やメリットオーダーを追求する枠組み全体をさす市場です。
同時市場は、供給力(kWh)と調整力(ΔkW)を同時に取引する点が特徴です。経済産業省では同時市場に関する検討会を開催し、同時市場の運営主体の在り方や導入準備の進め方を含め、実現に向けた取り組みを進めています※。
電力取引市場の価格に影響する要因
電力取引市場の価格は、様々な要因から影響を受けます。主な要因は以下のとおりです。
- 燃料価格
- 為替相場
- 電力の需給量
- 季節
- 天気
- 再生可能エネルギーのコスト
- 国際情勢や市場構造の変化
電力取引市場の価格は、燃料価格や為替相場などの発電にかかるコスト、発電量や消費の増減による需給バランスなどにより変動します。再生可能エネルギーのコストや国際情勢も価格に影響を与える要因です。
電力取引市場での約定価格は、発電事業者や小売電気事業者の収益にも影響を与えるため、どのように価格が変動するか注視する必要があります。
電力に関する最新情報を知るなら「SMART ENERGY WEEK」へ
電力の自由化や再生可能エネルギーの普及などを受け、近年では様々な形の電力取引市場が創設され、利用されています。
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SMART ENERGY WEEK -スマートエネルギーWeek-は、水素・燃料電池や太陽光発電、二次電池、スマートグリッドなどの技術が出展され、日本を含む世界各国の専門家が集まる展示会です。
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電力取引市場の普及は低コストで安定した電力供給につながる
電気事業制度の変化に伴い、一日前市場や当日市場、電力先物市場や容量市場など電力取引市場が創設されました。
日本の卸電力取引市場であるJEPXでは、ブラインド・シングルプライスオークションなどの方式により、日々電力が取引されています。市場原理の導入は、電力の需給バランスの調整に役立ち、低コストで安定した電力供給につながります。
SMART ENERGY WEEK -スマートエネルギーWeek-は、水素・燃料電池や太陽光発電をはじめ、電力や新エネルギーに関するあらゆる製品・技術が出展される展示会です。電力や新エネルギーの情報収集を目指す企業様は、ぜひご来場ください。
※「H2 & FC EXPO 水素燃料電池展」「PV EXPO 太陽光発電展」「BATTERY JAPAN 二次電池展」「SMART GRID EXPO スマートグリッド展」「WIND EXPO 風力発電展」「BIOMASS EXPO バイオマス展」「ZERO-E THERMAL EXPO ゼロエミッション火力発電EXPO」「CCUS EXPO -CO2の分離・回収・利用・貯蔵 技術展」は、「SMART ENERGY WEEK -スマートエネルギーWeek-」の構成展です。
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他